今の僕と前までの僕
思い出していく…恐怖と黒木さんとの出会い…
「黒木さん…」
「名前覚えててくれたんだね…それだけで私は
幸せ者だよ…」
彼女は少し顔を合わせづらいのか…
顔を背け指を引っ掻いている
「引っ掻くと傷になりますよ!」
僕が黒木さんの手を止め、彼女の顔を見ると
彼女の顔は前髪でよく見えない
でも、頬に縦の雫がすっーと線が引かれたみたいに濡れていた…
「泣いてるんですか?」
「泣いてはいない…これは君に会えたことで
私の瞼から汗が溢れただけだ…」
彼女なりの強がり…なのだと思うと
“胸が苦しくなる"
そんな黒木さんを見ていられなくて僕は
隣の部屋にある父さんの机の引き出しから
アルバムを取り出す
「黒木さん、写真見ますか?」
「え?」
僕は新しい家族の事や
みんなで初めてお出かけに出かけたこと
アジサイが綺麗だったこと…
僕の大切な今の思い出を見せていく
それを見て安心するかのように黒木さんの表情は少しずつ安らいでいく…
知らぬ間に僕の肩に頭を乗せて眠ってしまっていた
「全く、黒木さんは何しに来たんですか?
寝ていると服の胸ポケットに僕の新しい連絡先
の書かれた紙を入れちゃいますよ?」
僕は起こさないように肩から頭を下ろし
枕を持ってきて毛布をかける
それから…父さんとまゆ姉さんが帰ってくるまで
朗らかなかわいい寝顔で寝ている黒木さんを見て僕は心から“過去を払拭できた"そう言えた…