4-05. 流星ではない。これは、なの
そのごく小さな流星は、クレータを作る勢いで荒れ果てて見える畑な只中に墜落した。
ズズン、と鈍く大地が揺れたかと思えば、土煙がブワりと吹き付けてくる。
「上から見てたけど! わたしの答えはノーよ! ナタリア!」
吹いた風に埃が吹き流されれば、そこには犬耳な女の子がいた。
いや、男の子かもしれないけれど、まあそれはどっちでもいいとして、犬耳がいた。
「だってコイツどうみたって人間だし。詐欺師よ詐欺師。コイツのどこがわたしのお仲間だっていうのよ。変な幻覚とか掛けられているんじゃないの?!」
そしてキャンキャンと吠えた。
ではなくてギークを指差し甲高い声でそのようなことを言った。
「ふむ、そうか? これの正体はきっと妖鬼だぞ? その能力で見事に変身をしているものだと、我は睨んでいるのだが」
「えー?! ないないないわよ、鬼族が人間に化けるなんて無理に決まってるじゃない! だってあいつら野蛮で暴力的で汚らしくてバカでゴツくて臭くて兎に角キモいのよ?! 生皮被って変身したつもりになるくらいが精々だわ!」
犬耳がピョンピョン飛び跳ねつつ、ナタリアの側に駆け寄ってその背後に回り込む。
顔だけピョコンと脇から出して、ギークを睨み付けてきた。
あー、えー、うん? なに?
犬耳、振る舞いは可愛らしいが、けっこうキツイこと言ってるな。
で? この犬耳がさっきの流星の正体なのか?
幽霊の、正体見たり、枯れ尾花、か?
「何事にも例外というものは存在するさ。割り合いどうか、という話はあるだろうがな」
「鬼族の例外って、殊更に凶悪だとか、狡猾だとか、色情狂だとか、手に負えない方向にしか例外らないものなのよ! わたし、知ってるんだから!」
えーと? 空から女の子が降って来た?
親方、親方はどこ?
「まあ、そういうわけだカニーファ。既に我には高い知能を持つ友好的なモンスターの仲間がいるのだがな、しかしそれは今はコイツ一体だけなんだ。孤独は寂しいだろう? だから是非、我の仲間になって、こいつとは友達になってやってくれないか。生憎この暗闇では、我にはお前の細かい表情はわからんのだがな。どうだ? お前は既に『仲間にしてほしそう』な顔をしているのじゃないか?」
「ちょっとナタリア! 何勝手なこと言ってるのよ?! わたしはヤダッて言っているじゃない?!」
うん、犬耳ちゃんさ、ナタリアの薄着、そんなに引っ張ったり、揺さぶったりしちゃダメな服なんじゃないかと思うんだ。普通に千切れるでしょ。僕が心配するようなことじゃないけれど。
「まあそういうなよテンテン。お前だって言葉の通じる相手がいいと言っていたじゃないか。多少気が合わないところがあっても、子供が生まれるまでの我慢だぞ? こいつと番になって、子供ができたら、そうしたら後は、旦那の方はおっぽり出してしまってだな」
「イィーーヤッ! 絶対イヤよ! 大体ほら、あれメスじゃない?!」
犬耳が、キッとギークを睨んで吠える。
犬耳ちゃん、お名前はテンテンらしいですね。天罰とか天誅とかが、決め台詞なんでしょうか?
「ほら、ナタリアと一緒で、大きなオッパイが付いてる! 子作りにはオスとメスが必要なんだからね!? ナタリアは人間だから知らないかもだけどさ! わたしだって理屈とかはわかんないけど」
どうしよう、このどうしようもない感じ。帰って寝たい。ほらもう夜だし。
あー、寒い寒い。さっきの突風でナタリアが纏っていたらしい暖気が逃げちゃったよ。
(フレデリカ、あれ、なんだと思う? なの)
とりあえず、あまり期待せず河童に意見を聞いてみる。
(たぶん、天狗の仲間だと思うのであります。白狼天狗にしては、さっき天から降って来た時のエネルギー量が多すぎるでありますので、小天狗なのではないかと推測するであります)
思いのほか、ちゃんとした見解が返ってきた。
天狗、天を駆ける狗ですか。ああ、それで犬耳。
……、え? 天狗ってそういうものだっけ?
(天狗族はどれも、種族特性で何某かの幻術を使うはずであります。そのため、天狗の外見には諸説があるのであります)
さいですか。今見えている姿が本来とは限らないわけね。
(フレデリカには、あれはどのように見えているの? 僕には犬耳の女の子に見えるの)
(犬耳の女の子に見えているであります。丸い尻尾も付いているであります)
まんまじゃねーか。
天狗族といえば、外周海を超えた先、絶壁の頂に暮らす強力なモンスターのはず。
名前は有名なんだけれども、人界に出現することは滅多にない。しかしその割にはなぜか人語を話すことでも知られている。
その中で小天狗といえば、さてどれくらいの強さにランキングされているモンスターだっただろうか。
天狗は、聖騎士相当の数少ない人間大モンスターだ。つまり天狗だとするとめちゃくちゃ強い。
その下位に当たる小天狗。騎士相当の実力があると見ておいた方がいいのかなあ?
うーむ、あの犬耳が実は騎士並みに強いとか言われても納得できないのだが、どうなんだろう。
(フレデリカは、あの犬耳とギークとで、どっちが強いとおもうの?)
(強さという基準は、私には判断が難しいのでありますが、、、保有魔素量でいえば、おそらく大差ないランクかと思うのであります。接触して計測できれば、もう少し細かく分かるであります)
なるほど、見た目通りじゃあやっぱりなさそうってわけね。
流星と化して空から降って来るくらいだものね。見た目はアレだけれど。
「とにかく! わたしはイヤだから! ちゃんと伝えたからね? じゃあもう帰るから!」
「ああ、ちょっとだけ待ってくれ。……、まあそうだな、今日は顔見せだけとしておくか」
ナタリアが、小柄な犬耳を脇に手を差し入れるようにして抱き上げる。
そしてギークの方に歩み寄ってきた。抱き上げられた犬耳はなんだかきょとんとしている。
はいどうぞ、とギークの方に差し出されたので、たぶん何となくでギークがそれを受け取った。
そのまま、ごく自然に見つめ合うことになる。
見つめ合うこと暫し。
「な、な、何やってんのよ?! 離して、降ろしてよ!」
犬耳が突如ジタバタと暴れ出したので、ギークは手を離した。
犬耳が地面に落下する。
「おや、そのまま接吻でも交わしてくれれば面白かったのに」
「な、な、な、ナタリアーーッ! ちょっとあなたどういうつもりよッ」
着地し損ねてしりもちをついた後、跳ねるようにパッと再び犬耳がナタリアの背後に回った。
そして再び食って掛かる。
「いや、今日は顔見せをしておこうと、ちゃんと言ったはずだが」
シラッと、ナタリアはそう言った。
言ってたけどね。でもさっきのは顔見せっていうかさ。
お見合いというか、お見つめ合いだったと、僕は思うね。




