4-13. 探し物は見つからない、なの
(結局、トーナメントには参加することにしたのでありますね)
王都の狩人組合本部に挨拶に行って、モンスター図鑑を見せて貰った。
赤鬼、青鬼、妖鬼。その三種族が、鬼族Bランクの下位圏だとされていた。そして、Bランクの上位にあるのは、大鬼の一択だろうと言われた。
あくまで、多分そうだろう、恐らくはそうだと思われる、この目録を見る限りは、である。
(ギークがやる気なの。それに賭博でお金銭を増やすチャンスなの。ギークは間違いなく普通の鬼よりは強いから、大穴のように見える優勝候補なの。目指せ濡れ手で粟の大儲けなの)
大鬼は、巨躯を誇り高い身体能力で勇壮に暴れ回る真紅の鬼だ。そのまま赤鬼の正統進化としか思えない。
本当に他にはないのだろうか? 前にも横から見せて貰っていたが、組合の受付担当者はモンスター名がずらっと並んだ目録から「それっぽいもの」を探しているだけのようにしか見えない。鳥瞰図とか樹形図とか、そういったものはないのだろうか。
(トーナメントの参加者、つまりモンスターの調教師自身は、賭博には参加できないルールとあったのであります。どうするのでありますか?)
狩人組合は学術機関ではない。だからなのかもしれなかった。
彼等にとっては、これから狩りに行こうとする相手の情報が検索できればそれでいい。
精々、よく一緒にいるモンスターが何か、が分かれば必要十分だということになる。
(調教師はナタリアということにするの。そして、賭博は悪徳爺として行うの。抜かりはないの。あ、変装で着替える際には、いつも通りフレデリカに協力をお願いするの)
そういう意味では、大鬼は赤鬼や青鬼を束ねて率いる軍勢の指揮官という位置付けのモンスターであって、大鬼がいればその配下として赤鬼青鬼は大概一緒にいる。
鬼族の軍勢がエデナーデに攻めてくるとき、コイツの姿が見えたら要警戒だ。群じゃなく軍団が攻めてきたということになるからだ。大鬼の更に上位は豪鬼で、鬼族で構成される地獄の軍勢はこの豪鬼を首魁とするピラミッド構成になっている。
(武器についてはどうするでありますか? 金属武器は使えないということでありましたが)
豪鬼の配下に大鬼がいて、大鬼が赤鬼青鬼を束ね、赤鬼青鬼が鬼共を従える、そういう構成だ。この五種族の関係性は分かりやすい。組合のモンスター図鑑を見ても目録を見ても、関連性があるのが一目瞭然に示されている。
逆にそこからあぶれる妖鬼については、そういえばこいつも鬼族だよねと言われなければ分からないくらい、離れたところにポツンと名前が載っているという有様だった。
(金属武器以外で、城内に持ち込めて武器代わりになりそうなもの、何かあった? なの)
つまり、言ってみれば学術的な意味で、その上位種や下位種のことを網羅的に知りたいという僕の需要は、組合の資料編纂方針からしてアンマッチなのだろう。
そもそも普通のハンターにとって、そんなことはどうでもいいことなのだと推測される。
確かに、重要なのは鬼族と括られるモンスターなのかではなく、どういう場所に生息しているのかとか、そういう括りで分類するのが、組合としては実用的な最適解になるのだろう。
(幾つかあるのでありますが、どう目録をお見せするかで迷うであります。本当はワンクリックで好きなようにソートしたりフィルタリングしたりできる形のインタフェースをご提供差し上げたいのでありますが)
だまれ河童。それは何の呪文だ。突然変なことを言いだすんじゃない。
因みに、妖鬼の項に記載されていた事柄には、断定されていることがびっくりするくらい少ないかった。伝聞、噂、根拠の乏しい推測、そんなものばかりだ。
赤鬼や青鬼に比べると、記載されている情報量自体は少なくはないのだが、むしろ多いくらいなのだが、質では大幅に劣っていたと言えるだろう。
確からしい情報といえそうなのは、ほとんどナタリアが説明してくれたことで全てだった。「手弱女の化粧」という種族特性の名が明記されていたことくらいか。でもこの名もナタリアは以前言っていた気がするしな。
(思い出したの。赤鬼の金棒を、確か持っていたはずなの。あれでいいと思うの)
種族特性といえば、赤鬼の取得特性は「怪力鬼」で、青鬼のそれは「体力鬼」とあった。まあ、分かり易いのは結構なことだが、一体誰が名付けているのやら。Bランク上位の大鬼は「鬼士の闘志」で「怪力鬼」と「体力鬼」の効能を足し合わせて強化したような能力。豪鬼はAランクなので閲覧不可だ。
(可鍛鋳鉄製でありますね。あれを金属武器でないと称するのは、本来は正しくないと思うのでありますが、言葉の定義は時代と共に変わってゆくものだということなのでありますね)
組合を辞した後はナタリアと別行動で鍛冶屋に向かった。ナタリアは何か城外に用事があるといって、いったん別れた。彼女は王都に来るもの最初ではないということだから、知り合いとかでもいるのだろう。いわゆる同志という奴かも知れない。
鍛冶屋を訪ねたのは、港町モーソンではかなわなかった、河童の義手義足づくりが目的だ。薬で治るんじゃないのかと聞いたら、自己修復の芯となるものが必要なのであります、というようなことを言われた。芯とはなにかと問えば、義手義足のようなものであります、ということだった。
最初に訪ねた鍛冶屋では、うちは武器鍛冶だ、義手義足なんてものは扱っていない、と言われた。
なんと、鍛冶屋のくせに武器しか作らないとかあるらしい。
エデナーデの髭オヤジはなんでも作ったのに。
では、誰なら作れそうかと尋ねれば、そんなこと何で関係のない俺に聞くのかと返された。
どいつもこいつも態度が悪いな。理想的な美の女神スタイルであるところの師匠の姿で頼んでいるのに無下に断るとはどういう了見だ。ホモなのか。
(ところでフレデリカ、義手義足の素材ってなんでもいいものなの?)
しょうがないから雑貨屋で消耗品、乾物屋で保存食を買い込む傍らに聞いてみる。さあねぇ、見当がつかないわ。どうだろうねぇ、木工品なら細工屋じゃないか?
(何でもよくはないのであります。理想でいえば老齢に至った黒き仔山羊の心材か、その母体の枝あたりが望ましいのであります)
おいこら、ちょっと待てや河童。
なんだっけそれ、どこかで聞いたことがあるモンスターの名前だ。
たぶん、ミアの読んだことがある物語の中でだと思う。
聖騎士達が苦労して倒すか追い払うかするような相手の名じゃなかったか?
(木精霊が宿って樹齢千年を数えてから、寿命ではなく切り倒された古木でも妥協できるのであります。木精霊の怨讐が強く残っているほど良い素材なのであります)
何も妥協してないでしょそれ。
いや分かった、つまり金属じゃなくて木材だな? 木製でいいな?
とりあえずの繋ぎで十分でしょ。万が一、億が一、そういう素材を入手することができるようなことがあった時には、後から取り替えればいいのだ。
街中をぷらぷらと探し回った。
けれども結局、ナタリアと合流を約束した、城門が閉まる刻限までには、残念ながら求める職人を見付けることはできなかった。無念である。
一応ナタリアにも聞いてみよう。
「義足? どうだろうな、狩人組合で聞いてみればいいだろう。誰かしらは知っているはずだぞ。千切れたくらいならくっ付けることもできるが、モンスターに手足が喰われてしまったりした場合には、世話になることになるわけだしな。それなりに需要のある品のはずだ」
あら、、、灯台下暗しというか、なんというか。
む、ギークが何やら僕を非難している気配を感じる。
いやだって、まず鍛冶屋でできないとは思わなかったのだもの!
組合を出てナタリアと別れた時には、鍛冶屋に行く頭しかなかったのだよ。
いいよ、明日だ明日! 明日にしよう。
トーナメントにナタリアの名で参加を申し込んで、それから組合で職人の居場所を聞いて、訪問して注文を取ってもらう。
それでいこう、そうしよう。
「しかしトーナメントに参加するとなると、それが終わるまでの間は、あまり王都から離れられないな。仕事は近場で済むものを選ぶしかなくなるか」
ハンターとしての仕事なんてしなくても、当面の生活が困らないくらいの金銭は残っている。
というか、また増えた。王都に向けて出発するまでの数日で、悪徳爺のグループが蓄えていた隠し資金の類を、幾つか回収させてもらったからだ。
そして今回さらに、それを元手にコロシアムで荒稼ぎしてやるぜと目論んでいるわけだ。正直ハンターとしての地道なお使い作業なんかには全く魅力を感じない。
ハンター達は、よくもあんな端金で生命をかけてモンスター達と戦おうなんて気になるものだ。結構苦労させられた水竜狩りの報酬も、僕の基準では大した額じゃなかったし。
とはいえ、ハンターとして仕事をこなさなければ、もともと王都まで足を運んだ理由であるところのランクアップがいつまでたっても実現しないだろう。
しかしさてその件だが、行動指針の見直が必要かも知れない。少し考えてみよう。
Bランクにならずとも、狩人組合のモンスター図鑑は閲覧することはできた。Bランクで閲覧可能な分だけではあるけれど。
でも欲しい情報が手に入ったとは言い難い。さてこのままハンターとして、ランクを上げていく意義はあるのだろうか?
なくはない。あげておいて損はない。
ハンターとして著名になる事で、情報源が増えることも期待できる。
例えば、Bランク以上のハンターには、教会から仕事が出されることがあると聞いた。教会には図書館がある。
普通なら図書館の資料が閲覧できるのは、修道士たちでなければ貴族だけだ。でも仕事を請け負う報酬として、閲覧を要求することはできないだろうか。或いは書籍の転写をお願いすることができるかもしれない。
白本は持参したっていい。転写してもらうには、<<司書>>系統のギフト持ちが居てくれないとであるが、王都の修道院にそれが居ないということもないだろう。
ただ、そういった交渉事までしようと思うなら、Bランクでは心もとない。
教会に座す権威主義的な連中は、下位の人間の言うことになど耳を貸さないものなのだ。
対等な交渉をしようと思うなら、肩書は立派であるに越したことはないわけで、出来ればAランクまで上がっておきたいものである。
Aランクはハンターの最高位だと言うことだった。どうなんだろう。なるのは大変なんだろうか?
どれくらい頑張ればなれるのだろう。或いは如何程を寄附したらいいのだろう。どっちでもいいけど、後者で済む方が楽でいいかな。今回の博打に成功すれば、と言うことにはなるけれど。
適当な貴族を捕まえて頭からバリバリやって、姿を拝借する。
そりゃあまあ、その方がきっと簡単だ。貴族の身分が得られれば、できる事は増える。
と言うか貴族でないとできない事が多すぎる。でも、それは義務や制約が山と増えるのと同義でもある。
貴族になればできないことも増えてしまう。権力は当主が握っているから、どうせ貴族になって他者に影響力を及ぼそうと思うなら、それはもちろん当主になるべきだ。そうでなければいちいち当主に伺いを立てないと、ご飯の一つも食べれない。
けれど当主となったらそれはそれで大変だ。恐らくいつでも予定はギッシリで、自由に動ける時間なんてほとんど無くなってしまうに違いない。
変身の枠は、なるべく温存しておきたいものだ。戦略の幅を広げる主要構成要素の筆頭だ。
貴族の当主に化けて、情報収集だけして、後は事故死を装って変身枠は死蔵とする。それはそれで無しではない案だけれども、他で潰しが利くようなことで貴重な枠を浪費するのは賢明とは言えないだろう。
何より無関係な貴族を巻き込むのも気が引ける。リスクも色々ある。最善案とは思えない。
僕の目的に対して、選択肢は何がある?
その内での最善手は何だろう?
どうであっても、ギークは鍛えておきたい。
聖騎士と一対一で戦って、互角に渡り合えるかどうかで、或いはせめて正体が露見した時に無傷に逃げおおせる事が出来るくらいかどうかで、採用できる戦略戦術の幅はだいぶ変わってくる。
露見必死ではリスクが高すぎて、どうしても計画に無理が出てしまう。
ならばギークを鍛えるついででAランクハンターを目指せるのであれば、それは悪くない方針だ。
いわゆる潰しが利く選択肢。結局Aランクハンターにまでなることは諦めるにしても、その過程で人脈を築いたり、知見を広めたり、戦い方を学んだりすることが、無駄になるわけではない。
例えばウェナンやフィーにしても、僕の復讐そのものには巻き込むつもりはないけれど、そのための下準備とか、情報収集とかには、もしかしたら協力して貰うかも知れない。貰えるかもしれない。あくまで累を及ぼさない範囲で、彼らを殺すようなことにはならない範囲で、ということだけれども。
ひとまずはハンターランクの昇格を目指す。それでいいか。
積極的に犯罪に手を染めるのは、まだ早い。急ぐな、焦るな。今は順調だ。そう思え。
急いては事を仕損じる。待てば甘露の日和あり。時間はある。時間はあるのだ。




