ヤケ酒
暑い夏が終わりあれだけ鳴いていた蝉の声も聞こえなくなった日のこと
僕はひとり広い家の中で父さんが録画していた夏アニメを見ていく
「父さん、4話録り忘れてる…」
少しブルーになりつつあった時に一本の電話が鳴り響いた
「はい、どちら様でしょうか?」
「その声は悠馬くんだね」
「あ、黒木さん」
「苗字じゃなくて名前で呼んでほしいんだが…
まあ?悠馬くんが照れて言えないなら仕方がない
今回は苗字でいいよ」
この少し上から目線の言い方をする声の持ち主は
黒木若菜元先輩だ。
高校の時の先輩でつい最近会ってからはプールに行ったりした仲と僕は信じている。
「今、暇かい?」
「はい、一応暇ですよ」
「では、君の家の前で待ってる」
「え?それってつまりもう居るってことなんじゃ」
電話は切られていた…
たまに何を考えているのか分からない時があるのは確かだけど今回はかなり分からない…
「お待たせしました…黒木さん」
「うん、待たされた…まだ外は一応暑いんだがね」
お待たせしましたと言っただけで入る辺り…
高校時代の黒木若菜に戻っている気がする
夏休みの時は人が変わったみたいに人懐っこくなってたのに急に変わるなんてやっぱり僕はこの人のことを分からない
「いやぁ…今日から世間は仕事だろう?
私もそうだと思って早起きして通勤したらだ…
『明日までうちの会社は休みだよ〜』って社長
に言われてね…腹が立ったもんだから悠馬くんに
電話をしたという訳さ」
「まるで学校みたいな感覚で言われたんですね…」
「その通りだよ…だから今日はここでお酒を飲む
だから付き合ってもらうよ…あ、もちろんヤケ酒だよコレは」
「いや…あの…僕はまだ未成年なんですけど…」
「なに?未成年?おかしいな…昨日の夢で私は
キミと楽しくお酒を飲んでいたぞ」
「夢は夢、現実は現実ですよ黒木さん…」
「現実は残酷だな…お酒すら一緒に飲めないなん
て夢見がちなのか…それとも疲れてるのか…」
「布団出しましょうか?」
「頼むよ…私はもうふて寝だ」
黒木さんは日本酒を抱いて寝てしまった
本人曰く『夢の中で飲めるなら私は夢の中の悠馬くんと一緒にお酒を飲んで愚痴を聞いてもらうんだ!!』なんて事を言ってから数秒で夢の中…
の〇太くんも驚きの寝る早さだ
「夢の中で一緒に飲めるといいですね…」
僕は黒木さんの耳元でそう言って部屋を後にした
「そんなの言われたらふて寝もできないじゃない
か…」




