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天国のお土産  作者: トニー
第四章:潜み隠れて名を顕す
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4-06. 挽回を目指す語りと肉、なの

 犬耳少女が、アッカンベーをしてから、ズバンッと飛び去っていった。

 いったい何歳いくつなんだ、あの子は。


「……、あれは本当にモンスターか? まるきり人間のようだったが」

「アッハッハッハ、お前がそれを言うのか、カニーファ。お前も随分と面の皮が厚いようだ。ハッハッハ」


 ナタリアが愉快そうに大笑いしている。湯気立つほどに赤面した犬耳がギークを振り解いた辺りから口元がヒクついていたのが、遂に堪え切れなくなって決壊したという感じ。


「俺の面の皮は普通だ。厚化粧なのは認めるがね。だがアレは素だろう?」


 ……、あ、こらギーク。


「ハッハッハッハ。いいぞ、実にいい。そして、観念したということでいいのかな? お前は妖鬼デーモンオーガだ。化粧の名は、確か<<手弱女の化粧>>だったな? そして恐らくお前は異常個体ユニークだな。正解のはずだが、どうだ?」


 一頻り笑ってから、ナタリアは眼光を鋭くし、今度は一転してニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。


「テンテンは間違いなくモンスターだ。小天狗、天狗族の中では下から二番目の種族になる」


 ナタリアが言う。

 河童ちゃん大正解である。賞賛して進ぜよう。


「下から二番目といっても、侮らない方がいいぞ。あのナリからは分かり難かったかもしれないが、あれで恐らくはこの前倒した水竜に劣らない位には強いはずだ。空を飛ぶし、俊敏だし、攻撃には大地にクレータを作るくらいの威力がある。だから押し倒すときは注意してくれ。逃がさないようにしっかり掴んでおくことが肝要だな。ああ、天狗族は鬼族とは近縁だそうだから、たぶん大丈夫だぞ」


 いや、何が大丈夫だというのか。

 取り敢えず、外見年齢的には物凄くアウトだったと言い添えておく。


 とりあえず街に戻ろうかと、喋りの区切りにジェスチャーを交えるナタリア。

 どうやらあの犬耳を呼び出すためだけに、わざわざこんな所まで足を運んだ模様である。

 しかしあの流星のてい、街からだって普通に見えたんじゃないかな。


「お前と違って、テンテンは異常個体ユニークってわけじゃあないのだがね。天狗族はその始まりが、高慢さ故に天狗道に堕して仙人になり損なった人間だという謂れがある。事実かどうかはともかく、そんな謂れがあるくらいだ、恐らく他の天狗たちも人間とよく似ているのだろうな。残念ながらオレは、テンテン以外の天狗族には出会ったことがないのだがね」


 街道がある方に向けて、ナタリアがくるりとギークに背を向けた。

 ギークは右腕から垂らしていた分銅鎖を束ねて、元通り器用に腕甲の内側へと仕舞い込む。

 使い方はフラッゲンの記憶から引っ張り出したのだろうが、腕甲とセットの金属武器のようで、なかなかに剣呑な暗器だと思う。よく背中を向ける気になるものだ。

 そしてギークはその場から動かずに、そのナタリアの背中へと話し掛けた。


「つまりお前はアレだな。モンスターコレクターと言うやつか。偶に居るらしいな、そういう趣味の人間が。闇市場で売り買いされているのを買って、剥製にしたり、瓶詰にしたりするんだろう? 生皮を剥いで着ぐるみを作ったり、髑髏を杯にしてみたり、鬼族というのは需要が高いそうじゃないか。俺の事もその下らないコレクションに加えてやろうと、そういう魂胆か?」


 何そのヤバい裏社会的な真っ黒知識。

 あの悪党な鎖爺の記憶ですか?


「……随分と蒐集家事情に詳しいのだな。いや、誤解しないでほしい」


 街道の方に歩き出そうとした足を止めて、ナタリアが再度振り返った。


オレが求めているのは同志、目的を共有してくれる仲間だ。そしてオレが用意した募集要項には、人間に限るとは書いていない。それだけのことだ。むしろ意思が通じるのであれば、モンスターである方が望ましいとさえ思っている」


 続きは旅籠の部屋で話そう、と言ってナタリアが再び背を向ける。

 うーん、悩みどころだ。やはり要は取引というか、強請り集りに近い交渉事の臭いがする。お前の秘密は黙っていてやる、その代わり、だ。

 しかしどちらにしてもこの口ぶりだと、人間の仲間が当然に居るのだろう。そうであればここでナタリアをどうにかするのは何とも悪手だ。

 仮にナタリアの姿を奪って誤魔化すことを試みるにしたって、それはつまりナタリアとして今後暫くは活動しなければならなくなるということを意味しかねないわけで、下手をしたらこれじゃ仲間になったも同然じゃないか! という阿呆なオチさえつきかねない。


(ぐぅ、迂闊に手は出せないの。不本意だけれど、今の所はついて行って、話を聞くの)

(そうでありますね、記憶閲覧や改竄の特権アクセスが通れば良かったのでありますが、弾かれてしまうでありますし、何のための仲間なのかが明言されていない状況ではリスク計測もデータ不足で……)


 ……、……、は?


(ちょっと待つの河童、じゃなかったフレデリカ。今何かさらっと、恐ろしいことを聞いた気がしたの!)

(? なんでありますか? ご主人様)


(記憶とか、何かおかしなことを言っていたの。何の話なの。説明を要求するの)

(今は使用不可能となっている権能の話なのであります。各端末へのアクセスは透明性担保の観点によりグローバルネットワーク経由からしかできない仕様となっているのでありまして、従いましてネットワークが封鎖状態になってしまっていると推定される現状では利用できないのであります。なお仮にネットワークが復旧したとしても記憶改竄の実行にはご主人様の承認を得る必要があるのであります。ご主人様の登録も申請状態のまま保留になってしまっている状態でありますので、まずこちらがクリアされないことには実行はできないのであります。更には、改竄する記憶は書庫ストレージにバックアップを確保アーカイブした上で、対象者の存命中は保持しておく義務があるのでありますが、この書庫ストレージ保全アーカイブデーモンについても……)


 ……、……、えー、……、はい、さて、気を取り直して現実と向き合おうかな。

 何の話をしていたのだったか。ナタリアについて行っていいものかどうかでしたっけ?


 いいかどうかも何も、もう連れ立って旅籠前に移動して来ていますね。

 僕の意識が河童の呪文でフリーズしている間の出来事と思われます。


「部屋と夕食の支度を頼んでおいたナタリアだが」

「はい、ご準備させていただいております。ですがその、お料理の方、ご要望通りに牛を一頭潰しまして、肉尽くしで相当な量をご用意をさせていただいているのですが、あの、本当に宜しかったのでしょうか?」


 旅籠の店員さんが、戸惑ったようにナタリアとギークとを交互に見る。

 いや、待てこらナタリア。


「もちろんだ、前金は払っただろう? 足りなかったか?」

「いえ、念のための確認でした。では、ご案内を。屋外になりますが、衝立を立てておりますので外からは見えません。ひとまず捌いた半分を並べてございますので、なくなりましたらお声がけをいただきく。それでは、こちらへどうぞ」


 ナタリアさん、あんたさん先刻「やれやれ締め出されてしまったな」とか「また旅籠に部屋を取らねばならん」とか言ってなかったですか?

 完全にそのつもりで事前に準備万端じゃねーか。これは一体どういうことだ。


「もちろんオレが食える食事の量などたかが知れているぞ? 遠慮せず残さず食べてくれ。単純計算で数百人前分の腹を満たし得る肉の量になるとは思うが、なに、数十人()残さず食い切ったお前であれば、何のことはあるまいさ」


 その旅籠屋の庭先に特設したという食事処に案内されがてら、ナタリアがギークに声をかけた。

 あの光景を見ていてこのフレンドリーさですか。大丈夫かこのBランクハンター。

 ナタリアもまた実はモンスターでしたとか言うオチじゃないだろうな。


 ……、……、ギーク?

 まさかとは思うが、心が揺れたりはしてないよね? 大丈夫だよね?


「まあ、食事をしながら聞いてくれればいいのだが」


 並べられた肉を七輪で焼いて食う。とにかくひたすらギークは食べる。ガツガツと。

 外見が師匠の時は、本来の姿の時より食欲に抑えが利くと言っていたはず。

 しかし、胃袋が底なしであること自体に変わりはなかったようだ。

 そんなギークを愉快げに眺めつつ、ナタリアが切り出してきた。


オレはお前を脅迫したい訳じゃあない。無理矢理に服従を強いようとも思わない」


 ほんまかいな。

 むしろあからさまに脅迫しにきてくれた方が、こちらとしても対抗策を講じやすくなるし、裏も掻きやすくなるので、いっそ歓迎だったりするのだけれどな。


「お前はその女(カニーファ)を喰らって、姿と記憶を手に入れたモノのはずだ。記憶を手に入れるというのが、具体的にどういうことなのか、オレにはよく分からんので基本的なことから説明すると、人間には人種というものがあり、部族というものがあり、国家というものがある。それぞれ雑多な人間を何某かのキーワードでグループ分けする概念だ」


 ギークはひたすら肉を焼いては喰っている。

 もとい、焼き上がるのを待ちつつ生肉も骨ごと齧っている。


オレのような外見、つまり黒い肌に銀色、或いは金色の髪をした人種がロルバレン人だ。ロルバレン人はその殆どが、かつてはトゥラという王国の国民だったそうだ。トゥラ王国は人とモンスターとが共存共栄する理想の国家だったと、ロルバレン人の伝承ではそのように伝えている。教会に言わせれば、モンスターに生贄を捧げる人喰いの蛮族共が築いた邪悪な国で、今はセラト辺境伯領となっているかつてトゥラ王国だった彼の地は、魔王を打ち倒し人類が解放した勝利と栄光の土地、ということになるようだが」


 どっちやねん。トゥラ王国? 現セラト辺境伯領の前身ですか。うーん、聞いたことがあるような、ないような。薄毛な家庭教師の思い出せない授業で出てきた名前だったような、気のせいなような。


 ギークはとにかく肉を喰っている。

 一応ナタリアの話を聞いてはいるようだが、火箸が休まることはなく、口が休まる暇もない。

 旨いか? 旨いのか? 旨いらしい。


 ここ最近、ギークにはウェナンやフィーが狩った雑魚い干潟モンスターの残骸ばかり喰わせていた。

 今は埋めるふりをして掻っ払った水竜の肉が、大量に河童の収納に蓄えられているから、今後はそれを適宜提供する予定である。

 どっちにしても、モンスターの肉はお世辞にもおいしくはない。大概が噛み切り難いゴムみたいな触感だし、しかも臭いのだ。

 ギークは特に文句を言いはしないのだが、何かこう一心不乱に牛の肉を貪っている今の様を見るに、やはり不味い食餌を不満に思ってはいたのだろう。

 だが済まないなギークよ、水竜の肉はまだまだ余っているのだ。

 全て食い尽くすまで、僕らから他の料理が出されることはないと思ってくれ。お前に毎度人間の料理を喰わせていたら、エンゲル係数が恐ろしいことになって、あっという間に破産してしまう。


 蛇足だが先般倉庫で無数の般若心経をしていた際も、同じ様にギークは一心不乱であったかもしれない。しかしその時の僕は般若心経だったので当然なんの感想もなかった。色即是空なのでこれは仕方がない。


「つまりオレが目指すこと、同志たちが志すものとはそれだ。トゥラ王国の汚名を濯ぐこと、自らをして絶対の正義と標榜する教会に誤謬を認めさせること。人とモンスターとが共存共栄する国家、組織が成立可能であることを示し、願わくば滅び去った伝説のトゥラ王国を現代に復興せしめることだ」


 なるほど、名誉を挽回して汚名を返上しようというわけですね。

 なにか共感を覚えます。ん?


 突如、ギークの箸が止まった。

 というか、あれ?


 ギークが前屈みに膝を着いて、そして蹲る。

 なにか、体の芯が痺れて、そして煮え滾ってくるような感覚に襲われる。身が軋み、骨が震える。


 え? え? マジで? ちょっとまてナタリア。

 毒ってこと? お前、言ってることとやってることが、食い違いすぎだろそれじゃ。


「グッ、クァ、、、オノレ、、、ヌゥ、、、」


 そしてギークは地に倒れ伏した。

 爪でガリガリと地の表面を掻き削り、苦痛に呻く。


 そして堪えようと、懸命にギークは足掻いた。


[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。

[INFO] ギークは、レベルが上がった!

[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。

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[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  妖鬼デーモンオーガ B-ランク Lv47→Lv48 変身

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv3

  唆すもの Lv--

  地図 Lv4

  引戻し Lv3

  制圧の邪眼 Lv1

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(継承元:小鬼)

  忍耐の限界(継承元:鬼)

  手弱女の化粧


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