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とある悪役令嬢の仁王立ち

 自分のあり得ないオラ付いた態度はベッドでゴロゴロ転がって十二分に後悔した、だから話を先に進めよう。


 きっと夢の中だから妙に気分がデカくなったんだ、そう結論を決めつけ意識を切り替え廊下を進む。


「あ、あのっブルックリンさん、さ、さっきはありがとうございました!」


 そんな俺の耳に、後ろから女の声が入ってくる、誰だろうと後ろを向くと、スペンスじーさんの孫娘が俺に頭を下げてくる。


 俺がメリッサに中身が別人だとバレたの、この子が間接的に関与してんだよなぁ、そのせいで俺は……、っといかんいかん、アレは中二病の発作が発症したの自分の所為だし、ブルックリンが仕事をサボったせいだ。


 気にする彼女が悪い訳では無いので、簡潔に気にするなと言っておこう。


 でも、あんまり優しく話すとブルックリンの性格から大きくズレを感じさせ、また余計にややこしい話になりそうだ。


 ブルックリンが怖いのか少し怯える素振りで謝る彼女に対して、俺はなるべく分かりやすく応えることにした。


「気にしないでいい、ああいった事も本来私の仕事なんだよ、寧ろこちらが君に迷惑をかけたんだ、済まなかったね」


 ブルックリンはお目付け役だ、他の下働きに使用人と違い、時にお嬢様を諫める事も仕事内容だから高い給金を貰っている、その上に個室まで貰っているのだから感謝の必要は無いし寧ろ当然の事だったりする。


「いえ、私ブルックリンさんの事を誤解してました!私なんかの味方をしてくださるなんて思ってなかったんです、だからお礼もそうだけど、やっぱり謝りたくて……」


 だけど、それを謙遜だと思った少女は、目を輝かせる様に見開いて、感謝と謝罪を口にする。

 

 あ~、不良がちょっと良い事すると凄くいい人に見える理論ね、アリス嬢やメリッサを始めとしてなんつーか、この世界の人達は日本人としては大丈夫なのかと思う程、妙に純粋で感情的な生き方をしているなぁ。


 そんな事を思いながら、目の間でいつまでも頭を下げる少女の肩を優しく叩き、もう一度気にしないように言い含めることにした。


「それは元々私の仕事だ、それをサボってた仕事をするようになっただけ、特別な事は何一つしていない、だから気にしなくてもいい」


「で、でも、あの、私嬉しかったんです、もしかしたらお嬢様からお暇を出されるかもしれないって思っていたんです、そこを助けてもらったから、あの、その……」


 ああ、ドジっ子であまり賢くないけど真面目な子という設定が、彼女に理論的思考を遅らせているようだ、なら今は分かりやすい理論で言った方が良いかもしれない。


「ここで下手に時間をかけるとメイド長に見つかって、それこそ怒られ暇を出されるかもしれない、私は気にしていないから早く戻った方がいい」


 少し突き放した言い口になったが、この方が彼女には分かりやすいだろう。


「あ、そうですね、私そこまで考えてませんでした、じゃあもう行きますね、だけど今度改めてなにかお礼をします!」


 漸く納得ができたのか、お仕着せの長いスカートとフリルの付いたエプロンを揺らし、彼女は自分の仕事へと戻っていく。


 全く元気なことだと思いながら、俺は自分の仕事、皆が恐れるお嬢様(もうじゅう)の世話をするため、長い廊下をゆっくりと進んでいく。


 そうして屋敷の二階、南側の突き当りに辿り着き、目の前の豪奢で重厚なドアを軽く4回叩く。


 この回数は礼儀が必要な相手に対してのドアの叩き方だ、こっちは平民だし、貴族のお嬢様にはこの叩き方になるだろう。


「どなたですか?」


 俺のノックに先程部屋で語りあった、俺の中二病の発作の被害者、部屋付きのメイドであるメリッサが返事をする。


「ブルックリンです、お嬢様がお呼びとの事で参りました」


 少しだけさっきの事を思い出し、恥ずかしくなる気持ちを抑え、平静を装いつつ理由を述べて相手の出方を待つ。


 この流れはこのゲームで他人の部屋へ入る時の通例だったりして、よくアリス嬢が攻略対象の部屋を入る時に、ローディングも兼ねて表現されている。


 そして相手と親しくなると、相手から自分と親しいのだからノックは3回にしてくれと言われるのだ、まぁ遠回しに親密度を教えてくれる設定だね。


 そして相手の入室に問題がなければ部屋の主が許可を出すが、今のように部屋の主と訪ねてきた相手の身分差が大きい場合は直接ではなく間接的に答えるのが普通である。


 なので今の場合、この部屋(おり)の主であるお嬢様(もうじゅう)アルテミジアではなく、部屋付きメイドのメリッサの口から俺への入室許可を間接的に伝えるのが正しい作法になる。


 だけどそれは攻略対象達の話であり、悪役令嬢アルテミジアに搭載された脳内大辞典にはそんな言葉は存在していないのだ。


「やっときたのね!さあ直ぐにこっちへ来きなさい!私は聞きたい事が沢山ありますわ!」


 あぁ……、駄目だなぁ、やっぱりこのお嬢様本当にアカン、ガチのポンコツだわぁ……。


 威勢よく返って来たお嬢様の返事(鳴き声)に少し頭が痛くなる、本当にコイツをあの王妃様並まで育ててれる気がしないわぁ。


 でもまぁ、そうでなくてもお嬢様が死なずに済む程度には何とか出来るだろう。


 そんな事を考えているとあちらからドアを開けられる、視界の先には笑顔を浮かべるメリッサと何故か部屋の真ん中で腕を組んで仁王立ちしているお嬢様がいた。


 某スーパーロボット彷彿とさせる見事な登場に更に頭が痛くなる、なんなの?お前は目からビームとかホームランとか打っちゃうの?!


「何をやっているんです?そんな格好で……、レディがはしたないと思わないのですか?」


「そんな事はどうでもいいわ!どうすれば私がカイン様にふさわしい王妃に成れるのか、そこが重要ですわ!」


 いやドヤ顔で自信満々に応えてるけどさぁ、その仁王立ちがまず問題だと思おもわんのか?部屋入ってそんな格好で出迎えられたら落ち着かんだろう?


 一体どう考えてそういう格好で人を出迎える気になったのか、そこが知りたくて仕方ない。


「とりあえず話を進める為に失礼します……、そして人をいきなり仁王立ちで迎え入れるのは駄目です、それでは迎え入れた相手は落ち着きませんよ……」


 目頭を押さえながら何とか挨拶をして、何が駄目なのか説明をしながら部屋に入る。


 この駄犬おじょうさまの躾、マジで誰か変わってくんねぇかなーと、ここにくる直前まで持っていたはずの決意が崩れそうになるのをぐっと堪えながら続きを語る。


「まず男というのは基本的に女性に癒やしを求めます、外で多くの敵や脅威と戦うのです、家に帰って仁王立ちする嫁が居たら、落ち着かないのですよ……」


「そうですの?お母様は良くこうしてお父様を迎えていましたわ、それはブルックリンの個人の感情じゃありませんの?」


 とても不思議そうに首を傾げる彼女、あ~、そういや現在の当主は入婿だっけ?

「お嬢様、こう言う言い方はあまり好きでは無いのですが、貴方のお父上であるお館様は入婿、すなわち外から入って来た方です」


 そうなると彼女のご母堂はそうなるわな、傲慢な母親と卑屈な父親の態度を見て育ったお嬢様が、そんな風に思っても仕方ないか。


「ですので、元々公爵家のお生まれの奥方様の方が上になるのは仕方のない事でしょう」


「でしたら私の態度はお母様のなさっている事の真似ですし、全く間違っていませんのね?」


 全く理解せずに自分が正しい事をしていると真顔で答える姿は、コレぽっちも自分がおかしい子だと気付いていない。


 ここまで聞いて解っていないのはある意味才能だと思うが、ちゃんと一から教えるべきなんだろうが、すげー面倒だし、多分煩くなるんだろうなぁ。


「いいえ、貴方はこれから王家に入り、次期国王になる方と将来を誓っているので、将来的にお館様と同じ様な立場になるのです」


 まずはこうやって身近な例で勉強させるべきだろう、まぁあのお館様(バカ)相当オツムが微妙だからなんとも言えないんだけどね。


「えぇ?あのお父様みたいにお母様に怯えるような生活をしないといけないの?それが私の未来なのですか?そんなの嫌よ!あんな情けない生活をしたくはありません!」


 おい、流石に自分の親に向かってそこまで言ってやるなよ、流石に少しあのおっさんに同情するぞ……。


 確かに公爵という割に俗物的で長い物に巻かれろ的な情けない小物だが、アンタの親だぞ?少しは手加減してやんなさいよ……。


「そうは言いましても婚約した以上、両家の家長が認めない限りはそうなります、結婚とはそういう家と家の繋がりを作る物なのです」


 平民の結婚でもそうなのだから、貴族だとそれ以上の意味もあるけど、今ここで語っても彼女自身が理解できないだろうし、語った所で仕方がないだろう。


 まずは現状分かる範囲で理解させるのが先決だろう、そう考えた俺の言葉を聞いて彼女が悩みだす。


 アルテミジアはここまで自分はこのままでいいと思っていたんだし、急に実は違うと言われたんだ、そりゃ当然悩むわな。


「だったら私、そんな結婚したくないですわ……」


 おおぅい!悩むのは分かるけど、今まで、あんなに王子の気を引こうとしてたのは一体何だったんだって位、随分あっさり王子を投げ捨てたよ?!


「いきなりですね、どうしてそう思われたのですか?」


「お母様はいつも楽しそうです、好きな事をして、好きな服を着て、誰にも憚ること無く生きていますわ!私はあんな風になりたいのです!」


 彼女の憧れる女性像、自身の母親の生き様を自分も出来る、幼い頃からそう思って生きてきた彼女の言葉はとても真剣だった。


 彼女の真っ直ぐな視線と表情を見つめ、俺は無言で続きを聞いてみる。


「お父様が言うには、王妃になれば自由に生きられると仰るから、私は王妃になりたかったんです、でもブルックリンが言っている事は全部逆ですわ……」


 うわーい、クソ真面目な顔して言うから少し期待してたけど、思った以上に単純かつ下らない理由だったぞ―。


 でもさ、ご母堂も自由ではないんだよなぁ、貴族としての体面や誇りを守って、意に沿わない小物を旦那にした鬱屈の発散が、あのやたら派手な散財なんだよなぁ。


 この点をアルテミジアにどうやって話して納得させるべきかな……、また頭の痛い時間がこっからまた始まりそうだ。


 俺の決断次第で。メリッサの弟とメリッサ自体の命にも関わって来るんだよなぁ、やっぱあの時荒ぶる鷹のごとく逃走すべきだったんじゃないか……?


 そんな後悔が少しだけ俺の胸に宿った瞬間、メリッサの眼のハイライトさんが仕事を放棄して、俺に無言のプレッシャーをかけてくる。


 分かった!分かったから、お願いだからその目はやめてぇ!


 こうして俺はまた胃が溶けて痛くなりそうな予感と共に、お嬢様の育成計画を考える苦痛の時間を始める、なぁ本当に誰か変わってくんない?


 というか、結構時間も経ってるからそろそろ目が覚めても良くないすか?

 

 そんな俺の心の愚痴(さけび)は誰に届く訳も無く、前門のお嬢様と後門のメリッサという状況は全く変わらないのであった。 

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