003
「別に心配は無用よ。死ぬなら勝手に死になさい」
彼女は言い放ち、更に。
「わたし、人が死ぬのには慣れてるから」
そう続けた時、彼女の声は心なしか冷たかった。
こんな冬の風なんかとは比べものにならないくらいに、冷たく、尖っていた。
「慣れてるって…まるでこんな場面を何度も見たような言い草だな」
「ええ。一度めは父親の会社が倒産して父が首吊り。二度目はわたしが中学の頃、学校から帰ったら母親が一酸化炭素中毒であの世に逝っちゃってた」
おいおい…半分冗談だったのに本当なのかよ。
死に際にも良心は働くようで、軽はずみな失言を後悔する。
「……なんかすまない。悪気は無かったんだ」
「今から死ぬのに、悪気もへったくれも無いでしょうね」
ごもっとも。
もう二度と会わない人間に嫌がらせを言うほど、僕も腐っちゃいない。
いや……腐ってるけど。人間としてな。
「さっどうぞ、舞台があなたを呼んでるわ」
舞台、そこは高さ15メートルの奈落への舞台。
公演はたった一回と言ったところか。
「あぁそうだな…僕は主演だからな」
「主演じゃなくて死人。サスペンスだと始まって20秒ほどで死んでしまう存在よ」
言葉が尖ってやがる。
容赦は無いのかこの女は。