002
「ん?何で今少しにやけたの?」
あの時を思い出して、それが表情に出てしまったか。
「にやけてない。鼻がむず痒くなっただけさ。話を続けて」
「うん」
鵜川は何もなかったかのように話を続ける。
こういうところを深く掘り下げて来ないのが、僕と鵜川が長年知り合いであり続ける理由なのかもしれない。
「この前卒論を書くのに図書館に行ったの。そこでたまたま言語学部の人たちと鉢合わせしちゃってその時にいたような気がする」
「しかしそれだけでよく名前まで知ってたな」
「その時他の学生さんが立花さんそこの本取って~って言ってたから、それを憶えていただけだよ」
いや、それを憶えてること事態が普通じゃないんだよ。
「しかし言語学部かぁ……あんまり僕たちとは接触のない学部だよなぁ」
ちなみに僕と鵜川は二人とも、人間社会学部というちょっと特殊なところに所属している。
ようするに、人間を科学する学部だ。
……いや、実のところ僕もそこまで自分が学んできた事を理解できてない。
「でも言語学部って結構図書館に入り浸ってる感じはするよ?なんかあそこの教授、妙に図書館の使用を推奨してるみたいだから」
「図書館ねぇ…行ってないなぁ……」
「大和くんはいっつもネットから引き出した情報をレポートに書いてたからね。現代っ子だよ」
ふふっと鵜川は笑う。
僕もそうだが、お前も一応現代っ子だろ。
……両肩のおさげのせいでちょっと昭和感を感じるけど。