008
「でも僕はお前に感謝してるんだ。あんな場面で優しい言葉を掛けれる人は多くいるかもしれないけど、なんというか……刺さる言葉を言えるのは少ない気がするんだ」
優しい言葉なんて、所詮はその場凌ぎで何でも掛けれるもんだ。
大丈夫とか、希望があるとか、頑張れとか。
だがそこに、残る物はない。心に残る物が。
「だからかな……僕がお前に惹かれたのは」
「……そう」
相変わらず、立花は本から目を背けない。
多分、あの言葉は僕にとっては重かったかもしれないが、彼女にとっては軽いものだったのかもしれない。
でも、言葉とは常にそんなもの。
軽くて、軽率なものだ。
今年の冬は寒い。特に、この吹き抜けでしかない屋上では尚更その寒気を直に浴びてしまう。
「寒くなってきたわ、そろそろここを出ましょうか」
立花は本を閉じ、その隣に置いてあった鞄に入れ込む。
僕と彼女からすると、この本を閉じるという行動は解散を意味する。
「なあ立花、最後にちゃんと聞かせてくれないか?」
「ちゃんと?何を?」
「僕と一緒にデートしてくれるか、否か。こういうのは白黒ハッキリしておきたいんだ」
大切な事だからこそ、灰色にしておいてはならない。
僕にとっては、これは一大決心なのだから。




