テスト対決
「いやでも真冬は高校に通ってないんだし、それに生前だって、その……」
「分かってる。生前の私は高一の時に死んでるから、高二の勉強を教えるのはさすがに厳しいんじゃないか。そう言いたいんでしょ?」
「まあ、うん」
「馬鹿にしないで。生前の私は高校に入学する前から高三までの学習内容を完璧に網羅してた。当然、テストは常に学年トップ」
「マジか!? それは凄いな……」
「ん。だから勉強を教わるなら私の方がオススメ」
「待ってください!」
今度は千夏が俺と真冬の会話に割り込んできた。
「真冬さんは転生杯のことで色々と大変だと思いますから、お手間を取らせるわけにはいきません! 私に任せてください!」
「勉強を教えるくらいの時間は取れる。それに千夏だって普段料理を作ったり生徒会の仕事があったりで色々と忙しいはず」
「私だってそれくらいの時間は取れます! 私は転生杯の参加者ではありませんから、こういう時こそ秋人さんの力になりたいんです!」
「その気持ちは分かるけど、それとこれとは話が別。どちらが適任かを考えたら、間違いなく私の方だと断言する」
「確かに単純な頭の良さでは敵わないかもしれませんが、真冬さんにもブランクがあるでしょうし、現役の高校生である私の方がちゃんと教えられると思います!」
「私にブランクなんてない。秋人と違って高校の学習内容は今でも頭の中にバッチリ残ってる」
いかん、なんかただ事じゃない空気になってきた。喧嘩になる前に止めなければ。
「ふ、二人とも落ち着いて……」
「秋人はどっちに教えてもらいたい?」
「秋人さんはどちらに教えてもらいたいですか?」
真冬と千夏が凄い剣幕で俺に詰め寄ってきた。それ俺に聞く!?
「いやまあ……俺は勉強を教えてくれるならどっちでも……」
俺がそう答えると、二人は深々と溜息をついた。
「ほんと秋人は……」
「やっぱり秋人さんは秋人さんですね……」
え、どういうこと?
「ふふっ。面白くなってきたわね」
さっきから静観していた春香がデザートのプリンを口にしながら言った。一体何が面白いんだか。
「アタシから一つ提案なんだけど、二人で勝負をして勝った方が秋人に勉強を教えるってのはどうかしら?」
「は!? 何言ってんだ春香!?」
「だっていつまでも言い争ってたらキリがないでしょ。どちらも一歩も譲る気はなさそうだし。だったら勝負しかないでしょ!」
「いや勝負って、何もそこまで……」
「分かった」
「分かりました」
二人ともめっちゃノリ気!!
「対決方法はそうね……。この間の二年の中間テストを二人にも受けてもらって、点数が高かった方の勝ち。これでどう?」
「ん。異議なし」
「はい。シンプルでいいと思います」
確かにこれならどちらの学力が上なのかもハッキリするが……。
「負けませんよ真冬さん!」
「私だって負けるつもりはない」
目から火花を散らせる真冬と千夏。俺はただ勉強を教えてもらいたいだけなのに、どうしてこうなった。それにしても二人がここまで食い下がるなんて珍しいな。真冬も千夏も普段はここまで好戦的な性格じゃないだろうに。
問題用紙は俺と春香が中間テストで使ったものを流用。しかしさすがに全教科で勝負するのは時間が掛かるため、公民と数学の二教科の合計点で競うことになった。まずは公民から。
「それでは、スタート!」
春香の合図でテスト対決が始まった。二人からはまるで受験本番のような気迫で問題を解いていく。その間暇なので俺は春香とトランプをして時間を潰す。
60分後、公民のテストが終了。早速春香によって採点が行われた。
「結果発表ー! 千夏ちゃん、92点! 真冬、98点!」
「ううっ。負けてしまいました……」
「満点じゃなくて残念」
なんてハイレベルな闘いだ。真冬はあれだけ豪語していただけのことはある。
続いては数学。千夏が勝つには、ここで真冬と7点以上の差をつけなければならない。だがコンピューター技術に長けている真冬が数学で負けるとは思えないし、これは勝負あったか。
「さっ、始めるわよ!」
「待ってください!!」
春香が数学の問題用紙を配ろうとしたその時、千夏が立ち上がった。
「あの、数学のテストの前に何十分か時間を空けてもらいたいんですけど、大丈夫でしょうか!?」
「……まあ確かに連続でテストってのもキツイだろうし、休憩時間は必要よね。真冬もそれでいい?」
「ん」
「それじゃ30分休憩ってことで」
「ありがとうございます!」
千夏は一旦リビングを出ると、数学の教科書とノートを持って戻ってきた。そして切羽詰まった表情でそれらを熟読する。
千夏がインターバルを提案したのは数学の復習をするためか。しかし千夏には悪いけどたった30分でどうにかなるとは思えないし、悪足掻きにしかならないだろう。
「……千夏。そんなに勝ちたいの?」
必死な千夏の様子を見て、真冬が尋ねる。
「はい、勿論です!」
「どうして?」
「どうしてって、それは……。と、とにかく絶対に負けたくないんです!」
「……そう」
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