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天国のお土産  作者: トニー
第三章:港町モーソンの貧民窟
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3-10. 弟子入り志願

 ウェナンがカニ姉に見とれて、ぽーってなってる。

 とりあえず腹立たしいので、踵で足の甲を踏み付けておくことにする。えい。


「な、なにすんだよ!」


 知らない。ツーン。


「相変わらず、仲がいいようで何よりだ」


 カニ姉が、少し目元を緩めながら話し掛けてくれました。感激です。

 そして違います! 別にウェナン(こんなやつ)と仲良くなんかないです。ええ、ボクはカニ姉一筋です。今のは不埒な視線からカニ姉を守ろうとしたのです。


「あー、だがルーアは、ハンターを辞めたと聞いたが」


 少し迷ったように、カニ姉が続けます。きっと気を使ってくれたんだと思います。

 どう応えようかな。ルーアが自分の進退を勝手に決めてしまったことには思う所がやっぱりあるけど、でも仕方がなかったとも思うし、


「Dランクにあがってすぐ、ケガをしちゃったんだ、ルーアは。そんな時に丁度、いい仕事の話があるって誘われて、それで」


 あ、ウェナン(このクソガキ)なに勝手にカニ姉の質問に応えてるの!? ボクが応えたいのに!


「あの、それでカニね「カニーファさん! お願いです。ボクたちを鍛えて欲しいんです!」


 ウェナンのアンポンタンを遮って、身を乗り出してカニ姉にお願いをする。

 力不足は痛感するものの、それでもボク達だってもうDランクのハンターです。

 ただカニ姉に甘えて縋るのじゃなくて、もちろん甘えたい気持ちはあるけど! そうじゃなくてちゃんとお願いをしなければいけないことだと思うのです。


 カニ姉には、孤児院でとてもとてもお世話になったのだから、これ以上の迷惑は掛けたくなんてないのが本当です。ただでさえカニ姉は大変な目に遭ったばかりだって聞いていたのだし、こんなこと頼んじゃいけないんじゃないかって思います。

 早く一人前のハンターになって、カニ姉に恩返しをしたかったのに。お金銭だって、指導料とか相場が分からないけど、ちゃんと払いたい。今すぐは難しいんだけど、ああでもいざとなったら、やっぱり街角に立つことも考えなきゃダメかな。それは院長先生が悲しむから、やりたくはないのだけど。カニ姉に不義理をするくらいだったら、そっちの方が。

 カニ姉の栗梅色の瞳をじっと見詰めたまま、ボクは言葉を続ける。


「ボク達、これはルーアもですけど、狩人組合に入って、Dランクにまではすぐに上がることができました。でもそこから先、全然うまくいかなくて、狩りは失敗続きで、そんなときにルーアがケガをして、ハンターを辞めるって言ってきて、商人になって頑張るんだって、それはそれで応援したいと思うんだけど、それでもボクはやっぱりカニーファさんみたいになりたいって思ってハンターになったのだから、こんなところで諦めたくなくて、だからご迷惑だとは思うんですけど、思ったんですけど、どうか、ボクたちには何が足りなくて、どうすればいいのか、どうかご指導をお願いしたいって思って」


 うあぁぁぁぁ。なんだか言葉が纏まらない!

 喋っているうちに、頬が赤面してくるのが分かる。どうしよう、言いたいことちゃんと伝わってるかな!? なんなのウェナン! 黙ってないでちゃんとフォローしてよ!!


 あ……。


 ふんわりと、カニ姉に抱き締められた。

 あ、どうしよう。やわらかい。屋外も屋内も、一人でいたら凍死するんじゃないかっていうくらい冷え込む今日この頃なのに、そんなこと関係なく、とにかくあったかい。しかもいい匂い。なんだか涙があふれてくる。どうして?

 あれ? ボクは、いつから泣いていた?


「あたしが行方不明になった時、捜索隊を出してくれって、組合の支部長に直談判してくれたらしいな。聞いているよ。ありがとう」


 頭を撫でられる。

 ああ、どうしよう。今日はカニ姉に会うんだからって、これでも精一杯身ぎれいにしてきたつもりだけれど、それでもやっぱり汚れているよね。こんなことしてもらっちゃいけないんじゃないだろうか。だってカニ姉すごく綺麗だし。ああでも、カニ姉の手が優しくてすごく気持ちいい。あ、なんだか気絶しそうっていうか、あれ? あれ?



 気が付いたら、ウェナンに背負われていました。

 ウェナンにです。うがー、おろせー! 暴れます。


「おや、起きたか。だいぶ参っていたようだが、もう大丈夫か?」


 カニ姉が声を掛けてくれます。

 むー、どうせならカニ姉に背負われたかった、、、いや! 今のなし! そんなこと思ってない!!

 大体カニ姉、フレデリカだと紹介された手足のない女の子を背負っているし。ああなんて羨ましい! ボクもちょっと手足を切ったりすればカニ姉に背負って、、、いやいや! 違うって!!


「ごめん、カニ姉。まだダメっぽい。こいつ、なんだか混乱し(ぱにくっ)てる」


 えい!

 ウェナンのわき腹に膝蹴りをかまして下に居ります。ウェナン(ヤツ)がなんだか非難がましい目でボクの方を睨みつけてきます。

 なんですか? 女の子背負えて幸せでしょ? だからもう居なくなってくれていいですよ?


「何かアドバイスをするにしても、とりあえず狩りの現状を見せてもらおうかと思っていたんだが、次の機会にした方がいいかい? あたしは別に明日でも構わないが」

「いえ! 大丈夫です!! え、あの、それじゃ、、、」


 もしかして、期待していいのだろうか。

 ボクたちみたいなガリガリの、汚らしい、未熟者の役立たずに、付き合ってくれるのだろうか?


「カニ姉、面倒見てくれるってさ。もちろん、できる範囲でってことだったけど」

「あたしもモンスターハントはそれほど熟してないからね。まあ、狩りのサポートくらいはしてやれるだろうが、指導の方はあまり期待しないでくれよ?」

「そ、そんなことないです。ありがとうございます! カニーファさん、あの、ボク、ごめんなさい! でも、本当にありがとうございます!!」


 深々と頭を下げる。土下座とかした方がいいだろうか。最大限の誠意を示すときは土下座が基本だと誰かが言っていた。あと全裸になるべきだとか。脱いだ方がいいのだろうか。


「お、おいフィー、ちょっと! ここ往来だから! 迷惑だから!!」


 ボクが地面に両膝をついた辺りで、ウェナンに止められた。


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