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破滅への反逆

「なる程、私をからかっているような雰囲気を感じません、変容ぶりも別人と言われれば納得できます」


 どうやらある程度は納得はしてくれたようだが、言葉通りの部分だけだろう、他は未だ納得していませんという感じで、メリッサの警戒は完全に解かれていない。


「私もある意味被害者でね、なぜここに居るかすら良く解っていない、私にとってはこの世界は物語の中にある世界なんだよ、だから今も夢の中だと感じている位に現実味のない話だが……」


 正直こんな変な話が夢じゃないなら困るわ、何が悲しゅうて男の俺が乙女ゲーの世界に行かにゃならん、俺はそっちのケは無いしな。


「私はお嬢様が、アルテミジア嬢がどんな未来を歩むか知っている、そしてその破滅の未来を、彼女を不憫だと思った、だからこの夢が醒めるまではあの子の未来が少しでも良くなる方へ力を貸そうと思った、君に信じて貰えるかは分からないが、これが事の真相だ」


 恋というものを知らないまま恋をして、それを実らせることが出来る人はほぼ居ない、例え手に入れたとしても長続きする人も稀だ、初恋とはそういう風に出来ている。


 だからこそ人は、そのぼろけな存在である恋や愛に永遠を求める。


「因みに、お嬢様は一体どんな道を歩まれるのです?」


「私が知っている限りだと良くて国外追放、最悪は処刑だ。」


 物語は彼女の破滅を確定事項としている、あのゲームはバッドエンドだろうと友情エンドでもそうあれかしと、彼女の身を破滅へと投じてしまう。


「君らに分かりやすく言えば一つの原典があり、いくつかの解釈がされている物語といえばいいか?私の知る物語はそういうものだ、そしてアルテミジアは残念ながら全ての解釈で破滅を迎えるよ、それがまるで神決めた運命のようにね」


 それが定めであり、憎しみの象徴として焼かれる生贄のように。


「私はそれがあまり好きじゃない、いや納得出来ないのさ、彼女は何も知らずただ貴族の子女として家のために利用され、何も知らぬまま自らの役目を押し付けられ、やり方を知らぬまま間違った方法をとってしまう、そして誰にも助けてもらうことが出来ず、一切の救いもなく死んでいくのが悲しいと思うのさ……」


 人というのは出会いで変わる、それは人との出会いだけじゃない知識や経験だってそうだ、アルテミジアは、何も与えられず、その出会いを全て奪われている籠の中の小鳥だ。


「だからこそ私は彼女を何とかして救ってあげたい、せめて恋破れたとしても彼女が破滅の炎でその身を焼かぬようにね」


 自らがアルテミジアに思っている事を口にすると、今まで硬かったメリッサの表情が柔らかなものになる、そして彼女がゆっくりと口を開いた。


「ふふ、まるで愛の告白のような情熱を感じるお言葉です、お嬢様を思ってくださっているんですね」


「おいおい、そういうつもりで言った訳じゃない、ただ私が納得出来ないだけだよ」


 なんで女ってのはこういう風に話を持って行きたがる、俺の感情は納得出来ないという事と同情だと話しているのに、なんでわっかんないかな?お前もあれか?恋愛脳か? 


「ですが貴方の言葉に、いつもブルックリンさんから感じる嘘の色を見る事はできませんでした、私は全て事実であると信じましょう」


 なんか盛大な勘違いしてますが―、そんな節穴なお目目でいいんですかー、俺お嬢様自体はそんなに好きじゃないんだぞー、やーい、メリッサの節穴―。


「今心の中で私を侮辱しましたね、照れ隠しでしょうが、あまりそういう感情を人に向けるのは紳士としては良くありませんよ?」


 うそっ、私の心、読まれすぎ?


 まぁ冗談は置いておいて、ゲームの中にそんな能力があるとかないとか設定があったな、多分それに近い能力を持っているんだろう、確かそういう能力を持つ陰謀で没落した貴族の少年が居たはずだ。


「弟程ではないですが、私には人の感情を読み取る力があります、私の仕事はお嬢様が王子以外の人間に恋心を持つ事を排除するのが、公爵様から仰せつかった仕事です」


 なる程なぁ、そんな能力があれば好意をもつ相手がお嬢様に寄ってきても、さり気なく排除するのが容易だろう。


 そうしてアルテミジアは順調に孤独を拗らせて、自分の相手は俺様バカでも唯一だと思い込ませていたのか、あんなペラい王子に執着する理由が一つ理解出来た、だとすると状況は非常に拙い気がするね。


「じゃあメリッサの仕事からすると、私はその排除の対象になるってことかな?そうだとしたら今直ぐここから逃げなきゃ駄目なんだが、君は見逃してくれるかな?」


 扉はメリッサの後ろだ、なら窓から飛び出すしか無いな、元の俺の能力なら絶望的だがブルックリンの身体能力ならなんとかなるだろう、金を持っていけないのが痛いが仕方ない。


「判断が速いのは素晴らしいです、ですが勘違いなさっていますよ、私は貴方の味方になるつもりです」


 彼女は先程までの穏やかな笑顔のままで、こちらの味方だと言ってくるがその意図が全く読めない。


「へぇ、そいつはどういう意味でかな?」


 油断を誘う気か?いや、心が読めるのであればそんな事をする必要がない、それに相手は絶大な力を持つ公爵家、その気になればブルックリンの一人や二人簡単に闇に葬るはずだ。


「私の仕事の内容を思い出してください、私の仕事はあくまでお嬢様が王子以外に恋心を抱かせる可能性の排除ですから、お嬢様の幸せを願う事とはまた別の事なのです」


 メリッサは口を開くと自身の胸の内を俺に晒した心の内は、時間稼ぎとは思えない深い情を確かに感じる口調だったので、そのまま耳を傾ける事にした。


「それにブルックリンさん……、いえ貴方はお嬢様の未来を知っている、そして貴方の力を得られ無ければお嬢様は確実に不幸になるのでしょう?だとしたら貴方を排除するという事は、自らお嬢様を死地へと送る暴挙です、それだけは絶対に出来ません」


 彼女の表情と言葉には様々な感情が混ざっていて、その一つ一つが何を源泉として生まれて居るのか俺には解らない、だが一つだけ理解できる事があった。


「君はアルテミジアに恩を感じているのはなんとなく理解出来た、だがそれだけで俺を排除しない理由としてはイマイチ薄いな」


 それでもやはり会話文に僅かにしか出てこない設定の解らない相手だ、ここで解ったつもりになって騙して悪いがと言いながら刺されるって未来もある、裏取りはしっかりしておきたい。


「では、どうしたら納得できますか?私が出せるモノでしたらなんでもしますよ?」


 ん?今何でも……、いやいや、ふざけている場合じゃあないか。


 そうだな、こう言う場合なにを持って信用していいのか全く思い浮かばないな、自分の生命の賭けての腹の探り合いなんて初めての経験だからな、こんな初めては出来れば一生体験したくなかったなぁ……。


「そうだね、まず聞かせて欲しい、どうしてそこまでお嬢様に恩を感じる事になったのか、その理由の源泉を知りたいね」


 理由がもっともな物であれば少なくとも納得できる、そして騙されたとしても自分がお人好しだったと諦めることだって出来ると思う、人が何かする理由なんて自分が納得できるかどうか、それが大きな理由だと思う。


 俺の言葉に、彼女は少し遠い所を見るような視線を窓の外へと向け、静かに語りだした。


「そうですね……、10年前父が事業に失敗して、私達は没落し全てを失いました、今まで頭を下げていた人達は給金が払えないとなると、幼い弟と私を奴隷として売り払い、それで払えと言ってきました」


 おおい!いきなりヘビーな身の上話が始まったぞ、その絶望に染まった笑顔、かなり胸に来るんで出来ればやめていただきたいが、自分で言い出したことだから今は聞くしか無いよなぁ……。


「私達兄妹は、奴隷に身をやつし、そのまま拷問が趣味という変態貴族に売り払われる事になります、私は弟だけも逃がす為に奴隷商の屋敷から逃げ出しました、ですが子供の私達が逃げきれるはずもありません」


 うわー、そんな暗い過去を持つ設定の攻略対象一人居たわ、多分メリッサの弟くんは公爵家の掃除屋だ、もう間違いないわー、アイツの姉の設定なんて語られてなかったのは彼女達が離れて暮らしているせいだろうな。


「とうとう捕まりそうになった時、偶然お嬢様の乗った馬車が私達の前に現れました、私はお嬢様に助けてくださいと叫びました、たったそれだけの言葉です、普通の貴族なら良くある事だと受け流すでしょう、ですがお嬢様は違ったんです」


 あ~、多分興味をもっちゃったんですね?解ります。


 アルテミジアは案外色々な事に首を突っ込むんだよ、厄ネタは特に大好物だ、毒花の事だって、偶然学園の花壇に咲いていたのを片付けている教師を捕まえて、色々聞いてその上で育てるとか言い出すんだよ、足が付くとかそういうの全く考慮しない。


「お嬢様はどうしてそうなったか詳しく聞いて下さり、私達には何の罪もないと言って奴隷商から私達を買い上げてくださったんです、そして公爵家で使用人として雇ってまで下さりました、この恩をお返しすることが私の人生にとって唯一の目的なのです」


 なんだ、こんなにも泣きそうな顔で彼女のいい所を誰かに知ってもらおうと語ってくれる相手、お嬢様を大事に思う人はちゃんといたんだ。


 だからこそメリッサは物語から『排除』されていたんだろう、そうじゃないとアルテミジアはきちんと『破滅出来ない』からな。


「なるほどね、でも君がちゃんとそういえば、アルテミジアは話を聞いてくれるんじゃないのか?」


 嫌な予感がビンビンしている、もうなんつうか答が解ってるけど敢えて聞かないといけない、胃をそのまま握りしめられる様な不快感を感じながら、その瞳に絶望の色を深めるメリッサの次の言葉を待つ。


「昔はそうでもなかったのですが、あの王子様都の婚約が決まった日からお嬢様は全く私の話に耳を傾けて下さらなくなりました、まるで何かに取り憑かれたように……、そして公爵様から排除の任を受けたのです、弟の命と引き換えに……」 


 やっぱりかぁ……、確か弟は呪に冒されていてシナリオの途中でアリス嬢が解くんだっけか、その呪を掛けたのが公爵家の家令だったな、シナリオでは公爵家の暗部である弟が裏切れないようにする手段だったはずだ。


 こうして裏を取ると、世界は本当に悪役令嬢としてのアルテミジアであれと彼女に押し付けているとしか思えない、本当に嫌になる胸糞悪い答えだ。


 だとしたら、俺のやりたい事は決まってしまった、非常に残念だ、遺憾の意を表明したいが仕方ない、それ以上に我慢ならない事が出来てしまった。


「メリッサ、私には一つどうしてもやりたい事が今できた、君がそれを手伝ってくれるなら君を信じてもいいと思うよ」


 俺の出した言葉を聞いて、上目つかいで縋るような視線を向ける彼女の姿に、少し可愛いななど、場にそぐわない事を考えてしまう。


「それはなんですか?!私に出来る事なら何でもやります!」


 さっきからなんでもって言いすぎだよメリッサ、そんなんじゃあ悪い男に騙されてしまうぞ?こんな風にさ。


「私は今、一つだけ我慢ならないことがある、アルテミジアを悪役令嬢に仕立てあげなきゃ成立しない、このクソシナリオが大っ嫌いだ!だからこのクソシナリオにNOを突き付けてやる!」

 

 俺の言葉を聞いたメリッサの瞳から一筋の涙がこぼれ落ち、夕日が微かに照らす。


「この世界の理に歯向かう反逆を行うにはね、メリッサ、君の協力が必要なんだ、手を貸してくれないか?」


 そんな彼女にゆっくりと手を差し伸べる、これは誓いの握手だ。


「はい……、私は今日から貴方の反逆の共犯(きょうりょく)者になると誓います……」

 

 誓いの言葉とともに彼女が差し出した手を泣き笑いを浮かべて握り返してくれた。


 ここから俺達は、世界の理、神の考えといえるシナリオが定めた破滅からアルテミジアを救う反逆を、これから俺とメリッサ、たった二人で始めるのであった。  

ストック切れました、ここからはこちら不定期で週一程度の投稿予定です。

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