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「もうすぐ時間か……」
十分前、僕は近所の公園の入口で一人突っ立っていた。
顔には出さないようにしているが、心臓ははち切れんばかりに鼓動をしている。
正直、就職面接なんかよりよほど緊張する。
「おっ!あれかな?」
目の前から、最近毎日会っている顔見知りが僕の方へ向かってくるのを確認する。
こういう時、高校生なんかは彼女の姿が制服と私服で違うことにギャップ萌えというものを感じるのだろうけど、立花は大学の時と変わらず、何というか、一言で言うと真っ黒な姿だった。
「本日はお日柄も良く、寒々しく、温かい物を飲みたい気分ね武田くん」
「何だよその催促するような挨拶は」
そこには、なんら変わらない立花の姿があった。
僕とは違って、緊張も何もなさそうな、普段と変わらない姿が。
だけどそれを見て、僕の緊張感も解きほぐれた。
「こんな寒い中、しっかり時間より前に居た事は評価するわ。さすがは春から社畜になる人は違うわね」
「社畜って言うなよ……トゲトゲしい言い方だな」
「トゲトゲしいんじゃない、棘そのものよ。武田くんも棘に突き刺されて刺殺されないように注意しなさい」
刺殺するってコイツ、僕を狙ってやがる。
そんなヤツと今日一日デートするマヌケな男……それが僕だった。




