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「でも私は男性を仲間にする場合は年下より年上の方がいいと思ってたから、気を落とさなくていい」
「あ、そう……」
なんだか少しだけ救われた気がしたおっさんであった。
「ま、身体は全員16才なんだから、中身が何才だっていいじゃない」
「支配人から与えられた仮の身体だけどな……。そういやこの身体は使用期限を過ぎると消滅するらしいけど、その期間は具体的に決まっているのか?」
「それはアタシ達も知らないのよね。今のところ参加者の中で使用期限が過ぎて身体が消滅した事例は確認してないし」
「ということは、最低五年は保つってことか?」
転生杯が始まったのが五年前なら、そういう計算になる。
「どうかしらね。アタシ達が確認できてないだけで、実際はもっと短いのかもしれない。だからできるだけ早く転生杯を終わらせるに越したことはないわね。きっと他の参加者も同じ考えのはずよ」
転生杯を終わらせる。それはつまり参加者が四人になるまで他の参加者を脱落させる必要がある。
「これまで何人くらい脱落者が出てるんだ?」
「正確な数字は分からないけど、真冬が調べてくれた限りでは30人から40人ってところね」
あと十人ほど増えることを考慮すると、残る参加者は60人から70人くらいか。まだまだ多いな。
「でもそう考えると、後の方の参加者は有利だよな。参加した時点である程度人数は絞られてるわけだから、その分闘わなくて済むことになる」
「それは考え方次第ね。参加が早ければ早いほど、転生杯にも早く順応できるわけだし。実際、後の方の参加者が闘い方も分からないまま、闘い慣れた参加者から倒されるってケースも少なくないわ」
そう言われると確かに。昨日の俺がまさにそうなりかけたし。
「これまで何度も参加者同士による戦闘は行われるけど、そのほとんどが東京で発生してるわ。日本の中心なわけだから、自然と参加者もそこに集まるんでしょうね。アタシと真冬以外にも、昨日の秋人の闘いを察知した参加者も多いんじゃないかしら」
「でも中には転生権とかどうでもいいから殺し合いなんてしたくないって理由で外国に逃げたりしてる参加者もいたりするんじゃないか? もしそういう奴が五人以上いたら、最後の四人になるまで闘うってのは不可能になりそうだが」
この広い地球から、逃亡した参加者を捜し出すのは至難の業だろう。その間に仮転生体の使用期限が過ぎて消滅、なんてことも十分考えられる。
「参加者は本来死人だから、もう戸籍もない。戸籍がないってことはパスポートも取得できないから、外国に逃亡するのは難しいんじゃないかしら」
「私なら偽造パスポートを用意するくらいお手の物」
平然とした顔で真冬が言う。
「……そんなことができるのは真冬くらいだと思うわよ。でもまあ、どっか田舎の山奥に身を隠す程度なら誰でもできるわね」
「そういう奴がいたら厄介だな……」
「だけどあの支配人も、そんな臆病者は参加者に選んでないんじゃないかしら。きっと参加者は絶対に生き残って転生権を勝ち取るっていう強い信念を持った人達ばかりだと思うわよ。少なくともアタシと真冬はそう。秋人もでしょ?」
「……ああ、勿論だ」
あんな最期を遂げておいて、満足のいく人生だったと言えるはずもない。
「転生権の為にも、仮転生体が消滅してしまう前に他の参加者を脱落させる必要がある。だから全員身を隠すどころか、必死になって他の参加者を捜してるはずよ。だからそういう心配はいらないんじゃないかしら」
「……そうだな」
おそらく俺以外にも悲惨な最期を遂げた参加者は多いだろう。だからと言って転生権を譲るつもりはない。必ず転生権を手に入れて、人生をやり直す。俺は改めて決意した。
その後も俺は春香から転生杯について様々なことを教えてもらった。その内容を全部話すと更に長くなりそうなので、今は割愛しよう。
「アタシ達がこれまでに得た情報はこんなところね。他に何か聞きたいことはある?」
「んー、特には……」
いや、待て。まだ一番重要なことを聞いていなかった。
「二人とも、42の痣を持つ参加者に心当たりはないか?」
自宅で三人の死体を発見したあの日、壁には〝42〟と血で描かれていた。あれは間違いなく転生杯の参加者であることを意味している。
「42? 知らないわね……。真冬はどう?」
無言で首を横に振る真冬。どうやら二人とも心当たりはないらしい。
「42番目の参加者がどうかしたの?」
「……何でもない。気にしないでくれ」
まあいい、真犯人探しは後だ。俺にはそいつよりも先に復讐しなければならない奴がいる。それは転生権よりも重要だ。
「色々と有意義な情報を教えてくれてたことには感謝してる。だけど俺との約束はちゃんと守ってもらうからな」
「秋人の復讐に協力しろって話でしょ? 勿論そのつもりだけど、秋人もアタシと真冬の復讐に協力するって約束、忘れないでよ?」
「ああ、分かってる」
それから俺は、俺が死に至るまでの経緯を二人に話した。ある日突然三人の人間を殺した殺人犯にされたこと。検察庁で黒田から悪辣な取り調べを受けたこと。最終的に死刑になったこと……。二人とも真剣な顔つきで俺の話を聞いてくれた。
「冤罪で死刑、か。秋人も災難な人生だったのね……」
こんなことを誰かに話したのは初めてだったので、なんだか少しだけ心が楽になった気がした。しかしそれで俺の復讐心が消えるわけではない。






