表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国のお土産  作者: トニー
第一章:クァボ男爵領の惨劇
7/160

1-06. 寝床探し、なの

 空の端がうっすらと明るくなり始めた。


 うわーい、もう朝じゃんよー。どうなってるのよこの異次元胃袋。

 喰ってる傍からぐーぐーシクシクなってて絶対おかしい。


 めぼしいもの喰い尽くして、今とか樹の幹をガジガジ齧ってるし。

 なんなの? それ牙を研いでるとかそういう好意的な解釈でいいの?


 まさか空腹に耐えかねてとかじゃないよね?

 だってさっきまで草原鼠とかパロとか一杯食べたよね?


 「寝ルとこ、サガス」


 齧るのを休んだかと思えば、そんなことを言い出した。

 そうね、夜行性なのね。つまり朝になったら眠くなるのね?


 「寝ル、マダ早い。イイ場所に、移動スル」


 おお、なんか賢しげなことを言ってますよ。

 で、そんなことをわざわざ口に出してるのはどうしてかしら。


 「探セ」


 はっはー、やっぱりか。

 てめー僕のご主人様か何かですか。

 いい度胸だ表出ろ。


 これはあれだな、一度ビシッと上下関係とか、思い知らせてやる必要があるシーンですね。

 聖騎士アデスの冒険譚とかでもそういうシーンがありますものね。

 言うことをまるで聞かない荒くれ船乗りたちを「説得」して、従順に躾けるみたいなやつね。



 お上品な騎士様はすっこんでろよォ! どうせものの役に立たねえんだからサ!!


 オウオウ、どうせ縮こまってんだろ、あ? お?

 な、なんだとぅ?!


 す、すいませんした! なめた口ききました!

 どうか詫びに、そいつをどうか俺に突っ込んでくだセェ!!



 うん、そんな感じ。

 。。。ちょっと細部違ったかな?

 まあフィーリングは間違っていないはず。


 まあ上下関係は、これからみっちりと仕込むプランを考えるとしてだ。

 

 (さっきちょっと隠れてた、木の上とかでいいんじゃないの?)


 小鬼が普段どういう場所で寝るのかとか知りませんが、まああれだけ木登りが得意なら、寝る場所も木の上なのかなと思いますよね。

 僕的にはまったくノーセンキューですが。


 沈み込むやわらかなベッドのマットレスに寝そべって、あったかい布団にくるまって寝たいです。


 至福とはあれです。

 もちろんのこと怠惰は大罪ですので、節度も大切ですが。


 「バカメ」


 あんですとぅ。

 いい度胸だ表出ろ。ぶっころす。


 「コノ辺り、モウ獲物ない」


 そうだね。

 それがどうした。

 僕はバカじゃないぞ撤回しろこのアンポンタン。


 「血ノ匂い、アル。同じ獲物、寄りつかナイ」


 そうかもね。知らないけど。

 だから何よ。


 「ナガイ、ムヨウ」


 はぁ。


 「だから移動スル。分かったか、このマヌケ」


 ぷっちーん。


 (誰がマヌケかッ。あんたよりかはよっぽど詰まってるわ!)


 いくら温厚な僕でも我慢の限界というものがあるぞー。

 許さぬぞー。許さぬぞー。


 「ナラ訊くな。サア、案内シロ」


 ぐうやばい、ナビ扱いが定着しそうだ。


 僕は道具じゃないぞー。断固抗議!

 不当な扱いをォォ許すなー! プラカード持ってはいご一緒に。

 労働には対価をォォ払えー! 払えー!


 とはいえだ、こいつをあの街に誘導して暴虐の限りを尽くさせる最終目標を見据えた場合、案内役を買って出るのはむしろ賢明ではあるだろう。僕の指示に従うことを習慣化させるチャンスであると、前向きにとらえることも可能か。


 ぐつぐつ。扱いに不満はあるが。

 不満はあるが。


 うー、ここは大人な女としてぐっとこらえよう。

 我慢だ我慢。


 大らかな心で。はい深呼吸ー。吸ってー、吐いてー。


 (つまり別の木立を探せ、なのね?)


 「獲物が多くイル場所、探セ」


 木立かどうかはどうでもいいと。

 安全とか寝心地より、食欲最優先ですと。しかも味とかどーでもよくて、ただ量だと。

 うん、僕とコイツでは確実に価値観が噛み合わないね!


 地図マッピングに映るのはこれまで訪れたことがある場所だけだ。

 条件を入力したら、最適な場所の候補を導き出してくれる、ような機能はない。


 現在の僕の地図マッピング上に表示されているのは、意識を取り戻した川辺、ミカンの果樹園、果樹園から先の木立までの道筋。もうあと殆どが未踏の<未知>領域。


 唯一、焼き尽くす予定のあの街、エデナーデだけは、遥かな西に存在している。

 これは最短をまっすぐ進めたとしても、数日は歩き通すことになりそうな場所。


 復讐を急ぎたい気持ちは当然にあるけど、今の食欲の権化でしかない小鬼(コイツ)を連行していったところで、何にもなりはしないだろう。

 小鬼が小鬼なのはもう仕方がないとして、もっときちんと手懐けて、言うことを聞かせることができるようにならなければ、何の作戦も立てられない。

 グオォーと城壁の下で雄叫び上げて、ズガンッと狙撃されて御仕舞い(ジ・エンド)。それじゃなんのコントなんだか。


 エデナーデから、相当に流されてきたらしい。恐らくは、王国最長とされるダナサス川だと思うが、川の形状はかなり途切れ途切れにしか、地図マッピングに表示されていない。

 なぜだろう。川辺からミカンの果樹園までのルートがもれなく登録されていることを考えると、僕の主観的な意識の有無とは、また違うところでオートマッピング機能は働いているようなのだが。

 ああいや、僕ではなくて、ギークの意識の有無にかかっているのかな? 川に流されたのである以上、小鬼(コイツ)も溺れていたんだろうし。

 ……、よく窒息もせず、意識もなくて、こんなところまで流されて無事だったものですね。モンスターだからですか? ご都合主義ですか? もう神様の加護だなんて信じませんよ?


 さて何にせよ、現状のこの地図マッピングから、ギークが望むような獲物溢れる場所(おしょくじどころ)がどこかといったような情報は得られそうもない。

 素直にそう言うべきだろうか?


 ふむ。

 でも役立たずということもないか。木立ほか、生き物がいそうな場所を目指して適当に歩けば、その場所に生き物が本当にいるかどうかは、地図(マッピング)周辺探索(ミニマップ)で大雑把ながらも把握できそうだ。


 とにかくではギークは適当に歩け。良さそうな場所が見つかれば僕が声を上げるから。

 うん、それで行こうか。


 まあ、ではひとまずそういうことで、河岸(かし)を変えますか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ