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天国のお土産  作者: トニー
第四章:潜み隠れて名を顕す
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4-09. 何事もほどほどが大切、なの

 僕は、人間の命をとても大切なものだと思っている。

 そうでなくては困る。


 貴重なものだからこそ、ミアの供養に出す意義があるのだ。

 だから僕の中で人の命の価値とは、高ければ高いほどいいものだ。


 故にギークには、無用な人殺しは控えて欲しい。

 ミアの復讐とは関係のないところで、ギークが人を殺す度に、僕の中で他人の命の価値が下がっていく。

 そんな気がする。やめて欲しい。


 くだらない小悪党なんて、許してやればいい。

 手足の一本でも千切ってやれば、もうそれでいいじゃないか。

 生命までを奪うことはない。命はとてもとても大切なものなのだから。


 エデン辺境伯(おとうさま)を殺すときには、

 あの(・・)教会の司祭を殺すときには、

 熱く迸る激情に駆られて、背徳感と板挟みになりつつ、僕はそれを成し遂げたい。


 人を殺すことに慣れきってしまって、

 作業のようにプスッと刺して、

 それで殺してハイ御仕舞いだなんて冗談じゃない。

 そんなことでは断じてダメ。絶対にダメなんだ。


 もう一度、ギークとはきちんと話し合おう。

 やはり先の数十人はやりすぎだった。そんなに簡単に殺してはダメだ。

 取り返しのつかないことなんだと、代えのないことなのだと、十分に分からせないと。


 旅籠屋で一泊した翌日朝、ナタリアに連れられて、ギークは城内の組合に顔を出した。

 途中の城門前で、ウェナン、そしてフィーと合流している。

 二人とも、目を真っ赤にして、恐らくは昨日大泣きをしたのだろうことを伺わせた。

 吊るされたルーアとロッタの有様を、二人も目にしたのだろうと思われる。

 二人が何か言おうとしたのを制して、ギークは「分かっている」と返した。


 組合では、支部長にめちゃくちゃ怒鳴られた。

 何かもう色々言われたので何を言われたのかロクに覚えていないが、とにかく怒られた。

 「あの赤鬼の山砦の匪賊ども! お前が手をこまねいている間に、別のハンターから殲滅したという報告があったからな!」とか「報連相が何一つなっちゃいねぇぞこのズベ公が! 一から俺が叩き直してやる!」とかそんな事を喚かれたように思う。

 もう少し、一つ一つ丁寧に、噛んで含めるような感じでお願いしたい。そこでナタリアがまた長口上で支部長を宥めにかかったものだから、情報量がヒートなオーバーで僕はナウパンキングだ。


「支部長、その役、こいつ(カニーファ)の性根を叩き直す役だが、是非我オレに引き受けさせてほしい。実はこいつ(カニーファ)とは意気投合して姉妹の契りを結んでな、昨晩は一緒に寝る仲にまでなったのだ。いや支部長、貴殿の言うこと、その怒りは至極尤もだ。そこでオレが責任を持って、こいつ(カニーファ)がBランクハンターとして相応しくなるよう、磨きに磨き上げてみせようじゃないか。戦いに関する能力に全く問題がないことは先日報告したとおりだ。後はいわゆるハンターとしての常識というところだろう? 孤児出身で、ずっとソロで活動していたというなら、身に付いていないのも頷ける。支部長もそのつもりだからこそ、厳しく当たったのだろう? その机の引き出しに、本部への推薦状が入っているのは分かっているのだ。こいつを王都に連れて行き、相応しい節度を身に着けることができたと判断できるようになるまで、オレが預かろうじゃないか。なんなら誓約書にサインだってするぞ」


 宥めにかかったというか、丸め込みにかかったというか。

 自分に都合のいい方へと話を誘導しにかかったと言うべきかもしれない。


 ナタリアのその目論見は見事に達成されてしまい、晴れてギークとナタリアは狩人組合ハンターズギルド公認でペアを組むことになってしまった。

 よもやと思うが、最初から関係者全員と口裏でも合わせていたのじゃないか、という手並みである。

 これ、嵌められたのと違うか? 大丈夫か?


「うむ、これからよろしくな、カニーファ。オレのことは今後、お姉さまと呼んでくれてよいぞ? 朝の挨拶はごきげんよう、が定番だ。因みに一応言っておくが、オレの目の黒いうちは、赤ん坊を食べる機会はないと思ってくれ」


 何の話だ。

 いや、赤ん坊どうこうは、僕も全力で阻止するので安心して欲しいとは思うが。


 知らなかったのだが、任務でもないのに複数人のハンターが連れ立って、何時までも一緒に行動していると、謀反か何かを企んでいる集団なのではないかと勘繰られて、領主に目を付けられてしまうリスクがあるのだと言うことだった。

 言われてみれば、紛れも無く武装した集団という事になるのだし、分からなくも無い話だ。

 ウェナンとフィーが相談したいと言っていた事の一つも、それだったらしい。

 誰かから忠告を貰ったようである。親切な人がいるものだね。


 ペアまでは、慣例上問題ないということだった。夫婦とか恋人とか、色々あるだろう? だそうだ。それ、色々か?

 そしてウェナン達のもう一つの相談事が、Cランクハンターへの昇進についてだった。

 どうやら僕らの知らない所でも、フィー達は功績を上げていたらしく、それで昇進試験を受ける許可を貰えたのだとか。

 二人だけで大物賞金首の狩り(ハント)をこなすとは、やるようになったじゃないか。


「ボクたちカニ姉に、あ、いえ、カニーファさんに、試験官をお願いしたいと思って。それでその、これからも一緒に狩りに行くために、良ければ指導員としての仕事も、請けて欲しいとなあって」


 フィーが支部長の前でそう言って、一言の下に却下された。


「ダメだダメだ。コイツは今聞いていて分かっただろうが、教育係としても指導員としても完全に不適格! ちゃんと別に相応しいのを用意してやるから諦めろ。というか本来、Cランクになろうと言うハンターに指導員もなにも無いものなんだがな。だがお前たちがコイツ(カニーファ)にイロハを習ったのだとすればなんとも不安だ。検討しておく」


 支部長は鬼だ。鬼畜である。


「待ってください、カニ姉はそんな……!」


 ウェナンがギークの擁護で支部長に噛み付こうとして、まあ聞けと制された。


「いや誤解するな、ナタリアが言った通りだ。俺はコイツをBランクに推薦したいと思っている。それだけの実力を買ってはいるぞ。だが、狩りの実力はともかくとして、本来弁えているべき組合員としての常識に難がありすぎる。コイツ自身に教育が必要だ。そしてまたBランクになるためには、組合本部に赴かねばならん。暫くはモーソン(ここ)を離れることになるだろう。だからお前たちの試験官や、指導員は、コイツには任せられん。悪いがな」


 そう言われては、ウェナンにもフィーにも、継ぐ言葉はないようだった。

 まあ、ギークが非常識なのは揺ぎ無い事実だし、そこについては擁護のしようもないか。


「そんな訳でカニーファ、王都に向かうぞ。狩人組合の本部は王都だからな。出発は明後日の予定だ。急な話だが、今日明日で準備を済ませてくれ」


 ナタリアが言う。やはりとにかく手際が良すぎる。仕込みで間違いない。

 あれ? でもそうすると支部長にもギークの事がバレているのか? ナタリアの同志なのか? いや、どうなんだろう。ちょと分からない。

 大体ナタリアに、ギークの正体がバレたのは何時のことなのだろうか。昨晩訊いてみたのだが、はぐらかされたし。仮に<<直感>>系統のギフト持ちだとしたら、確信したのがいつかはともかく、端から疑われていたと考えたほうがいいのか。<<直感>>とか防ぎようがないじゃないか。参っちゃうね。


 その日はそれから日没までを使って、ナタリアの助言に従い旅支度を整える事になった。

 本当は、荷物は全部河童に預けてしまえば手ぶらで済むので楽なのだが、河童の能力は伏せておきたい。なので、大きめの革袋をひとつ購入することにした。

 座右の物はここに詰めて持ち歩く。そして薄い財布の中の鋼貨同様、河童との物品のやり取りはこの革袋経由で行うことにする。

 そうしておけば、さほど不自然ではなく諸々の物品が持ち歩ける。

 買い物に時間をかけてしまったので、本日は城内に宿をとることにした。

 ウェナンやフィーも交えて、ナタリアと夕食だ。


 やだなあウェナン、そんなに警戒しなくて大丈夫だよ?

 そんなに無理に食べさせたりはしないよ?

 フィー、メニューを手で覆わなくても平気だから。

 今日はお酒も飲まないから。


 夜も更けて、ギークはフラッゲンの姿になって、街の一角を訪れた。

 何やら一枚の羊皮紙を携えてだ。

 僕は半ば夢の世界に旅立っていて、ギークが羊皮紙に何か書き付けていた所は記憶にない。

 寒ッて思ったら、ギークが河童を宿に置き去りにして、件の爺の姿で屋外を出歩いていた。

 何事かと思った。


(なに? 何なの? ギーク、説明をするの)

「野暮用だな。ちょっと釘を指しておこうというだけだ。ああ、起きたのなら丁度いい。フラッゲンの記憶によると、コイツは睨み付けた相手をビビらせて、上手くすれば金縛り状態にする事ができたらしい。単なるガン付けの可能性もあるがね。フラッゲンはギフトだろうと推測していた。使えるかどうか、試してみてくれないか? 丁度これからも会う相手が、実験にちょうどいいだろう」


 そう言ってギークが訪れたのは、以前孤児院の院長の紹介で赴いて、ロッタの名前を出した途端に門前払いを食らった鍛冶屋の家だった。

 ドアは施錠されていたのだが、ギークは針金一本で鍵をこじ開けて、滑るように音も立てず、建屋の中に忍び込む。何れもフラッゲンというジジイの技能だったのだろう。

 ダーティな方向にばかり多芸になってしまってまあと、僕としては呆れるばかりだ。


 実験の結論から言って、ガン飛ばしによる威圧は見事に効果を発揮した。ほぼ間違いなく邪眼系統のギフトなんだろうと思う。後で、フラッゲンの姿でなくても使えるかどうか、確認してみたい。

 ギークは鍛冶屋を脅して、裏取引の契約書らしき羊皮紙にサインをさせた。そんなものどうするのかと思ったが、すぐに分かった。鍛冶屋の店を後にしたギークが、その足で兵士の詰め所に向かったからだ。


 捏造というか、なんと言うか、製作した証拠物件を、兵士たちの誰かがいつかは見つけるだろう場所に仕込んでおく。極悪非道だ。

 これであの鍛冶屋は、もしかしなくても店の関係者諸共に、恐らくはひどい目に合うだろう。

 単なる絞首刑で済めばむしろ幸運。恐らくは虚言の罪で舌を抜かれ、悪行の罪で腕を捥がれ、その上での縛り首となるのではなかろうか。

 いやもっとさらに、僕の想像力では思い至らないような、残酷なことになるかもしれない。


 ギーク、いつだったか文字はほとんどの読めないとか言ってなかったか?

 なにを当然のようにスラスラ書類とか作って、悪巧みをしてるんだ。


 何故こんなことをするのかと尋ねれば、ロッタとルーアが盗賊として絞首刑にされた原因が、この鍛冶屋の虚偽の届け出なのだという。

 盗難に遭った。犯人はロッタという孤児のガキで、共犯がルーアという同じく孤児出身の駆け出し(Dランク)ハンターだ。

 実際にはきちんと金銭を払って取引を行ったのにもかかわらず、そんな届け出が鍛冶屋から出されてしまったので、フラッゲンの一党はやむなくルーア達を匿った。それがなければ、普通にルーアを金属武器の仲買人として使う心算だったようである。

 そうして匿っていたのを、ギークを誘き寄せるエサとして放出したのが、つまりはフラッゲンの記憶から引き出した、あのふたりが吊るされた事の顛末という話だった。


 鍛冶屋が盗難に遭ったとの虚言を弄した理由は、文字の読めないロッタが駆け出し(Dランク)狩人に金属武器を売ってはいけないという法律を知ることなく、ルーアに武器を売ってしまったことのようだ。

 この法律のことはもちろんフラッゲンたちも知っていたが、例えば店はCランクに売った、駆け出し(Dランク)はCランクから譲り受けた、で簡単に言い逃れが利くザル法なのだという。

 だからあまり気にしなかったらしい。ルーアがロッタの伝手を期待して選んだ件の鍛冶屋は、よほど小心で生真面目な男だったようだ。


 その因果を応報させてやろうと、ギークはしている。

 それは正義なのかもしれないけれど、敢えて一族郎党までが処刑されてしまうだろう方法を選ぶ必要があるのだろうか。

 店の罪だと強調されてしまえば、罰は店主一人ではなく店の全てに及ぶ。

 店の雇われさえも、連座で死罪を蒙るだろう。

 やりすぎじゃないのだろうか。


 相手が鍛冶屋だというなら、両腕でも圧し折ってやれば、それで気が済まないなら捥いででもやれば、罰としてはそれで十分だったのではないか。僕はそう思う。

 これで、吊るされていたのがウェナンやフィーだというのならまた別だけれど、こう言っては何だがロッタもルーアも、僕らには直接関わりがなかった子供たちである。

 吊るされて殺されてしまった。それは可哀想だと思うし、気の毒だとも思う。

 けれど、人伝に名前を聞いたことがあるだけの相手に過ぎないのである。その仇討ちでギークがここまですることを認めてしまうのであれば、では果たしてミアの復讐には、僕はどれほどのことをすればいいのだろうか。


 換算するなら、エデナーデ一つでは到底足りない。教会一つでも全然足りない。

 人類すべてを皆殺しにして、人類が築いた文明全てを根絶やしにして、それを百回繰り返すくらいでなければ、とてもとても追いつかないのではないだろうか。


 そこまでのことはさすがに出来ない。そこまでのことはさすがにしたくない。

 ウェナンやフィーを僕の手で殺したいはずはない。ギークに殺させたくはない。

 もしクラナスが今でも生きていてくれているならば、彼女には幸せになってほしい。

 やはりダメだ。ギークに翻意を要求しよう。これはやりすぎだ。


 何事もほどほどが大切だ。過ぎたるは猶及ばざるが如し。やりすぎは良くないのだ。


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