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新しい朝が来た、希望の?朝だ

「しょ、しょじょびっち、こわい……、フ……、フガッ!」


 恐怖とも不安とも違う、得も言われぬ苦しさを胸に感じ、俺は揺蕩うような浅い眠りから思わず跳ね起きた。


 身体が妙に重くてだるい、睡眠時間が足りてない気がする、やはり昨日は遅くまで干物がゲームをやっていたせいだ、そして夢見が悪かったのはヤツのせいだろう、うん、間違いない。


「何だか、とても恐ろしい夢を見た気がするぞ……」


 そうして開いた瞳、近視のはずの俺の視点は、木枠の窓から差し込む朝日を鮮明に写しており、この身体が未だにブルックリンのモノであると伝えてくる。


「アッーーーー!クソッ、夢オチを期待したのに!」


 思わず本音が漏れてしまったが、これ、俺をここにぶっこんだ奴に聞かれたらどうなるんだろうな?まさかデスゲームらしくさ、こんな風に不参加的な事を言ってたらいきなり消されたり、行動しない奴は殺されるとかしないよね?


「ないよ、ね……?あははは……」


 ぼっちの部屋に妙な緊張感が漂うが、そんな俺の心の声に誰かが応えるはずもなく、今のところ表立った変化はないが、背中に冷たい汗が一筋流れ落ちた。


 ねえっ?答えましょうよぉ、説明は社会人として大事だと思うんですよ、どうかアウアウセフセフのラインを教えて下さいよ~。


「あはっ、あはははぁ……、うん、そだねー……、分かってる、ちゃんと分かってますぞ~?クリアしないと死んじゃうんですぞ―、うん、今日も頑張っちゃいますぞー!」


 どっかで見ているかもしれない誰かに向けて、俺はアホらしい程の高回転の手のひら返しを披露して、どっかの子供向け番組の赤いモップみたいな語尾になりつつも、なんとか前向きな発言を並べ立てる。


 プライド?カッコ悪い?そんなどっかの避妊具みたいなうっすいモンで生きれるなら、世の中に社畜など居なんだよ?長いものに巻かれるのは、か弱い社畜がコンクリートジャングルで長生きする秘訣だよ?こうしてリクスを避けるのは、社畜が社内生活を幸せに送るのに大事なことよ?


 誰に向かってかは解らないけど、寝起きから三十秒でどっかの空賊のババァが納得する位に速攻でプライドで叩き売りした俺の耳に、誰かが扉をノックする音が飛び込んでくる。


「おいおい、こんな朝イチに誰がきたんだ……?」


 まさかプライドの売却先か?そうだったら困るな―、全く心の準備ができてないから土下座して靴まで舐めて謝る位しか出来る気はしないぞ?


「おはようございます、シャーリーです、カテジナさんからブルックリンさんのお部屋に朝食を持っていくようにと言われました」


 聞こえた相手の声は耳年増メイドの片割れシャーリだ、どうやらプライドの購入者は今は現れない仕様か、なら朝から靴をペロペロしなくても良いらしい、良かった良かった。


「おはようシャーリー、寝起きだから少しだけ待ってくれ」


 彼女にそう答えながら、俺は昨日と同じミスを繰り返さないように、着崩れた衣装を恥ずかしくない程度に整えて、昨日と同じ轍を踏まぬようベッドの上もそれなりに直してしまう。


 こうした準備を怠って、目の前にある分かっている罠に突っ込むなど、社畜としてあるまじき行為。


 過酷なコンクリートジャングルで生存競争に勝ち残る秘訣、それは怪しい石橋は叩いて壊して、新しい金属製の橋を架ける位の慎重さだよ。


 おっと、窓も開けて残り香も飛ばしておかないとな。


 女ってのは本当に別の女の匂いに敏感だな、うちの係長も接待でキャバクラ行って、奥さんに浮気と勘違いされて流血沙汰になったもんなぁ……。


 あの係長ってマジ強いんだよな、奥さんにスマホ投げられて画面じゃなくて額を割られたのに、その傷が治るまで自分をキャバクラホッチキスマンってネタにしてたんだよ。


 そのネタで一緒にキャバクラ行った取引先のハートをキャッチして、傷が治る迄に契約決めたのは凄かったなぁ、女性社員からはドン引きされてたけど。


 僕らのヒーロー、キャバクラホッチキスマンの活躍を思い出しつつも、昨晩の証拠を全て隠滅できたので、廊下にいる彼女に向かって声を掛ける。


「もう大丈夫だ、今開けるよ」


 空気を入れ替えるために開けた窓から、眩いばかりの陽射しが風に揺られたカーテンの影を描きながら、小鳥のさえずりと一緒に部屋に降り注いできて、今日も外が晴天だと知らせてくる。


 普段の朝なら傘を持たずに外回りに行けると喜ぶのだが、この世界じゃ俺はお嬢様(もうじゅう)調教師(きょういくがかり)だから、どんな時も外出は走っていくハメになる。

 

「今の俺にとって一番良さそうなのは雨も降らず、日差しも暑くならない曇り辺りがいい天気だろうな……」


 曇が最適とか、まさに今の自分の心にぴったりの空模様だなーと、無駄にげんなりした気持ちになりながら扉を開くと、そこにはもう確りと朝の清掃用の衣装で身支度を整えたシャーリーが、人懐こい笑顔を浮かべて立っていた。


「シャーリー、態々持ってきて貰って済まないね」


 彼女にとって仕事なのだろうが、それでもこういった時は礼を言っておく、これは女子社員との仕事での意思疎通をするために重要な事で、これを怠ると彼女達は容赦なく男の社畜生活にピリオドを打ちに来る。


 この時気をつけるのは誰にも平等に接する振りをして、女性社員のパワーバランスを上手く見極めることだろう。


 特にお局様と呼ばれる部署の群れのボスに出張帰りの付け届けを忘れた奴などは、もうその部署では再起不能(リタイヤ)になるくらいにオラオラされる羽目になる、そうして辞めて言った同期が一人いるから、彼の犠牲を無かった事にしてはならないと、俺は教訓としている。


「あの……、黙りこんでますけど、どうかしました?」


 おっと、何年も苦労して覚えた社畜の誓いを思い出していたら、シャーリ―に不審がられてしまった、適当な理由をでっち上げてごまかさねば。


「いや、なんでもないんだ、今日のお嬢様の教育内容について、少しだけ考えてたんだよ」


 昨日からさんざん怪しまれているので、適当な理由をでっち上げてこれ以上ボロが出ないようにする、本当にそろそろバレそうな気がするし、周りの疑いを上手くごまかしてブルックリンスタイルから、俺のスタイルへソフトランディングを目指したい。


「そうですか!やっぱりブルックリンさんって、噂と違って仕事熱心な方なんですね!」


 うわーい、シャーリーの明るい笑顔にめっちゃ墓穴掘ったって感じるわ―、でもまぁこれ位なら、勉学に励むお嬢様に心を打たれ頑張り始めた、なんて言い訳をしてごまかせるだろうさ。


「噂がどういうものは知らないが、金を貰っているんだ真面目にやるさ」


 そうそう、金をもらっているから真面目にやるのは社畜にとって常識ですぞー、そうじゃないと上から目を付けられて色々面倒だもん。


 楽してズルしてサラリーシーフってのは、賢いのかもしれないけどさ、アレが出来る奴ってかなり面の皮厚いというか、どっかの赤い人みたいに仮面でも被ってるんじゃね?って思うわ。


「やっぱり噂って、あてにならないのかしら?あ……、でもブルックリンさんが女嫌いだって噂もあったけど、やっぱりアレも……」


 うぉーい、本人の前で噂の検証とか考えるのはヤメよーよ?


 小首をかしげて考えるメイドさんは確かに可愛いけどさ―、自分がホモ疑惑だったり、女好き設定だったり勝手に妄想されるのって結構堪えるんですけど。


「ほら、あんまり私としゃべっているとカテジナさんに遅いと怒られるぞ、朝食を持ってきてくれてありがとう、さぁもどりなさい」


 これ以上、雑役女中(オールワークス)少女(みみどしま)達の好奇心を満たす餌食されるのはゴメンだし、昨晩の一件で女の恐ろしい一面を知ってしまったので、今回は早めに予防線を引いておく。


「あ、そうですね!それに今日は奥様がこちらにいらっしゃるそうだし、綺麗にしておかないと駄目ですからね!」


 はい?そんなイベントあるって俺知らんぞ?つうか、だれからも聞いてないし、そんなイベントの記憶もないぞ、やはりゲーム知識に頼りすぎるのは危険だな。


 でも、自分で情報収集するにしても『ブルックリン氏変態すぎ問題』がネックなんだよなぁ。


 ここでシャーリーに「そうなの?」って聞ければ楽なんだけど、ここで変に聞いてしまって知らない事で新しい問題になっても困るし、ここは話を合わせて後で処女ビッチ(メリッサ)に聞くことにしよう。


「そうだな、だから早く行きなさい」


「はい!解りました、それじゃ、あとで取りに来ますね!」


 そう元気よく返事をして、廊下を小走りで進んでいくシャーリーに、俺は昨日彼女と出会った時のことを思い出し、学校の先生の様な気分になって、一言注意をする。


「廊下を走ると危ないぞ、昨日みたいになるから落ち着いて仕事をしなさい」


 この屋敷にはエンカウントするとブチ切れる猛獣が住んでるんだ、あんな風に走ってるとまた面倒な事に巻き込まれるぞ?


「あ、そうですね!やっぱりブルックリンさんってやさしいですね!ありがとうございます!」


 なんかさ、こうやって勝手に好感度があがるのってさ、言い様のない罪悪感と違和感が半端なくクるな、ただ面倒事に巻き込まれたくないと思って言ったのに、妙に好意的に取られて、イイ笑顔されると結構良心的な所に刺さるわ。


「まっ、まぁ、俺が騙してるわけじゃないんだし、いいよね?」


 良心の呵責で誰に言うでもない言葉を口からこぼしながら、スクランブルエッグと厚切りベーコン、それにちょっとした野菜のスープにバケットっぽいパンを炙ったのにバターが塗ってあるアメリカンブレックファースト的な朝食を部屋の中に持っていく事にした。


「たかが使用人の朝食なのに、ビジネスホテルの朝食より美味そうだ、やっぱこの家金あるんだなぁ……」


 ホント、カテジナ姉さんの作る飯は美味そうなんだけど、俺の置かれている環境というか、立場というのが気まずいから、折角の飯を不味くさせるんだよな。


 いつか気兼ねなくゆっくりと味わって見たいものだと、深いため息を付きながら、部屋に備え付けられたテーブルで少しだけ遅くなった朝食を摂ることにした。

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