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天国のお土産  作者: トニー
第四章:潜み隠れて名を顕す
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4-21. 戦い終えて次に備える、なの

 ギークは、真正面から蝗の攻撃を受けた。だがギークが苦痛の呻きを上げることはない。

 飛来する相手を見据えて、身体の重心を下げ、合わせる面をずらして堅固の姿勢で構えた。

 これは敢えて受けたのだ。相手の勢いを殺して失速させる目的でだ。


 僕がある程度目で追えるようになってしまうくらいには、蝗は延々とギークを責めた。

 責め続けた。それはもうそのこと自体が悪手。つまり相手は時間をかけすぎたと言っていい。

 僕と同じく、いやそれ以上に、ギークの目も相手の速度に慣れたのである。


 体で相手の攻撃を受け止める。衝撃を受け止めきって逸らさない。相手は失速せざるを得ない。

 ヒットアンドアウェイに徹していた相手の動きが止まる。

 だがしかし、相手もそう与し易い相手ではない。


 動きを鈍らされたと判じたが故か、或いは本能のままにか、即座に毒針を突き立てようとしてきた。

 これを避けるために相手を遠ざけてしまうと、元の木阿弥だ。

 だからギークは、その毒針を手で掴んだ。尻尾を掴んで、そのまま本体を地面へと叩き付ける。

 べシャンッ! と、外骨格な相手の身体がコロシアムのリングをはねた。


 ギークは蝗の尻尾を手放さない。もう一度、叩き付ける。

 もう一度、叩き付ける。

 もう一度、叩き付ける。

 もう一度、叩き付けた。


 リング外に腰かけている、件の胡散臭い男の方を見る。

 こいつが、魔物調教師モンスターテイマーなるものだとして、この虫けらをギフトで直接操っている可能性はなさそうだ、と僕は観察する。


 <<支配>>系統のギフトで憑依しているとは思えない。

 手足の数が違う。羽根まで生えている。こんなのを操縦するなんてことは無理なはず。


 <<催眠>>や<<魅了>>が効く相手とも思えない。

 精神に働きかけるギフトの作用は、意思の疎通が可能な相手にしか、まともには通用しないものと聞く。


 試合中、こいつの細かい所作にまで気を配っていられなかったが、凡そ何もしていなかったと思う。

 少なくとも今現在、不意に逆転されたであろう状況で、何をするでもない。

 観戦している? 観察している? それだけだ。


 ついに尻尾がちぎれて、蝗の不気味悪い本体が遠くにゴム毬のように跳ねていく。

 しかしそれでもまだ起き上がろうというのか? カクカクと細い節足を震わせて、蝗が起き上がった。

 体制を立て直そうとしたのであろう所に、ギークが金棒を投擲する。


「これは何ということだ! 何ということでしょうか!? まさか、まさかの大逆転! この結末をいったい誰が予想し得たでしょうか!! 数多いたBランクモンスター、そして変異種の特異モンスターを降して、まさかオーガが! 決勝戦へと進出です!!」


 人の顔にも似ていた蝗の頭部は無残に粉砕され、青紫の血漿がリングの上にぶち撒けられた。

 ギークの勝利が宣告される。


 準決勝の場では、ナタリアと胡散臭男は声も交わさなかった。

 対戦者は別々の場所から入場し、退場することになる。すれ違う機会も無かった。






 火から下ろした鍋の中身を、匙でぐるぐると掻き回しながら、ギークが言う。


「つまりお前もその一派というわけか」


 冷めたら鍋の縁に口を付けて直で行く魂胆に違いない。

 ナタリアの前でのギークの人非人振りが、日夜悪化している気がする。


オレなど連中の過激さに比べればハト派もいいところだぞ? オレは真っ当にお前達と友人関係を築ければと願っているのだ。魔物調教師(モンスターテイマー)というのはそうではない。いや、奴等があれでモンスターを友達だと思っているのだとすれば、オレは奴等と友誼を結ぶのは御免こうむるな。利用するだけ利用して、ゴミクズのように捨てる相手を友と呼ぶ連中という事だからな」


「知己がいるという口振りだな」


 そろそろ冷めたかなと、ギークが鍋に指をつっこむ。

 うん、そろそろ説教をしてやらねばならないだろうか。

 いいかギーク、この世にはテーブルマナーというものがあってだな、、、


「否定だ。それは違う。オレは奴等の行状の記録を読んで、謂わば一方的に非難讒言しているだけだ。撤回するつもりは毛頭ないがね」


 ナタリアがギークの無作法を意に介さず、そう応えた。


「奴等が未だに何かしているかどうかという点について、オレとしても今時点では測りかねている。これからだな。調べてみなければならないだろう」


「調べる宛はあるのか?」

「このコロシアムの運営組織、そして支援者である王都の教会だな」


 ナタリアは腕組みをして、すこし考えてからそう応えた。


「訊いて回って素直になんでも喋るような相手なのか?」

「そんなわけはない。まあ、軽く探りを入れてみて、疑わしければそこからの調査は同志に引き継ぐさ」


 そこまでが昨晩、準決勝に臨む前の会話だ。

 そして決勝に勝ち進むことが決まった今日、今晩のメニューはやはり鍋。

 ナタリア、鍋以外には料理のレパートリーが無いようである。鍋の中身は色々だが。


「決勝の相手、青鬼ブルーオーガに決まったな。モンスターの主は、何処にでもいるカーラート人と見えたが、どうもあの青鬼ブルーオーガの様子はおかしい」


 準決勝! 青鬼ブルーオーガ、圧巻の勝利です!!

 さあこれで決勝戦は、なんと青鬼ブルーオーガvs鬼オーガのカードとなってしまいましたーーッ!

 これは戦うまでもなく勝負は見えたか?! いやしかし、このオーガはただのオーガではありません!!

 Bランクモンスターである血染熊ブラッディベアを降し、霧霞豹フォグレパードを降して決勝の場に立つ権利を得たのです!

 もしかしたらがあり得ますよ!? さあ皆さん、それでは来週の一戦もお見逃しなく!!


 あのスピーカーの言でいえば、おかしいのはギークの方であって、青鬼ブルーオーガは順調に勝ち上がったような感じだったけれどもね。


「俺はモンスター控用の鉄牢の中にいたからな、相手は見ていない。どうおかしかったのか」


 ギークが尋ねる。左に同じ。僕も次の対戦相手となるらしい青鬼の姿は未確認です。


「あれは、恐らく高ランク個体だ。本当の意味でのBランクモンスターだろう。お前の本来の姿と同じランクの個体のように見えた。だが長老個体エルダーという割には、戦い方が荒かったな。動きが雑で、酷く暴力的だった。普通、長老個体エルダーともなれば、お前のように、戦い方ひとつとっても、色々と洗練されて来るものなのだが」


 ギーク、洗練されてますかね?

 まあ、短期間とはいえ、きちんとした師匠について訓練を受けたわけですから、そんじょそこらの野良とは違うのだよ、ということですかね。

 師事して伝承されるということは、個が長年の試行錯誤と暗中模索の末にもしかしたら見出せるのかもしれない境地を、最初から示されているようなものですものね。その境地に実際に辿り着けるかどうかはまた別の問題として。


(ご主人様、ナタリア氏の言うことは間違いであります。次にお館様が対戦する相手は、長く生きて自然と高ランクに至った個体ではないのであります。あれは人為的に過剰な魔素を注入された狂化個体ベルセルクだったのであります。やはり未熟な技術によるもので、個体の寿命を大きく縮めていたかと思うのであります。私の見立てではあの青鬼の寿命は早ければ来週末か、もって来月という位かと思うのであります)


 河童が割り込んできた。狂化個体ベルセルク? また何か新しい単語がこやつの口から湧いて出たぞ。


(よくわからないの。あの蝗と同じようなもの、ということであっているの?)


(それは何とも言えないのであります。どちらも未完成な生体技術で、恐らくは実験的に生み出された個体なのであります。蓋然性は低くはないでありますが、判断を下すには根拠不足であります。両個体の組織サンプルが入手可能であれば、解析できる可能性もあるでありますが)


(その魔改造的なことは、やろうと思えば誰にでもできるようなもの、なの?)


 そんなわけはないと思うのだ。というか教会がやっているとしか思えない今日この頃だ。

 教会以外の組織にはできないだろう。きっとそうだ。何故ならば教会は悪で僕のサタンだからだ。


(できるであります。相応しい設備のある場所で、適切なAIの支援を受けるのであれば、マニュアルを読んで諸元値を望む値に割り振って、後はボタンを一つ二つ押すだけなのであります)


 ……、ほんとかよ?

 河童ができるでありますとか簡単でありますとかいうニュアンスでいう言葉はあまり鵜呑みにできない。

 意味不明なのでつい聞き流してしまうのだが、非常に非現実的な前提条件がくっ付いているのだ。


 Q.伝説に言う金剛石を加工して云々てできるものなの? 最硬を加工できる理屈が不明なの。

 A.もちろん可能であります。劈開性を見極めてダイアモンドカッターを利用すればスッパリであります。


 みたいな感じでだ。なんだよダイアモンドカッターって。


「その相応しい設備であるとか、適切なAIであるとかいうものを用意しようと思ったら、どれくらいの金銭が必要になる? そして、未完成だというならそれらが用意できずに人力で代用したということだろう? そうするとそのことに必要な労力はどれ程のものだ」


 うぉう。え、ギーク、河童の発言の意味が分かったの?


「何の話だ?」


 ナタリアが訝し気にギークに問い掛ける。そりゃそうだ。

 ナタリアから見ればギークは突然おかしなことを口走った体であろう。


(私が想定する水準の設備は、今の人間の科学力で用意できるものではないと類推されるであります。金銭での換算は現実的には不可能であります。設備やAIの支援なしに原始的な道具と勘働きだけで、あのレベルのものであるとはいえひとまずの成果を上げようと思うのでありましたら……、そうでありますね、百年か二百年か、ブレイクスルーがどこまで期待できるか次第でありますが、相当に長い期間の試行錯誤の積み重ねが必要であろうと思うのであります)


 やっぱりだよ。

 うん、よく分からないけどやっぱり教会が怪しいよね。

 成果が出るかわからないようなことに、何世代にも渡って取り組める、湯水のように人モノ金を注ぎ込める組織となれば、それはもう教会を置いて他にはあるまい、だ。


[INFO] ギークは、蝗型不明個体(Unknown)を殺害しました。

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  妖鬼デーモンオーガ Bランク Lv11 変身

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv3

  唆すもの Lv--

  地図 Lv4

  引戻し Lv3

  制圧の邪眼 Lv2

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(継承元:小鬼)

  忍耐の限界(継承元:鬼)

  手弱女の化粧


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