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天国のお土産  作者: トニー
第四章:潜み隠れて名を顕す
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4-11. 王都とコロシアムの噂、なの

 王都は平和な場所だ。

 この平和は諸君らの尽力によって為されている!

 そう騎士達に訓示を垂れる王様の、そのお膝元である。


 平和がその理由だろうか。

 以前は、野熊と餓鬼とか、猛牛同士とか、そんな感じだったはず。

 王都のコロシアムで、ほとんど毎週末開催されているという、血腥い興行の話だ。

 みんな、どれだけ血が見たいのか。血に飢えているのか。

 人気の興行だけあって、今は随分と内容がエスカレートしてしまっているようだ。


 特にこれといった障害に遭うこともなく、僕らは順調に王都へと到着した。

 ナタリアがだいぶ旅慣れていたので、もうほとんど任せきりだった。

 彼女が居なければ色々と難儀したであろうことは想像に難くない。

 気が付いたらいつの間にか、ご飯が目の前に並んでいた。

 宿の部屋の中に通されていて、火の起きた暖房用の練炭に手を伸ばりしていた。

 なんたる手際か。もうナタリアなしでは生きていけない。なんてことだ。


 旅装ということで羽織っていた分厚い布地の外套を脱ぎ捨てれば、そのナタリアは相変わらず、それは下着じゃないのかという薄着である。この酷寒の中でだ。本人はギフトの力で寒くはないそうなのだが、寒そうだという連想から見ているこっちが寒くなってくるので、もう少し何とかしてほしい。

 ギークは別に、寒さに弱かったりはしない。我慢が利くようだ。でもそれはギークの心持ちの問題であって、感覚を共有する僕は普通に寒い。ギークは感覚が鈍いというわけではないのだ。

 僕は寒いのは嫌いだ。暑いのも嫌だ。冬は布団から出たくないし暖炉の前から動きたくない。夏は氷室の中でハンモックで寝たい。叶ったことのない夢だ。いつもクラナスが邪魔をしてきたからだ。


 ナタリアは師匠と違ってこう、羞恥心というか、敢えて隠すことで醸し出される色気というか、そういうものが足りていないと思う。だから僕はナタリアにはあまり魅力は感じない。

 いや、美人だとは思うし、立派な双子山だと思うし、ついでに筋肉と脂肪の付き具合も程よい感じに鍛えられているなとは思うのだけれども、なんというかこう、さあ見るがいいみたいに開けっ広げにされると逆に興味が薄れるというか。

 うん、つまりは僕の好みじゃない。だから恥じらいがね、欲しいわけですよ。でもナタリアにそれは似合わなそうだ。オレに従え! なキャラだと思う。


 ギークはどうなのかな。今回、僕に断りもなく(・・・・・)ギークは悪徳爺フラッゲンを取り込んでしまったわけなんだけれども、そのせいで突如エロ方面とか、妙な性癖とかに目覚めたりはしていないだろうか。大丈夫だろうか。

 心配だ。こう、爺といえば、ねちっこくてエロいというのは一般常識を通り越した普遍的な真理だと僕は思うわけである。貴族であれば勿論の事、そうでなくても物置小屋でメイドを縛る庭師の爺とか居るじゃん?

 ゲッヘッヘ、オゥ姉ちゃん、エエ身体しちょるなァ。ちょいと儂の鎖でその身体、ギッチギチに縛られてみィへんか? 白い蠟燭での化粧なんかが、お宅さんの黒い肌には、よぅ似合うと思うんじゃよ、とかそんな事を言い出さないだろうか。

 どうしよう、口には出さなくてもきっと思っているに違いない。だって爺だし。ナタリア逃げて! 早く!!


「年々、出場するモンスターのランクが、上がっているそうだな。ノウハウが、磨かれてきたのか、関係者が、手慣れて来たのか。人気の興行だと言っていたから、ン、それなりに、フゥ、金銭も回っているのだろう。よっと、興味、あるのか?」


 重い服を着ていると肩が凝るなと言いつつ、ナタリアが寝台の上でストレッチを始めた。はしたなく大股を開いて前屈をしつつ、ギークに尋ねてくる。

 だめー! だめなのー! そんなことしちゃだめなのー!!


 先ほどまで階下の食堂で夕食を採っていたわけだが、コロシアムで開催されているイベントについての話題で周囲が盛り上がっていた。

 まず聴こえてきたのは、次のような会話だ。


「またスッちまったぜ! くっそー、まさかランク差を覆してくるとはよォ」


「ははは、お前分かってないぜ。確かに灰色狼グレイハウンドはD+でスライムはDランクだけどよ、スライムに噛みつき攻撃なんかがロクに効くわけないだろ」


「うるっせぇなあ、あの灰色狼グレイハウンド、毛並みも良かったし、もしかしたらC-いってるんじゃないかと思ったんだよ。そしたら多少の相性差なんて、捻じ伏せてくれんじゃねえかと期待するだろ?!」


 食堂が満席だったため、たまたま相席となった客がいた。

 その客に聞けばコロシアムの興業、今では普通にCランククラスのモンスターが出場するようになっているのだという。

 そしてまた時々は、トーナメントのようなものが開かれて、そうした時にはBランクの大物モンスターが登場することもあるのだとか。

 Bランクって普通に辺境の村とかを単独で殲滅し得る脅威のはずで、というかあの血染熊ブラッディベアとか赤鬼レッドオーガとかのランクの事なんだけれども、どんだけですか。


 興味あるんだろ、今夜もうちょっと付き合わないか? それで明日一緒に観戦に行こうぜ、などと軟派されたが、旅路を終えたばかりで疲れているからとサックリお断り。そうでなくてもお断り。

 貧相な男はダメだね。色目使うようなチャラ男も嫌い。

 やっぱりこう男であるならば物語に出てくる騎士の様でなければ。精悍に無駄なく鍛え上げられた肉体美が透けて見える感じが僕の好みなのだ。

 姫君、貴女の苦境をお察しし、参上仕りました! と頭を垂れるナイスガイ、いいよね! それ以外はお呼びじゃないから寄ってくんな。モブが調子乗ってんじゃねえ。


(今度また、トーナメントが開かれる予定だって言っていたの。ギークなら、優勝も狙えるんじゃないかと思うの)


 僕がそう言って、ギークがそれをほぼそのまま口にする。

 「ギークなら」のところが「俺なら確実に」に置換されたが。あと「腕試しにも丁度良さそうだ」などというセリフが末尾に追加された。

 腕試しねえ。水竜戦で十分じゃない? ああでも、あの後ランクアップしたか。それからはロクに戦っていないですね。鍛冶屋のおっさんを脅かしたのは、あれは戦いとは言えないし。


「そうかもしれないが、妖鬼デーモンオーガとして参加するということか? 妖鬼デーモンオーガはBランクの中でもかなり珍しい種族だぞ。出場するとなれば、注目を集めすぎるように思うな。それに、先刻の軟派男も言っていたが、コロシアムに出場させる目的で生け捕りにされるようなモンスターは、基本的には注意力の足りない若年個体だ。だからその種族における最低ランクなのが普通ということになる。お前のような長老個体エルダーが出てきたら、関係者は度肝を抜かれるだろう。あれこれ探られることにもなりかねないが」


 ふむ、とギークが少し考え込んだ。何を考えているのかな?

 徐にギークが服を脱ぎだして、全裸になった。いや、待って、ちょっと?!


「これならどうだ? 確か、こんな感じだったはずだ」


 何とも表現しにくい、内側から全身が膨らむような感覚に襲われる。

 そしてその感覚が治まれば、若草色の肌に折られた一本角、オーガだった頃のギークが其処に居た。


「何だと? そんなことも出来るのか」


 僕もびっくりですよ。どういうことよ。

 ギークが変身できるのは、師匠カニーファ悪徳爺フラッゲンの二通だけじゃないんかい。


「いや、……、……、確かにただのオーガに見えるな。確かにその姿であれば、オーガとして参加することもできるだろうが……。さっきまでのカニーファの姿とその姿、それ以外の姿にも、なれるのか?」


 問われたのでギークがシレッと応える。


「小鬼になることもできそうだな。だが、やや窮屈だし、今回はこっちの姿の方が良いだろう」


 ただしフラッゲンの姿のことは内緒だ。

 餓鬼にもなれるのかな? なれそうだね。今度確認しておこうか。


 ミアには、どうなんだろう。

 ミアになれたりはしないのだろうか。

 金髪のおしゃまな女の子。僕の友達。幼馴染。僕自身。


 いや、分かっている。なれないのは、分かっているさ。

 ギークは、ミアの記憶は継いでいない。分かっていた。

 フラッゲンを取り込んだ話と聞いた時に、更に確定的にもなった。

 分かっているとも畜生。


「……、それだけでも、なさそうだな。多芸なやつだ」


 少し考え込んでから、ナタリアが感想を述べた。

 ギークが変化できる対象は、だから餓鬼、小鬼、鬼、師匠カニーファ悪徳爺フラッゲンの五通りで、本来である妖鬼の容貌を足せば選択肢は六通りということだ。そして恐らくは、あと一人喰らった相手をその候補に追加し得る。人間限定なのか、モンスターでも行けるのか、それは分からない。


「もしお前から聞き出したことをオレが組合に報告すれば、モンスター図鑑の妖鬼の項は大きく改訂されることになるのだろうな。元々レアなモンスターと言うことで、妖鬼について記載されていた情報はかなり貧弱だった記憶がある。まあ、もちろんお前のことを組合に報告したりするつもりはないのだが」

「どんなことが書いてあったんだ?」


 ギークが尋ねる。そうだね、それは知りたいね。

 そう言えば、ナタリアと一緒に組合に行けば、閲覧することもできるのかな? 今ならギークも文字が読めるようだし、王都の組合を訪れた際にナタリアに頼んでみようか。主に知りたいのは、妖鬼デーモンオーガよりも上位に位置する鬼族は何か。一本道なのか、枝分かれしうるのか。


「さて、細かくは流石に忘れたが。喰った人間に化けることは書いてあったな。制約等があるのかは不明。ある程度は人語扱い得る知性を有するとあったように思うが、お前を見ているとある程度どころではないな。それから、暴力偏重の鬼族の中にあっては例外的に器用な種族だったはずだ。あとは、あまり群れることは好まないらしいとか、まあそれくらいじゃなかったか? オレがそれを読んだのはもう何年も昔の話だから、今はもう少し情報量が増えている可能性もあるが」


 成程。参考になります。器用さですか。あるかも知れないですね。

 ギークが再び師匠の姿に戻る。全裸だ。

 さあほら早く、服を着なさい。


「どんな姿でも、腕力などは変わらないのか?」

「どうだろうな。いや、カニーファの姿でいるときより、妖鬼デーモンオーガの姿に戻った時の方が、多少だが動きやすくはあったように思うな。まあ、多かれ少なかれ劣化するんじゃないかね」


 ちゃんと測ったことないものね、分からないね。まあ、これも暇なときにでも確かめておきたいかな。後で後でが増えて、忘れそうだ。


「そうか。オーガ相当の力しか出せないとすれば、優勝できるかはなかなかに厳しい所だと思うがな。恐らく一匹はBランクのモンスターが出てくるのだろうから。というか件のトーナメントという奴は、オレの推測では、Bランクモンスターをうまく捕獲で来た際に、そいつによる殺戮ショーを演出する目的の出来レースとして開いているのではないかと思うがね」


 なんと! 出来レースだって?

 ぐう、じゃあもし優勝しても難癖つけられて賞品や賞金は貰えないかもしれないのか。


「それに金属武器は使えないぞ? コロシアムは城内だからな」


 そうかー、それだとちょっと、厳しいのかな。

 師匠から貰った<<引戻し>>も、悪徳爺の<<制圧の邪眼>>も、使えないってことだよね?

 相手との相性次第じゃ、普通に負けることもありそうだ。


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