実年齢
「参加者によって初期費用が異なる……ってことはないよな?」
「ええ。アタシも真冬も、最初に貰ったのは百万だけよ。だけど足りないなら増やせばいいだけの話じゃない」
そうか、そうだよな。だけど土地ごと建物を買い取るとなったら相当な金が必要になるはず。16歳の女の子が手っ取り早く大金を稼ぐ方法といったら――
「まさかその恵まれた身体を使って、いかがわしいことを……!?」
「してないわよ!! ま、正直アタシもよく分かってないんだけどね。買い取ったのは真冬だし」
「真冬が!? そんないかがわしいことをするようには見えないのに……」
「いい加減その発想から離れなさいよ!!」
「ああ、すまん。真冬が買い取ったって本当なのか?」
俺が尋ねると、真冬は小さく頷いた。
「資金はデイトレードで増やした」
「で……デイトレード?」
「ん。私の頭脳をもってすればデイトレーダーとなって大金を稼ぐなんて容易いこと。秋人もやりたいなら教えてあげる」
「……いや、いいです」
俺には難解な方法ということだけはよく分かった。これ以上首を突っ込むのはやめておこう。
「ご飯も食べ終わったところで、そろそろ本題に入っていいか? 二人には色々と聞きたいことがあるんだ」
「ええ、いいわよ。まずは何から知りたい?」
「んー、そうだな……」
俺は腕を組んで考え込む。いざ聞くとなると分からないことが多すぎて、何から聞いたらいいのやら。
「ふふっ。分からないことが多すぎて何から聞いたらいいのやらって顔ね」
「……ご明察」
「それじゃとりあえず、転生杯についてアタシ達が知ってることを話すわね」
一回咳払いをして、春香が話を切り出した。
「アタシ達が現在参加している第八次転生杯が始まった時期は、正確には分かってないけど、およそ五年前――2014年頃よ」
「五年前か……」
俺が死刑となったのは2015年。つまり俺が死ぬよりも前から転生杯は始まっていたことになる。
「支配人から聞いてると思うけど、転生杯の参加者は百人。仮転生はこの痣の数字の順に行われているから、百人が一斉に仮転生して転生杯スタートってわけじゃなくて、一人目が仮転生した時点で始まってることになるわね」
俺は改めて右腕に刻まれた〝88〟の痣に目をやる。春香は39で、真冬は51。俺が仮転生したのはかなり遅めというのが分かる。そして俺の後にもまだ12人の参加者が控えている、と。
「仮転生の順番と死んだ時期は関係あったりするのか?」
「多分ないわね。死んだ時期も年齢も関係なく、支配人が気まぐれで参加者を決めてるって感じね。だから順番に規則性はないと思う」
「そうか……あっ。年齢といえば、春香達って本当は何才なんだ?」
形式的には参加者は全員16才ということになるが、それは支配人から16才時点での肉体を与えられているからであって、二人とも実際の年齢とは異なるはず。実は80才のお婆ちゃんでした、という可能性も十分にある。
「それは死んだ時の年齢ってことでいいのよね?」
「まあ、そうだな。どうしても言いたくないなら無理強いはしないけど」
「んー。別に教えてもいいけど、きっと驚くと思うわよ? それでも知りたい?」
「是非知りたい。大丈夫、俺は滅多なことでは驚かない自信がある」
この言い方だと、やはり春香は元々ヨボヨボのお婆ちゃんなのか……?
「6才よ」
「なんだ6才か……6才いいいいい!?」
俺は見事に驚いてしまった。
「ほ、本当かそれ!?」
「本当よ。6才だからって見くびらないでよね。身体が16才になったことで頭脳もそれ相応に発達したんだから。少なくとも秋人よりは頭が良いって自信はあるわよ!」
「へ、へえ……」
とても信じられない。俺は六才の幼女と話していたのか。外見と言動に少しのズレも感じなかったから全く気付かなかった。名探偵コ○ンの逆バージョンというわけだ。
全ての参加者は16才時点での身体に補正されているため、16才より上の者は必然的に若返ることになるが、逆パターンも存在していたのか。確かに年齢制限があるとは言っていなかったが、まだ6才の女の子まで参加者に選ぶとは。あの支配人も粋なことをするものだ。
「それじゃ真冬も、実は幼女だったり……?」
「私は80才」
「マジか!?」
こっちは違う意味で衝撃を受けた。最初の予想が的中したわけだが、なんだか地味にショックである。いやまあ80才というのはあくまで死んだ時の年齢であって今は関係ないといえばそれまでの話だけど、なんだかなあ……。
「ちょっと真冬、なに嘘ついてんのよ」
「嘘かよ!?」
「ん。本当は16才。つまりプラスマイナスゼロ」
「な、なんだ……」
俺は胸を撫で下ろした。なんだか凄く安心した。
「で、秋人は何才なのよ? まさかレディに年齢を聞いておいて、自分は内緒にしておくつもりじゃないでしょーね?」
「……やっぱそういう流れになるよな」
しかし6才と16才の前じゃ言いづらいな。だけどサバを読むほどのことじゃないし、正直に明かすとしよう。
「26才だ」
「うわ、おっさんじゃん……」
「は!? 26才のどこがおっさんだよ! まだお兄さんだろ!」
「自分ではそう思っていても、アタシ達から見たら立派なおっさんよ。ねえ真冬?」
「……四捨五入したら30才」
真冬の一言で多大な精神的ダメージが俺を襲った。四捨五入する必要ある?






