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天国のお土産  作者: トニー
第四章:潜み隠れて名を顕す
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4-08. 罠の誤解と育成の方針、なの

 ギークの悶え苦しむ様を見て、ナタリアが狼狽のていを初めて見せる。


「お、おい、カニーファ? どうした、大丈夫か?!」


 なんて白々しい演技だ。くそ、完全にしてやられた。


 いや! しかしギークは死なない筈だ。

 死んでも、蘇ることができるはずだ。


 その事実までは知られていないはず。

 だからまだだ、まだ巻き返す機会はあるはずだ。

 臥薪嘗胆、ここは堪えて、そう! 死んだふりだ!!


 初め体の芯が煮え滾るようだった熱の感覚は、今は全身に散って関節という関節、筋肉という筋肉が悲鳴を上げているかのような激痛に変じていた。

 嘗てにも幾度か味わったことがあるようなこの苦痛。しかし嘗てなく執拗でねちっこく、ねぶるように強烈なものと感じる。今回は即死ではないからだろうか?


「おいカニーファ、返事をしろ! くそ、どういうことだこれは? 医者を呼ぶわけにもいくまいしな」


 横たわるギークの傍らに片膝を着いて、耳元でナタリアが叫ぶ。

 演技とは見えない真摯さだ。


 僕でなければあっさり騙されてしまっても不思議はない。

 だが! 状況はお前が犯人だと告げているぞ。というか他にどんな原因があり得るというのか。


(お館様、ナタリアの誤解を解いておいたほうが良いと思うであります。このままだと余計な第三者の介入を招いてしまう可能性が低くないのであります)


 河童がいう。

 なんてことだ! ナタリアの迫真の演技に河童が見事にコロリンされてしまっている。


(ゴカイもロッカイもないの! 騙されちゃダメなのフレデリカ! これはナタリアの仕業なの!!)


 ギークの意識がない間は、この河童だけが頼りだというのに。

 もっとしかっりしてほしい。


(ナタリアの仕業というのは、肉を大量に用意したことを指しているのでありますか? もう時間の問題というところでありましたし、直接の因果関係は認め難いと推察する次第でありますが、、、)


(何を言っているのか分からないの! 毒なの! あの女(ナタリア)が毒を盛ったに違いないの。ギークが悶え苦しんで泡を吹くくらいに強力な奴なの!!)


 全身の筋肉が痙攣しているような、体内を何かが暴れ回っているような、恐ろしい激痛なのだ。

 そう、例えるなら、ランクアップした時のような。


 ……、……、ん?


(お館様はランクアップしただけなのであります。毒など検出されていないのであります。ただ、本来の姿ではない状態であるため、普段より身体に負荷がかかっていると見受けられるのであります)


 ギークが、絞り出すような声で、ナタリアに告げる。


「グム、ヌ、いや、大丈夫、だ」


 蹲って耐える。破裂しそうな何かを押し留め、縛り付ける。


「すぐ、に収まる。もう少し、待ってくれ」


 顔色は悪いし、脂汗は滴っているし、というか死ぬほど痛いし苦しいし。

 なにが大丈夫なものかというところなのだが、、、


「う、うむ、そうか? あまり大丈夫そうには見えないのだが。なんだ? 何かが料理に紛れでもしていたのか? もしそうだとしたら……」


 ナタリアがあからさまにほっとしたような表情になって、それから一転、真顔に戻る。


「そういう、わけじゃない。こっちの都合だ。少し、待て。ク、ク、グアァッ!」


 仰向けになって、エビぞりブリッジでギークが悶えた。師匠の姿で。

 じっくり観察する余裕がないのが、少々悔やまれる感じであるかもしれない。


 いや、そうではなく。痛い痛い痛い痛いとにかく痛い! くっそー、なんでなんだよ畜生。

 うう、強くなるため、強くなるためなんだ。我慢、我慢だ。

 エデナーデを蹂躙するんだ。ミアの仇を討つんだ。

 どいつもこいつも殺してやるんだ!


 仮令身止 諸苦毒中 我行精進 忍終不悔!

 仮令身止 諸苦毒中 我行精進 忍終不悔!!

 仮令身止 諸苦毒中 我行精進 忍終不悔!!!

 南無阿弥陀仏!!!!


 途中、旅籠屋の店員がやって来た。ナタリアがなんでもないと追い返す。

 ちょっと喰いすぎたらしい、と弁明する。さもありなん。


「フゥ、いや、話の腰を折って済まなかったな。もう大丈夫だ。話を続けてくれ。俺は肉を喰うから」


 立ち直ったギークがそう言って、再び肉焼きに戻ろうとする。

 いやそれはさすがにどうかと思います。


「まてカニーファ、一応少しは説明が欲しいぞ。何が起きた。食い物が原因ではないのか?」


「食い物は悪くない。こんなに旨い肉は初めて食べた。うむ、まだ食べたことがないので比較できないが、赤子より旨いのかもしれん。感謝する」


 ギークがそのように応じる。


 あ?

 何だって?

 赤ん坊がどうした?


(ギーク。後でちょっと話があるの。説教なの。覚悟しやがれなの)


 まだってどういう事だコラ。

 そんなこと僕が許すと思ってんのか。


「赤子? お前は赤ん坊を食べる鬼なのか?」


「そんなことはないの! ……ヌ、何だと? ……、……、今のは言葉の綾だ、気にするな」


 ミイ、後で俺からも話があるぞ、とギークが小声で呟いた。


 ぴー、ぴー、ぴよぴよ。

 ぴーひょろろ。


「何が起きたのか、だったな。たまたまランクアップをしたというだけだ。変身を解除できればもう少し楽だったのだが、維持したままやり過ごそうとしたせいで痛い目を見た。まあ、気にするな」


 七輪に切り分けられた肉を載せて、少し炙ったかと思ったらすぐに回収して喰らい付く。

 それじゃほとんど火が通ってないだろう。

 焼くならもっとしっかり焼け。


「ランクアップだと? それはまた、随分と珍しい、希少な場面に居合わせることができたものだ」


 ナタリアが感嘆の声を上げる。

 珍しいのか。


「では、これでお前は晴れてモンスターとしてはB-ランクに昇格したというわけだな? ふむ、そうすると、その姿でハンターを続けるつもりなら、ハンターとしてもなるべく早目にBランクには上がっておいたほうがいいかもしれないな。実力不相応は、それはそれで悪目立ちするものだし」


 そして助言をくれた。爪を隠す能ある鷹というのも恰好いいと思うけどね。

 しかしモンスターのランクとハンターとしてのランクって、どこまで対比するものなんでしょう。


「フレデリカ、俺は今、B-ランクでいいのか?」


 ギークが河童に尋ねる。ギークのレベルだとかランクだとかの管理は、基本的に河童任せだ。

 細かい数字とかは、僕もギークもとても苦手なのである。


(お館様は、今回でBランクになったのであります。さっきまでがB-ランクであります。ランクがC台だった頃は、Lv24からのレベルアップでランクアップだったでありますが、B台になってからはランクアップにLv48が必要になったようであります。強くなるに伴ってレベル自体が上がりにくくなっていることを考慮するでありますと、かなりランクアップしにくくなっていると思うであります)


 成程。妖鬼になって、ランクアップしにくくなっていたのか。

 前回ランクアップしたのっていつだっけ。言われてみれば、だいぶ間が開いたような気もする。


「今回のランクアップで、モンスターとしてはBランクになったそうだ。これまでがB-だな」


 河童の回答を聞いて、ギークがナタリアの言に訂正を入れる。

 ナタリアが瞠目して、見誤っていたようだと詫びの言葉を口にする。


「何と、ではそうするとお前は、あー、八十年近くを生きている長老個体エルダーということなのか? これは失礼した。てっきり若年ながら特質的に力を得た異常個体ユニークなのかとばかり思っていたよ。長老個体エルダーなどに、まさかお目にかかれるとは思わなかった」


 八十年? 何の話?

 ナタリアの解釈に、今度は僕が戸惑う。


 ギークの実年齢なんて、たぶん三歳か、精々四歳くらいのものだと思いますよ?

 色々と水増しされているから何だが理不尽さを感じるけど、だってもともとは餓鬼だったのだし。


 ギークが自分の年齢をどう考えているのかは謎だ。

 小鬼だった頃なら、年齢? モノカ? だったと思うが。

 今は師匠の記憶と、それに加えて悪徳爺の人生経験まで取り込んでしまっているからね。

 ああ、まあ師匠の年齢と悪徳爺の歳を足し合わせれば、もしかしたら八十年近くになるか?


「そうすると、すまない、カニーファと呼ばせてもらっているが、モンスターとしての固有名もきちんとあるのかな? できれば教えてもらえないか。まあ、お前がその姿でいるときにはカニーファと呼ばせてもらうが」


 再び肉喰らいに没頭しようとしたギークに、ナタリアが問い掛けてくる。


「ギークだ。言っておくが、異常個体ユニークだの長老個体エルダーだのという括りは俺にはよく分からん。そうなのかと聞かれても、諾とも否とも応じかねる」


「おっと、済まないな。テンテンが普通にそういう表現を使っていたもので、モンスター内での一般的な表現かと思っていた。お前の本来の名はギークだな。よし、了解した。よろしくな、ギーク」


 モンスターの間に種族を跨いだ常識とかあるのですかね?

 人語を扱う種族においてはあるのかもしれないですね。しかしギークははぐれというか、まあその埒外にいる非常識個体ですからね。モンスター的な常識なるものがあるとして、何も知らないでしょうね。


「この場では何だが、部屋に行ったらぜひ本来のランクアップした姿というものを見せてくれないか? ランクアップすると、見た目が変わったりするものなのだろう?」


 ナタリアが要望を述べて、ギークが後でなと返した。


 なんだかこのままずるずるとナタリアの仲間として取り込まれてしまいそうな予感がする。

 おのれギーク。肉如きであっさり懐柔されるんじゃない。


(モンスターのレベルやランクというもの、やはり普通はお館様のような上がり方をするものではない、ということでありますね。ナタリアは恐らく、平均して一年に一レベル上がるかどうかのはず、というような計算をしたのであります)


 ギーク、たぶん今日だけで三十レベル近く上がっているのではないかと思うのですがね。まともに数えてはいなかったけれど。十年一日どころの話じゃないね。

 ナタリアの言い方を借りれば異常個体ユニークだからということになるのか?


 たぶん、ギークは喰っただけ強くなっている。それはほぼ間違いない。

 だから僕がギークを強く鍛え上げようと思うなら、ひたすらに喰わせ続ければいいということになるのかも知れない。そうかも知れない。


 それを踏まえれば、僕はもっともっと積極的にモンスターを狩りに行かせて、とにかくギークに喰わせ続けるべきなのかもしれない。そうしていれば、そう遠くないうちに、聖騎士の域にまでランクを上げることだってできるのかも知れない。


 そうすべきだろうか?

 どうなんだろう。僕にはひとつ懸念がある。


 何故、ギークは赤鬼レッドオーガにはならずに、妖鬼デーモンオーガになったのだろうか。


 ギークが妖鬼デーモンオーガになったのは、これは大当たりだったと思う。

 その経緯にはいまだに収まりの悪い感情が付きまとっているけれども、単純なランクとは別次元の強さ、能力をそれによって手に入れることができた。

 そしてもし、ギークが師匠との訓練の日々を経ずに、即席栽培のようにランクだけを唯々上げていたら、何となくだがギークはそのまま順当に赤鬼レッドオーガになっていたのではないかと思うのだ。


 一対一で戦うことだけを想定するのであれば、単純に腕力が増して強くなるのだろう赤鬼レッドオーガルートも、決して悪いものではなかっただろう。けれど僕の復讐計画における仮想敵は一つの国家であり国家を跨ぐ巨大組織たる教会である。

 個体の筋力だの体力だのが多少優れていたところで、そんなもの大して役には立たないのだ。欲しいのは、だから妖鬼デーモンオーガの変身能力のような、搦手を可能にする力である。もしここから先の進化候補に、そうした特殊能力持ちの種族があるようだったら、是非とも狙っていきたいものだ。


 故にそのための情報が欲しい。そして狙うための条件が明らかになるまで、レベルやランクを頭打ちにはしておきたくない。


 分からないけれど、例えば現在の筋力だの知性だの、或いは戦闘技能だのが種族転生の条件になっているのじゃないだろうか。

 頭打ちになってからでも補正の効くものが条件なのであればよいが、そうではない可能性もある。分からない以上は、遊びを残しておきたい。


 モンスター図鑑を見れば、もしかしたら転生先の候補や、その種族に転生するための条件が推測出来るようなヒントが得られるのではないかと思った。

 しかしそもそもCランクハンターの師匠には、Bランクモンスターの情報は軒並み閲覧不可で、ほとんど参考にはならなかった。


 順番はだからやはり、情報を仕入れて育成方針を固めることを先にしたい。そのために必要だというなら、ハンターとしてのランクを上げることも考えよう。

 今回、まとめてレベルが上がってしまったのは、僕的にはつまり余り歓迎できない事態なのだ。過ぎてしまったことはもう仕方がないのだが、今後は気を付けなければいけないだろう。

 大量の獲物が手に入った時にはすぐに食べず、全部一旦は河童にストックしておくようにしたい。


 それ以前の問題として、人間を食べるのは、そもそも控えて欲しいわけだが。


[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。

[INFO] ギークは、レベルが上がった!

[INFO] ギークは、ランクが上がった!

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  妖鬼デーモンオーガ Bランク Lv47→Lv1 変身

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv3

  唆すもの Lv--

  地図 Lv4

  引戻し Lv3

  制圧の邪眼 Lv1

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(継承元:小鬼)

  忍耐の限界(継承元:鬼)

  手弱女の化粧


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