再テスト
再テストは予定通り実施され、俺は答案用紙にペンを走らせていく。いいぞ、ちゃんと勉強の成果が出てる。中間テストの時は解読不能な文字が載ってる紙にしか見えなかったが、今はちゃんと解読できる。
しかし一方で、俺は二つの重大な問題に直面していた。一つ目は言うまでもなく、何度も襲ってくる頭痛。これに耐えながら脳を働かせないといけなのは相当しんどい。そして二つ目は……。
俺は度々窓の外に目をやる。ここからだと近くの河川敷が一望できる。つまり朝野と炎丸の闘いの様子が丸見えというわけだ。どうしてもそっちが気になって全然テストに集中できない。
二人の姿まではハッキリと捉えられないが、時折荒々しい炎が燃え上がったり凄まじい爆発が巻き起こったり、激しい戦闘が繰り広げられているのが分かる。つーか本当に人目を気にしないなアイツら。他の生徒達も明らかに気が散ってるみたいだし。
果たして勝つのはどちらか。朝野のことは別に仲間ってわけじゃないとは言ったが、やはり内心では朝野のことを応援していた。もしこの闘いで朝野が敗れたら、さっきのが朝野と交わした最期の会話ということに……。
っていかんいかん、余計なことは考えるな。今はテストに集中しないと。
「ふー……」
なんとか全教科のテストを終え、俺は大きく息をついた。いやあ、しんどかった。色んな意味で。ちなみに答案はその場で先生が採点し、すぐに返却された。結果は……。
「お疲れ様です、秋人さん」
教室を出ると、廊下で千夏が待っていた。
「あれ、なんで千夏がここに? 生徒会の仕事か?」
「その、秋人さんの再テストの結果が気になって、思わず来てしまいました」
「ははっ、意外とせっかちなんだな。わざわざ学校まで来なくてもアジトで待ってれば普通に会えるのに」
「そ、そうですよね。すみません。それで、結果は……?」
「それが……」
目を伏せる俺。それを見て察したのか、千夏は申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「すみません、私の力が足りなかったばかりに……」
俺は全ての答案用紙を千夏に見せた。
「全教科40点以上! 合格だ!」
「……ええっ!? もう、フェイントはやめてください!」
珍しく千夏が怒った。こういう顔も可愛いな。
「ははっ、ごめんごめん。ギリギリの教科もあったけど、合格すればこっちのもんだ。それもこれも全部、千夏のおかげだ。本当にありがとな」
「いえ、私はそんな大したことは……。秋人さんの努力の賜物ですよ」
毎日勉強に付き合ってくれたり、テスト対策ノートを作成してくれたり、十分大したことをしてくれたというのに。千夏は謙虚だな。
それはさておき、気になるのは朝野と炎丸の闘いの行く末だ。再テストの途中で炎も爆発も止んだので、おそらく決着がついたと思われる。勝ったのはどちらか。
「たっだいまー!!」
ちょうどその時、全身傷だらけの朝野が陽気な声と共に廊下を駆けてきた。よかった、生きてたか。
「朝野さん!? どうしてそんなにボロボロなんですか!?」
「あっ、千夏ちゃんだ! ついさっきまで転生杯の参加者と闘ってたんだにゃ!」
「本当ですか!? 早く手当てをした方が……」
「大丈夫大丈夫! これくらいへっちゃらにゃ!」
朝野とすれ違った人達は何事かと思っただろうな。しかし朝野が生きてるってことは、つまり……。
「朝野、勝ったのか?」
「いやー、それがあの炎丸って人なかなかしぶとくて、いくら攻撃を食らわせても全然倒れなかったんだよ。途中から野次馬も集まってきたから、勝負はお預けってことになったんだにゃ。この少女戦士と互角に渡り合うなんて大したものだよ」
決着はつかなかったのか。あんな派手に闘ってたら野次馬が寄ってくるのは当然だろう。しかしまあ、これで俺が炎丸のスキルを奪えるチャンスは残ったわけだし、良しとするか。
「秋人くんは再テストどうだったの?」
「ああ、お陰様で無事に合格したよ」
「おー、おめでとうにゃ! 私も闘った甲斐があったよ!」
「……あれ? そういえば朝野さんも再テストを受けないといけなかったはずでは――」
「まーまー! それより千夏ちゃん、こっち来て!」
千夏と朝野が廊下の端に移動する。
(チャンスだよ千夏ちゃん! 秋人くんをデートに誘うんだにゃ!)
(ででで、デートですか!?)
(そう! 今なら秋人くんは千夏ちゃんに恩を感じてるだろうし、快くオッケーしてくれるはずだよ!)
(で、ですが……!)
(デートに誘うのなんて初めてだろうし凄く勇気がいると思うけど、このチャンスは絶対逃したら駄目にゃ!)
(デートというか、一度食事に誘ったことならありますけど……)
(あるんだ!? だったら楽勝だね! 二回目なら初めてよりハードル低いし!)
(しかしそれは秋人さんにお礼をしたかったからで、その時とは状況が違うというか……)
(状況なんて関係ないよ! いいから誘うんだにゃ!)
また二人で秘密の話か。内容が気になってしょうがないが、前にデリカシーがないと言われてしまった手前、聞くに聞けない。やがて二人が戻ってきた。
残念ながら第2回アーススターノベル大賞は最終選考で落選してしまいました……。
思った以上にショックを受けている自分がいます。なんとか立ち直れるように頑張ります……。






