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天国のお土産  作者: トニー
第四章:潜み隠れて名を顕す
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4-17. 目論み驚き悩んで祈る、なの

 脳裏に<<地図>>を想起する。マーキングの機能で設置できる追跡マーカの数は大分増えた。

 現在常設しているだけでも、両手の指の数を超えている。


 更には未踏領域でも、マーカがロストしなくなっていた。

 マーカーだけが、何も描写されないその位置にポツンと表示されている。

 このマーカーは恐らくはレンブレイだが、その事に気が付いたのは水底に逃げ出した水竜が地図上でロストしなかった時だ。


 習熟レベルが上がって、機能が強化されたのだろう。衛星写真はまだ見れないけれど。

 河童に聞いたら、<<地図>>は既に四段階目(Lv4)まで機能開放が進んでいるらしい。


 機能開放という表現は初めて聞いたが習熟レベルのことだろう。

 僅か半年足らずで四段回目に至るなんて普通じゃない。それこそ非常識なペースだ。

 原因は、僕が<<地図>>の機能をほとんど何時でも、常に発動させているからだろうか。

 周辺察知と視点切替の機能を発動させていないのは、たぶん寝ている時くらいだ。

 もちろん他にも理由があって不思議じゃないけれど、きっと理由の一つではあるはずだ。


 金属武器が傍らに無くても、僕にはどうしてかギフトが使えるらしい。

 それと気が付いたので、以来<<引戻し>>のギフトもこっそりと、常時発動を試みている。

 ギークが持っている革袋を、引き寄せてみたり離してみたり、ブラブラと揺らして遊んでいる。

 これでレベルが上がってくれるなら儲けものだ。


 鎧犀が棒立ちのままギークに斃されて、コロシアムでの一回戦目が終わった。

 リングに降りたギークに、なまじりを決したナタリアが詰め寄ってきた。


「おい、さっきのは何だ? 妖鬼としての能力か? それともフレデリカの仕業か?」


 さすがに河童を背負ってリングには上がれない。

 河童にはナタリアと一緒に大人しく試合観戦をさせていた。わざわざ車椅子まで用意したのだ。

 狩人組合で職人の住居を聞いて、義手義足を注文することは無事にできた。

 材質はその場にて用意可能なもので妥協をさせたが、オーダーメイドであることに変わりはない。

 完成までには時間がかかる。


「フレデリカの仕業ということになれば、なぜ金属武器もなく相手を拘束するようなタイプのギフトが使えるのかという話になるぞ。だが、妖鬼にそんな能力があるなんて話も不自然だ」


 ギークが詰まらなそうに応えた。


「別に俺の仕業ではない。フレデリカの能力でもない。理由など俺は知らん。相手が動かなかったので、こちらから打って出たにすぎん」


「……、嘘は言っていないようだが、怪しいな。何かを隠しているだろう」


 ナタリアが指摘する。まあナタリアでなくとも、当然にそう思うだろう。


「隠し事についてはお前に言われる筋合いはないと思うのだがな、ナタリア。もう一度言うが、あの鎧犀の様子がおかしかったのは、俺の意志によるものではない。俺は知らん」


 僕の存在はナタリアには伏せておきたい。

 その方法について、ギークと河童を交えて相談したことがある。


 結論は、下手に嘘はつかないこと。<<直感>>系統のギフトは嘘に強い。嘘は嘘だとバレてしまう。

 今のところギークはナタリアの追及を旨く躱していると思う。うまく惚けている。

 この辺の子狡さも、悪徳爺の薫陶を受けてのものに違いない。薫陶? 汚染かな。


 ギフトの発動には、金属の補助が必要だというのが常識だ。

 普通は、ある程度の質量の金属を増幅器として用いなければ、有効に至らない。

 けれど一部例外的に、小さなアクセサリや、鋼貨程度の小さな金属でも十分だというものがある。

 それは全て、自動発動型のギフト、或いは効果範囲が自分の体内限定のギフトだ。


 使えるのだからいいかと、僕は<<地図>>のギフトを、武器携行の是非にかかわらず、ずっと使ってきた。

 <<地図>>は自己の知覚能力を高める<<千里眼>>系統のギフトだ。

 だから、金属の補助なしで使えても、そこまで不自然じゃないと思っていた。


 でも<<邪眼>>系統のギフトや、<<念動>>系統のギフトである<<引戻し>>もなのだが、外部に強く干渉するそれらギフトを、金属武器の補助なしで使えるというのは明らかに異常だ。それはおかしいはずのことだ。


 おかしいことのはずだけれども、僕にはそれができるらしい。不可思議だ。

 不可思議だけれど、歓迎である。使える理由が分からないので、ある日突然使えなくなってしまうリスクがないでもないが、心配しても始まらない。使えるものは使う。


 <<引戻し>>は<<地図>>とは違って、単一機能の効果の程度、牽引力とか引戻し速度とかが強化されていくタイプのギフトであるようだ。革袋をゆらゆらやっているだけだと、習熟段階が上がってもそれと分かり辛い。

 レベルが上がったら教えてねと、河童に頼んでおこう。


 フラッゲンから入手したらしき<<制圧の邪眼>>の訓練は悩みどころ。

 ギークではなくて、僕が(・・)注視した相手をビビらせたり、上手くすると金縛りに出来たりするっぽい。街中での常時発動には色々と問題がある。


 無難なところで一言断って、河童の端正な相貌を暫く見詰めてみた。

 四半刻も経たない内に飽きた。河童は表情に変化がなさ過ぎる。どんな鉄面皮だ。

 そして河童には全然ギフトの効力が及ばなかったようである。

 肝心のレベル上げになっていたのかも怪しい。


 ナタリアの要望で、夜は城外でキャンプの生活をする事になった。

 今は冬だというのに。

 いや確かにそろそろ、朝方に地面が凍り付いているような事は減ってきたけれども、寒いんだから冬だ。

 桜が咲くまでは春じゃない。


 普通なら、断固の拒否を表明するところである。

 以前ギークが指摘したように、ナタリアの近くは常時発動されている<<赤魔法>>の効果でほんわかと暖かいのだが、それは風が吹くだけで搔き消される程度のものでしかない。

 寒い季節に敢えて寒い場所に赴くなんて、とても正気の沙汰とは思えないのだが、マゾなのか。


「テンテンが寂しがっていてな、保護者としては放置できん。済まないが付き合ってくれ。なるべくになるが、不便は掛けないように取り計らおう」


 そういう事情だそうである。そう頼まれてしまっては無下にはしにくい。

 というかギークのおバカが、ナタリアに「夜は外でキャンプにしたいんだが」と打診された時点で「別に構わんぞ」と応えてしまっていて、それを撤回させる理由が咄嗟に思いつかないでいたら「すまないな、感謝する」で決定事項となってしまったのだ。

 ナタリアとテンテンだけで外で寝ればいいじゃないか。じゃなきゃテンテンに変装をさせて連れてこい。なんで僕まで外で寝なきゃなんないのさ。理不尽だ。ギークが悪い。


 しかし逆境を好機に転ずるのが僕である。キャンプ中であれば周囲には人影はない。

 夜は僕の意識が続く限り、邪眼ギフトを常時発動させておくことにした。


 ナタリアやテンテンはなるべく視界に入れないように、少なくとも注視はしないように努める。

 そうすると目に入ってくるのは凡そ無機物ばかりなわけで、意味が在るのかどうかは疑問ではあった。

 駄目元のつもりだったのだけれども、つい最近ギークの弓矢を矯めつ眇めつしていた時に河童から、<<制圧の邪眼>>がレベルアップしたようでありますとの報告を貰った。

 ちゃんと効果があったらしい。よかったよかった。何に対して効果があったのだろう。


「ねえ! 時々すごい嫌な視線を感じるって言うか、背筋がゾクッてなることがあるんだけど!! あんた、わたしのことを変な目で見てたりしないでしょうね!?」


 犬耳ちゃんが、キッとギークを睨み付けてそんなことを言う。

 きっと自意識が過剰なんだと思う。良くないね。でも思春期にはありがちだよね。

 しょうがないよ、うん。そういう時期だし。早く大人にお成りな?


 再度、<<地図>>に意識を戻す。<<地図>>上にひとつだけ、黄色いマーカがある。

 他は青か、或いは灰色だ。習熟レベルが三段階目になった時に、有効になった色分けの機能である。

 黄色は負傷、だと思う。或いは状態異常というべきか。負傷、骨折、そして失明。


 このマーカが、コロシアムで開催中のトーナメント、僕がギークの最終戦を黒星と予想した理由である。

 優勝が決まった後の、ハンターとのエキシビジョンマッチ。

 だってそこにあったのは、クラナスの名前だったから。


 無名で盲目の女ハンターが、Bランクハンターへの昇格を目指して最終日、トーナメントの優勝を勝ち取った屈強なる最強のモンスターに挑む! 彼女の運命や如何に!!


 看板にデカデカと描かれていたのはそんなふざけた客寄せの煽りだけ。

 でも対戦表にはちゃんと女ハンター((クラナス))と書かれていた。

 もちろん同名の別人に違いないと、僕は思った。

 それでも僕はギークを急き立てて、王都中を探し回った。


 何がしたいのかさっぱりだ? うるさい黙れギーク。

 不平不満は全却下。いいから走れ! さもなきゃもうやめてくれって泣きついてくるまで、耳元で大泣きしてやるからな!!


 そして見つけた。僕の知らない男と、差し向かいで杯を交わせていた。なんてことだ。

 いや、男と一緒なのは別にいいのだ。いや、良くはないのだが、それどころではないのだ。

 クラナスだと思った。たぶんそうだと思った。でもなかなか確信が持てなかった。

 だってクラナスは、顔の半分ほどをもの面積を、赤い革ベルトのような眼帯で覆っていたのだから。


 なんで? なんで? なんで? どうして?

 ああそうか、奴等の仕業か。

 ああそうか、奴等の仕業か。

 ああそうか、奴等の仕業か。

 そんな節穴な目は要らないだろうと、嬉々としてやつらは、それをするんだ。


 クラナスが生きていてくれた。それはとても嬉しい。

 声を掛けたい。ミアのことを話したい。でも、でも、そんなことはできない。

 クラナスが両目を抉られたのは、きっと僕のせい。

 事故なんかじゃないはずだ。事故なんかじゃない。絶対違う。

 僕に何かできることは、償えることはないか、教えを請いたい。許しを請いたい。


 けれどクラナスの口からミアを罵る言葉が出てきたら、僕はぎっと耐えられない。

 嫌だ。聞きたくない。ミアの悪口だけは許せない。

 でも僕はクラナスを責めたくない。ミアは絶対に悪くない。クラナスも決して悪くない。

 矛盾してしまう。ダメだダメだダメだ。

 そんなことになったら、僕はきっと壊れてしまう。


 クラナスは強い。だからギークが勝てるはずがない。

 正々堂々と戦って黒星になる。それでいい。僕はクラナスに声なんて掛けない。

 戦って、敗北して、それで終わりにした方がきっといい。

 生きていてくれてよかった。その男がなんなのかわからないけれど、恋人なら素直に嬉しい。


 ミアの復讐は僕の責務だ。僕の義務だ。僕のやりたいことで、生き甲斐だ。

 そしてそれにクラナスを巻き込むつもりはない。

 クラナスは、いっそ記憶喪失にでもなってくれていないだろうか。

 それで幸せになって、孫にでも囲まれて、老婆になった後にでも、大往生の直前にでも、そういえば昔可哀想な女の子が居たとミアのことを思い出してくれるのが、僕にとっては理想の展開である。


 理想だ理想だと、願っているだけではどうしようもない。祈ってばかりでは実現しない。

 神様なんていないのだから。ミアを救ってさえくれなかったのだから。

 そうなるように、積極的に仕掛けるべきだろうか。

 いや、ダメだダメだ。関わろうとしちゃだめだ。


 クラナスは僕らの保護者で、理解者で、優しいお姉さんだった。

 僕はきっと、クラナスに甘えようとしてしまう。

 声を聴きたくて仕方がないから、どうしても関わる方向で考えてしまう。

 クラナスは生きていてくれた。それでもういい。クラナスはきっと大丈夫。


(前略)

[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。

[INFO] ギークは、レベルが上がった!

[INFO] ギフト「制圧の邪眼」は、レベルが上がった!

[INFO] ギフト「制圧の邪眼」は、Lv2になりました。有効射程、金縛り判定の成功率が上昇します。

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  妖鬼デーモンオーガ Bランク Lv2→Lv3 変身

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv3

  唆すもの Lv--

  地図 Lv4

  引戻し Lv3

  制圧の邪眼 Lv1→Lv2

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(継承元:小鬼)

  忍耐の限界(継承元:鬼)

  手弱女の化粧

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