4-01. 賽の河原にて積んだ石、なの
ギークのステータスを間違えました。すいません訂正します。
ギークは、この短期間でだいぶ強くなったんじゃないかと思う。
今なら、正規の騎士と戦っても、正面からで五分五分かやや劣勢。有利な条件下で戦えるなら、十中八九は勝利を拾える実力はあるだろう。それが僕の見立てだ。
騎士を応援することが殆ど義務みたいなものだったエデナーデでは、騎士達が競技大会を開くとなれば、ミアはほぼ欠かさず観覧席に呼ばれていた。ミア自身はどちらかといえば、騎士達の大会よりも読書や音楽や演劇の鑑賞が好きだったのだけれども、我儘は言えない。暇さえあれば、模擬戦や訓練の参観にも行かされていた。
僕はそんなミアと一緒に、騎士たちの寸評を聞いたり、大会での勝敗を予想したりしていた。
だから岡目八目ではあるけれど「一人前の騎士」を基準としての戦力評価や予想には、僕はそれなりの自信があるのだ。
ヤリ男を挑発しての力試しで、あの鎗撃全て回避してのけた反応速度と集中力は、実際大したものだったと思う。中々できることじゃない。並みの騎士なら、致命傷は貰わないまでも、掠り傷は不可避、身体のどこかにはくらっていただろう猛攻だった。
まあ普通なら回避を試みる必要もなく盾で弾いただろうけど。
とはいっても、聖騎士にはもちろん、全然及ばないだろう。
聖騎士は騎士の中の騎士、エリートだ。そしてエデナーデは人間世界の要衝だから、何人もの聖騎士があの街には詰めていた。
コンツェラット、ラインハリナス、ロウディ、アリアナレータ。誰も彼も、隔絶した実力者。
ギークがあの聖騎士たちを打ち倒す姿は全く想像できない。
近付いただけでも<<天啓>>で正体を看破されて、逃げる間もなく一刀に両断されてしまうビジョンの方であれば、容易に思い描くことができる。
彼等彼女等に伍すようなモンスターとなると、それこそ物語に出てくるような国を亡ぼすクラスの魔物ということになってしまうので、それは仕方のないことだ。
それでも、変身能力を巧く駆使するのだったら、そして慎重に狡猾に行動すれば、今のギークでもエデナーデを混乱の坩堝に呑み込んで陥落させることは、決して不可能ではないはずだ。
だから、ここの所の僕はずっと、他のことはかなりおざなりにして、ああでもないこうでもないと、エデナーデ攻略のプランを練り続けていた。かつてミアが恐れた通りの、人に化け人間に潜む、恐ろしい妖鬼となることを夢に見ていた。
僕が直近で考えていたプランの骨子は次の通り。
まずは聖職者の誰かに化けて教会に紛れ込むのだ。
邪悪に汚染されているとか適当な冤罪をでっち上げて、適当な騎士を一人二人告発する。
無論、騎士の擁護者、鍛え導く者を自認するあのエデン辺境伯が、大切な手勢をむざむざと教会に殺させるなどということは考えられない。そこを強硬に、餓鬼刑に処すことを主張。教会と辺境伯、お互いの不和を煽る。
対立が先鋭化したところで一芝居。騎士に化けての不意打ちで別の騎士を、或いは教会の関係者を衆目のある場所で殺害する。敢えてモンスターとしての正体を晒しつつ逃走するのだ。
再び教会の誰かに化けて、ほら見たことかと辺境伯サイドを責め立てる。異端審問が行われるように誘導し、審問官が選出されればそれに化けて、辺境伯配下の優秀どころを殺し回って弱体化を図れば当然教会への不満は高まるはず。直ぐにでも臨界を迎えるだろう。
そうしたらエデナーデの教会総本山こそが、モンスターに汚染されている。そんな情報を然るべき相手の耳に適当な人物に化けてリークする。敢えて審問官の姿で聖騎士の側に近付いて、モンスターが化けているものだと看破させるのもいいだろう。幾ら聖騎士でも、教会の身分のある相手を即座に一刀両断にはしないはず。しかし確認には乗り出してくるだろうから、リークしたのと同じだしよりインパクトがあるはずだ。
恐らく辺境伯は教会の排除に乗り出し、教会は辺境伯を異端と名指しする。そこまで誘導できれば、後は雪玉がの如く破局への坂を転がり落ちていくだけだ。歯止めを試みる相手を都度謀殺し、沈着化しそうな気配があれば火付け騒ぎでも起こしてやればいい。
以上を大筋として、具体的な肉付けや、ケース別フォローアッププランの検討などを推敲し続けていたのだが、何たることか。
無念である。
(つまり変身できる相手は、二人か三人が限界ということなの?)
ギークに鸚鵡返しで尋ねてしまう。
「そんな気がするというだけだ。フィーリング以上のことは言えん。押し込めば枠の方が広がって、実はまだまだ入るのかもしれないな」
ゴロツキ共の群れを皆殺しにして、ギークはその遺体を全部胃袋に収めた。ギークの胃袋は底なしだと、もう断定してしまって良いだろう。地獄に直通でもしているんじゃないのか?
その際に、首魁とみられた頭髪ストライプな鎖爺を、記憶を覘く目的で取り込んでみたんだそうだ。記憶だの容姿だのを取り込むと、胃袋じゃない謎臓器にでも収めることになるのかもしれない。そっちがもう何だかこれ以上入らなくね? と気が付いた模様。
勝手に何やってやがんだと罵ったら、取り込む際にはちゃんと一言断ったぞと言われた。
ギークのお食事中、僕は現実逃避な念仏を唱えるのに忙しかったので、シカトしてしまったらしい。
だってさあ、、、
何かをブチリと噛み千切ったり、喉越しズルリな感覚とか、
そりゃそんなものと真正面から向き合いたくなんてないでしょ?
念仏だって唱えますよ。
観自在菩薩行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。
人間だったものが、目の前でどんどん人間じゃなくなっていくんだよ。
見てらんないよそんな光景。
あー、ないない。そんな記憶僕にはない。
無眼耳鼻舌身意、無色声香味触法。
ないんだから思い出せない。
つか正体晒した時点でギーク正気なくしてたじゃん。
グォーとか吠えてたじゃん。
いつ正気に戻ったんだよこの野郎。
正気に返ったんなら喰うのやめろよ。人間喰うのはやなんだって、なんで分かってくれないのさ。
(押し込んで、入らなかったらどうなりそう、なの?)
「吐き戻すんじゃないか? 胃袋の方では経験のない話だが。普通は喰いすぎるとそうなるんだろ?」
恐ろしいことをギークが言う。
吐くというのはつまり胃袋の場合であれば空っぽに初期化するという試みであるからして、ギークのその謎臓器の場合はまさかとは思うが。
(師匠の記憶と姿は残しておけそう、なの?)
「まあ無理だろ。そんな器用なことができる気はしない」
ギャー、やっぱりだよ!
いや、ちょっと待って。嫌な予感がします。ちょっと確認、ちょっと確認しますよ?
(えと、押し込んだ場合でなければ、取り込んだ特定の人物の容姿なり記憶なりだけを削除して、枠を空けたりは、できるの? というか、できるべきなの)
ギークは一瞬だけ考えたが、ほとんど即答してきた。
「チキンスープとパンプキンスープを飲んだ後に、原材料の玉ねぎだけを取り出せるかという問いだな。もちろん不可だ。バカなことを言うな」
やめてー!
ガラガラと、積み上げた石塔が崩されていく音が聞こえる。
いぃぃやぁぁぁぁッ
ギークは鬼だ。なんてひどい奴だ。
心理的イメージでゴロゴロと七転八倒。
僕の夢が、僕の希望が、ゴロゴロ、ゴロゴロ。
あぅあぅ、えぐえぐ。
ダメだ、希望を見出した後の失望というのはとにかく堪える。
辛い。苦しい。おのれくそぅ、お前にはがっかりだよ! どうしてくれよう。
(前略)
[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。
[INFO] ギークは、レベルが上がった!
[INFO] ギフト「制圧の邪眼」の、実行キーを取得しました。
[INFO] 手弱女の化粧に、個体「フラッゲン」を登録します。
(中略)
[INFO] ギークは、レベルが上がった!
[INFO] 現在の状態を表示します。
ギーク
妖鬼 B-ランク Lv21→Lv47 空腹(忍耐)
【ギフト】
不死の蛇 Lv3
唆すもの Lv--
地図 Lv4
引戻し Lv3
制圧の邪眼 Lv1 (New!)
<---ロック--->
<---ロック--->
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【種族特性】
永劫の飢餓(継承元:餓鬼)
暗視(継承元:小鬼)
忍耐の限界(継承元:鬼)
手弱女の化粧




