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「どうしたの?早く飛び降りなさい」
背後から、声が聞こえてくる。
「!!?」
僕は突然の事に、奈落への歩みを止め、振り返った。
そこにいたのは、女性。
「怖気づいたの?だったら最初からそんな事考えないことね」
屋上の風に、彼女の黒い長い髪は揺れ、その鋭い瞳は僕を捉えている。
「怖気づいてなんかない…ただ、僕以外に人が居たのに驚いたのさ」
「ここは学校。わたしも学生だから、学校に居るのは当たり前でしょ?」
ここは屋上。しかも立ち入り禁止の。
普通の学生なら、こんなとこ来るはずない…と言うのは野暮だろうか。
「……ここで何してる」
「今から死ぬあなたに言っても、意味無いでしょ?」
至極同然。
ぐうの音も出ない返答だ。
「……読書。ここ静かだし、誰も来ないのよ。だから図書館なんかよりずっと本が読めるの」
結局答えるのかよ。
訳の分からないヤツ…。
「そうか…だったらここから去った方がいいぞ。もうすぐ目の前で人が一人死ぬんだからな」
宣言にして、忠告。
僕が死ぬからといって、他人には迷惑はかけたくない。
果てる時は、静かに果てたいのさ。