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天国のお土産  作者: トニー
第四章:潜み隠れて名を顕す
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4-18. コロシアム三回戦の日、なの

 こいつは出禁にしておくべきモンスターじゃないのか。

 僕はそう思った。モンスター同士を嗾けて戦わせる、その趣旨というか、目的に反している。


 何故ならコイツの戦いぶりを観戦しても、観客はなにも面白くはないだろうからだ。

 僕の心配することでは、もちろん無いのだけれど。


 一面が真っ白だ。リングは濃霧で覆われてしまっている。

 もしこれが自然現象なのであれば、天候不順により試合延期とするべきだろう。

 五里霧中。前も後ろも何も見えない。とにかく真っ白だ。


 もちろん、自然現象などではない。

 対戦相手のモンスター、霧霞豹フォグレパードの異能によるものだ。


 とにかく見えない。視界は完全に殺されている。

 そして相手の動きは幻惑的で、おまけに俊敏だ。

 どう戦ったらいい。まともに戦えない。ギークはただいま絶賛苦戦中。


 爪は鋭くギークの厚い皮膚を裂き、牙は荒り硬く締まった肉を毟る。

 苦戦も苦戦、一方的に嬲られる大苦戦だ。相性が悪い。

 観客も退屈で仕方があるまい。血が見えないものな。

 スピーカーが何とか盛り上げようと、色々な推測を叫んでいる。

 お仕事お疲れ様。大変だね。


「何が起きているのか! 前回に引き続き、やはり全く我々の目には見えません! しかしこの霧が晴れたが最後、そこには霧霞豹の牙に朽ちたオーガの無残な屍があるのでしょう!」


 うるさいよ。


 霧霞豹もまた、Bランクモンスターだ。Bランクが多すぎる。

 Cランクで勝ち残っているモンスター、それを偽装しているギーク以外、もう居ないのではないか。


 ギークが当推量で金棒を振り回す。手応えなし。全然違うところを狙っている。

 或いは偶然、振るった方向の先に敵がいても、バックステップで簡単に躱されてしまう。

 相手はどうやって、ギークの居所や攻撃を把握しているものなのか。

 臭いや音、後は野性の直感だろうか。

 どれも意趣返しは難しそうだ。


 ネコ科の野獣から転じたモンスターに相応しく、相手は足音を全然立てない。

 ニオイも駄目だ。鬼族は人族と同じく主に視力に頼るモンスターだ。

 つまりそれ以外の五感の精度も大体人並みだ。

 相手も無臭ではなかろうが、この獣臭い霧の中で、濃度差を頼りに相手の居場所を察知する曲芸なんてできるわけがない。


 豹は執拗に、ギークの首元を狙ってくる。噛みつかれたら最後だ。

 そのまま引き倒されて、ギークが窒息するまで強健な顎の力が緩むことはないだろう。

 このままだと普通に負けるぞギーク。手を出すなとか格好つけてないで、僕に手伝わせなさいよ。

 お前が傷付くと僕が痛いんだよ。そのままの意味でだよ。

 僕は不満だ。不満も不満、大不満。


 この霧の中でも、僕には何の不都合もなく相手の居場所が分かっている。

 マーキングするまでもなく、<<地図>>の周辺探索に生体反応として引っかかっているからだ。

 本来だったら、相手にとってこそ僕らとの相性が悪いはずだ。

 僕の<<地図>>は霧霞豹こいつの能力の天敵だ。


 でもギークが、僕には手というか、口を出すなという。

 これは腕試しなのであって、お前の口出しは受けたくない、だそうだ。

 何だよもう! そう言うならじゃあ、好き勝手に甚振られないでよ!


 咆哮を上げることもなく、無慈悲に静かに、豹がギークを削りに掛かる。

 うわぁ、これまた喰らうよ。僕は襲い来る激痛を覚悟した。

 来るタイミングを把握できて、覚悟を決めて臨めるからこそ、辛うじて僕は堪えていられる。


 ギャリッ 豹の爪が喉を庇ったギークの腕を抉る。

 あぐぅぅぅうぅッ 痛い痛い痛い! それでも、痛くないわけじゃない。


 見ない、聞かない、嗅がない、味合わない。そこまでは、僕が強くそうしようと思えば、ギークからの感覚共有を粗方はカットできる。動揺していたりすると出来なかったりすることもあるけれど、大体はできる。

 触覚がちょっと微妙なんだ。少なくとも痛覚は、意識的には伝達をカットできない。何でなのか。苦痛耐性が欲しい。無効でもいい。僕に痛みの感覚なんて必要ない。要らないったら要らない。


(ギーク! もう勘弁してよ! なの! このままじゃ本当に死ぬの!)


 再び霧が蠢き流転する。次は背中が裂かれる。その次は太腿だ。


「黙れ。気が散るだろうが」


 攻撃を散らして、喉付近の守りを薄くしようというのが、豹の魂胆なのかもしれなかった。

 小賢しい。そしてズキズキ痛い。


 遺憾ながら、ギークは僕のロボットじゃない。

 言うことを聞いてくれることもあるけれど、聞いてくれないこともある。

 戦うかどうかの判断では僕の判断もそれなりに尊重してくれるけれども、闘い方についてはギークが決めてしまう。

 まあ確かにいちいち僕が指示しなければ動けないようでは、そもそも闘えないわけで、基本的にはそれで全然かまわないのだけれども、今回のように意固地になられると本当に困る。


 ギークにとって、このコロシアムに出てくる相手はどれも格下だ。

 腕試しをすると言っておきながら、格下に翻弄されて助けを求めるだなんて、冗談じゃないとでも思っているのだろう。

 そんなことどうでもいいから、僕に助言を求めて欲しい。

 ほら、次は左側から来るって! うわぁん、そっちじゃないよ! ほらまた喰らったよ!


 先週末が、一二回戦だ。今週末が三四回戦。

 今日、勝っても敗けても、明日も試合がある。


 ギークはそれなりに屈強だし、傷の回復もかなり早い。

 けれど、こんなにズタボロになってしまっては、明日に響くのは間違いないと思う。


 生きている限りは、たとえ立ち上がれなかろうが、リングに引き摺り出されるものと予想されるから、不戦敗もあり得ないだろう。ああ、ダメダメ、発想がネガティブに触れすぎている。

 ギークには優勝してもらって、これからの活動資金を稼ぐ計画なのだ。

 こんなところで躓くんじゃない。


(ご主人様)


 ん? あ、河童か。なんですかこんな時に。


(ご主人様、たぶんそろそろ臨界になるのであります。要警戒であります)


 ……、なにが?


 霧の向こうから、豹が飛び掛かってきた。ギークの反応はギリギリで間に合わない。

 終に喉元に喰いつかれてしまい、押し倒される。本格的にヤバい。


「グカッ、ム、、、ゥ、、、カハッ」


 苦し気に、ギークが喘ぐ。呼吸ができない。最悪だ。

 獣臭い息が豹の鼻腔から吹き寄せてくる。このまま窒息させて、そしてお食事の時間なのだろう。


 これまで、ギークは死んでも蘇生出来ていたが、喰われてしまった場合はどうなるのだろう。

 これは恐らくだが、脳幹や心臓などの主要部位が食い荒らされてしまった状態からは、蘇生はできないと推察される。


 心臓に杭が打たれていたり、絞首刑で吊るされてしまっているような状態からでも、たぶんダメ。

 つまり一般に行われているようなゾンビ化阻止の方法で、普通にギークの蘇生も阻止されてしまうはず。

 ギークの蘇生も、死者のゾンビ化も、<<不死の蛇>>だったか? 同じギフトの能力で実現されているという以上、多分そうなのだ。

 どうしよう、どうしよう。河童経由で、ナタリアに助けてもらうか。

 河童も口に枝なりペンなりを咥えての筆談なら、できなくもないみたいだったし。


「グルォウウゥルルガアァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ」


 頸の骨が圧し折れた。


 ギークのではない。霧霞豹の頸骨がだ。

 圧し掛かられていたギークが、どんな怪力か。

 自分の喉元に喰らい付いている霧霞豹の首元を逆にガシッと両手で掴み、無理やり引き剥がしたのである。


 そのまま反転、マウントポジションを取って締めあげ、ボキリと、至極あっさりそれを圧し折った。

 そして咆哮をあげた。あ、ギーク正気じゃない。キレてる。


 アイアンクロ―で、すでに息絶え絶えな豹の頭部を鷲掴みにして、引き千切る。

 観客達は不満だろう。霧は、まだ晴れていない。


 彼等が最も見たいのであろうスプラッタな惨劇がここでは繰り広げられていたが、それが彼らの目に留まることはなかった。

 ブチリ、グシャリ、ボリ、ボリ、ボリ、ボリ。そんな悲惨な音だけが、霧の中に広がっていく。

 スピーカーが、何やら喚いている。


 ようやく霧が晴れて、視界が開けた。そこにはもう、霧霞豹の姿はない。

 飛び散った血の跡と、引き千切られた毛皮。僅かな骨肉の欠片だけが、散り散りに残されているだけだった。


 相手方の魔物使いが、茫然とこちらを見ているのが視界に入った。


「酷い有様だ。それは、平気なのか?」


 戦いを終えてリングから降りれば、呆れたような口調でナタリアに言われた。

 平気に見えますか? 平気じゃないです。僕はもうボロボロです。


 これ、師匠の身体に戻ったらどうなるのだろう。傷、塞がるのだろうか。

 師匠の姿まで重傷の流血ドクドクだったら、僕は半狂乱でギークを責める自信があります。

 ある程度傷が癒えるまで、オーガの姿でいてください。


「やあやあ、やはりそうでしょうとも。Cランクのモンスターが、そうも続けざまにBランクを降しているとなれば、何かございますよなぁ」


 車輪付きの鉄牢に収まって、バックヤードに戻る途中のこと。

 胡散臭い男がふらふらと近寄ってきた。


 浅黒い肌に真っ黒なトンビコートを羽織り、赤味がかった白髪を短く刈り上げた風体の男である。

 トーナメント出場にあたっては偽名を使い、相貌を覆面で隠しているナタリアも相当な不審人物だろうが、それはともかくとしてこの男は胡散臭い。というかそんなナタリアにへらへらと近付いてくる時点で胡散臭い。


「初めまして、同胞様。その覆面姿の隙間から覗く肌色を伺えば、こっちと違っておたくは純血のようだ。いやはや、羨望を覚える。さぞかし加護の力もお強いのでしょうな」


[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[WARN] 忍耐の限界を、突破しました。

[WARN] 忍耐の限界により、一時的に狂化されます。

[WARN] 忍耐の限界により、レベルが上昇します。

[INFO] ギークは、レベルが上がった!

[INFO] ギークは、霧霞豹を殺害しました。

[INFO] ギークは、霧霞豹を摂食しました。

[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。

[INFO] ギークは、霧霞豹を摂食しました。

[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。

[INFO] ギークは、レベルが上がった!

[INFO] ギークは、霧霞豹を摂食しました。

(中略)

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  妖鬼デーモンオーガ Bランク Lv3→Lv11 変身

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv3

  唆すもの Lv--

  地図 Lv4

  引戻し Lv3

  制圧の邪眼 Lv2

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(継承元:小鬼)

  忍耐の限界(継承元:鬼)

  手弱女の化粧

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