4-04. 損切り目論み仕損じる、なの
4-3の話にエピソードの挿入漏れがあったので投稿後に加筆しました。
既に日没。冬の一日は本当に短い。
河童を迎えに城門に行った時点で、既にギリギリ閉門前と言うところだったから、別に着替えに何時間も掛けてしまったというわけじゃあない。
「やれやれ締め出されてしまったな。また旅籠に部屋を取らねばならん」
着替えを終えて、外で待つナタリアの元に戻れば、そのような発言に迎えられた。
「責任を取れと言いたいところだが、大目に見てやろう。その代わり、ちょっと歩こうか」
だからアンタが締め出されたのは、僕らのせいじゃないから。そもそも勝手についてきたんじゃないか。
思うところはあるが、まあギークに愚痴るだけに留めておく。それは僕にできる通常アピールの限界であって、つまりはほとんど何も留めてはいないわけだが。
ギークは黙然として、大人しくナタリアに連行されることにしたようだ。
さてどいつもこいつも、一体全体何を企んでいるものなのやらだよ。
エデナーデ攻略案を練り直さなければいけない僕としては、選択肢の幅が狭まるようなことは歓迎しかねる。それが可能であれば、あまり大事にしたくないのだが。
街道を外れて、今は枯れ果てている耕作地の一帯にまで、連れ立って歩く。
火を起こせば街から見えるだろうが、実りの季節でもなし、兵士が偵察に来るとしても翌朝だろう。
どうでもいいことだが、畑が無防備に城郭の外に設けられているというのが、僕には信じられない。
モンスターとの戦闘で踏み荒らされたりしないのだろうか。
城郭の内側に収める必要がないと言うなら、幾らだって開墾で作付面積を増やせそうなものだ。
何故そうしないのだろう。どうして街には手に職を持たない貧民が溢れていて、餓死か凍死かした屍が杭を打たれて積まれていて、つまり労働力を遊ばせたまま無為無策で失われていくに任せているのか。
何か理由があるのだろうけど、僕には分からない。領主の怠慢ではないのか。勿体ないとは思わないのか。
「さて、訊きたいことがある。カニーファ、お前はモンスターか? それともモンスターに変化するギフトの持ち主か? 後者であればギフト名を教えて欲しい。そして明日教会にも付き合ってくれ」
杖の先端をギークに突き付け振り返って、ナタリアが単刀直入に聞いてきた。
ああ、明日ウェナンやフィーと合流できるかな。
そういえばあの二人、何か相談があるとか言っていたような気がするけど、結局なんだったのだろう。
吊されていたルーアとロッタのこと? いや、それなら後回しにはしないはず。
……あかん、動揺してしまった。思考があっちこっちに飛んでしまう。
うん、バレているね。もうバレバレだね。なんでバレたんだろう。
教会に付き合えというのは、目の前で<<鑑定>>を受けてその結果を教えろと言いたいわけだよね。
それって、後者の可能性がまずあり得ないと思っているから、そう言ってるのだよね。
おかしいなぁ。あの場からは誰も逃さなかったと思うのだけどなあ。
覗いていた何人かも、腰を抜かしていたところをちゃんと始末したのに。
「……、この、周囲が仄かに暖かいのは、アンタのギフトの力かい?」
「赤魔法の習熟度稼ぎさ。別に困りはしないだろ。で、どっちだい?」
ギークが天気の話を振る。ベッタベタ過ぎる話題逸し。
そして僕にジェスチャーで、どう返答するかと意見を聞いてくる。
ナタリアからはきちんと回答が返ってきたものの、話は全然逸れてくれない。
(ギークがモンスターだと、完全に確信されてしまっているようなの。でも、こちらから言質は与えたくないの。ナタリアが接触してきた目的が謎なの。討伐する気ならヤリ男とか支部長とかを連れてきてもいいはずなの。そうじゃない以上、なにか魂胆があるの。なんとか聞き出すの)
ギークが溜息をついて肩を竦め、首を左右に振る。誰に対するリアクションだい? それは。
そしてギークは、師匠らしくない笑顔を作った。
人間らしくなく、嗤った。
それは口が耳まで裂けるような笑みだった。
「あたしが尋常でないと確信していながら、こんな場所に連れてきたんだ。むしろあんたの魂胆こそが知りたいね。あたしがモンスターだと、、、アンタニ何ノ関係ガ在ル?」
戦いになったらどうしようかと、僕は急いで考える。
勝っても負けてもあまり喜ばしいことにはならないだろう。戦う前から敗れている状態だ。
面倒事を断ち切るには、やはり最初に河童が言ったように、勝って殺して口封じの一択しかないのか。
損切は早目がいい。でもナタリアがどこまで周囲に情報を漏らしているかが問題だ。
「これからカニーファに会ってくる」
それくらいのことは、誰かしらには告げているだろう。
「モンスターがカニーファに化けている可能性がある」
それはないはず、と思いたい。
そんなことを言い触らすようなら、そもそも単身でギークの元に来ていないはず。
さっきから<<地図>>で周囲を探っているけれど、周辺に生き物の気配はない。
でもナタリアがどうやってギークの正体を突き止めたのか、それが分からない。
あくまでナタリア個人のギフトとして、<<千里眼>>系統のギフトを有しているだけならセーフ。
他に<<念話>>系統のギフトを有している仲間がいるというというならアウトだ。
今も情報が筒抜けとなれば、それこそ下手を打てば師匠が賞金首で指名手配されてしまう。
現状は相手のターンで未だ劣勢。ひっくり返すには相手の失着が必要なのだが、どこかに隙がないものか。
「我の魂胆か。うむ、そうだな。我はお前が、高い知能を持ち人語を解するイレギュラーなユニークモンスターで、少なくとも我に対しては敵対的ではない存在であることを期待している」
ギークが右手をいったん肩口まで持ち上げて、ついで振り下ろす。
シュガンッ、と地面が弾けた。
「それで?」
破落戸どもを漏れなく殺し尽くした件の倉庫から、ギークが唯一持ち出した金属武器。
フラッゲンという名前だったかな? そいつの使っていた分銅鎖だ。
「友好的かどうかについては、あんた次第だ」
分銅鎖。夜の闇の中では、それと視認するのは人間には難しいはず。
夜目の利くギークで、辛うじて何か紐状のものを垂らしていると察し得るレベル。
突然弾けた地面は、ナタリアにはさてどう見えただろうか。
「魂胆が知りたかったんだろう? 答えたと思うが」
少し目を細めたくらいで、ナタリアはこれといった反応は示さない。
豪胆だとは思うが、ちょっと無謀じゃないか? ギークの殺意は虚仮じゃないぞ。
殺れそうだと思えば、多分僕が静止する間もなくそれを実行するに違いない。
あと一人分くらいなら、なんとか取り込めそうだと、言っていたものな。
僕としては温存しておきたい枠だけれども。
「あんたに何の関係があるのか、なのさ。重要なのは、そっちだよ」
ギークが戯言を垂れ流しつつ、僅かずつ少しずつ、ナタリアとの間合いを詰める。
鎖を振れば、分銅がナタリアの側頭部にめり込むだろう距離になるまで、あと少し。
「ハッハッ。まあそうだろうな。おっと、そこまでにしておいてくれ。それ以上寄られるのは危険すぎる。そんな気がする」
ナタリアが後ずさって、間合いを開けた。マジですか?! なんでバレたし。
まさかまさか、<<直感>>系統のギフト持ちなのか? お忍びの聖騎士とかじゃないだろうな。
思わず知っている限りの聖騎士の名と顔とを思い浮かべてしまった。もちろん該当はない。
そりゃそうだ。あれば出会ったときに気付いている。
とは言え僕だって、聖騎士全部の顔を知っているわけじゃあない。
名前は知っているけどね! でも偽名を使われたら分からない。
「期待通りであるならば」
ナタリアが右手で自分の銀髪を掻き上げて、漉いて流す。
「お前が我の豪胆さか侠気か王者の素養か、そういうものに惚れ込んで、『仲間にしてほしそうにこちらを見ている』となることが、今のところの我の希望だ」
……は?
その意外な言葉に、思考が止まった間隙を縫うかのようにして、光が夜の闇を引き裂いて、轟音が夜の静寂を打ち破った。
ズッ ガーーーーァアアアアアアアォォォォオオオオオオン!!!
鈍く揺れる大地。舞い上がる土煙。何事が起きたかと僕はそちらを見る。
(ギークはナタリアを警戒していて! フレデリカ、何が起きたか確認なの!)
ナタリアの戯言はひとまず保留。取り合ってはいられない。
轟音を引き連れ、光の尾を引いて。
ギークとナタリアが対峙していた程近いその場所に。
流星が、天から墜ちてきた。




