006
「でもあの時、君はわたしに恋をって」
「ああ、あれはインパクトよ。あれくらいしないと人の決心って捻じ曲がらないでしょ?あなたを止めるため、わたしも必死だったのよ」
「へぇ、必死だったんだ」
「そうよ、感謝しなさいな」
勝手にやっておいて感謝も何もないだろうよ。
でも必死にやってくれた事は、少し僕としては嬉しかったかな。
「なるほど、分かったよ。いつまでも気にしてた僕がバカだったな。でもこれでスッキリした」
彼女にはその気はない。
それが知れただけでも、僕の心のつっかえは取れた。それだけで、十分だ。
「すまないな、読書の邪魔して。僕は帰るよ。帰って見たいドラマの再放送があるんだ」
「そう……」
僕は屋内の方へ振り向く。
踏ん切りというか、もう未練はない。
僕としては消化不良でありながらも、腹は満たせたようなそんな結末だったと思う。
「じゃ!あっもう自殺をするなんてマネしないから安心してくれ」
もうここには来ないだろう。
このキャンパスの屋上には、二度と。
僕が一歩歩みだす。
その時だった。
「!!?」
片手が強い力で引っ張られる。
いや本当に、冗談抜きで強い力だ。
「言ったでしょ、あなたに興味があるって。あなたは満足かもしれないけど、わたしはまだあなたに用があるわ」
「……そうかい」
身勝手なヤツ……先に突き放したのはそっちだって言うのに。
だったら僕だって。
「何が満足だ。こっちだって消化不良だ」
僕は彼女を、強く睨みつけてやった。




