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天国のお土産  作者: トニー
第二章:赤鬼と匪賊
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2-20. 港町モーソンと孤児院の子供たち

 聖杯の湖(グラールこ)を水源とし、人間世界を横断して外周海に注ぐ大河、ダナサス川。

 港町モーソンは、そのダナサス川本流の河口間近に築かれた、一大貿易都市である。


 港町モーソンは、ガウェン侯爵領の主要都市であり、長らく風光明媚にして活気あふれる場所として知られてきた。転換期はやはり先々代のガウェン候が、ダナサス川の一大浄化プロジェクトに失敗して、多額の借金を抱えてしまったタイミングということになるのだろうか。


 ダナサス川の水質悪化は年々着実に進行しているというのが、鼻持ちならない王都の学者連中の見解であった。ガウェン候としては、王都の人間が好き放題に川を汚すからではないかと言いたい所だし、実際何度か国王に問題提起を行ってもいたのだが、芳しい結果には繋がらなかった。

 そこを自力で何とかしようとしたのが先々代なのだが事業は無残に失敗。むしろ多額の借金により状況を悪化させてしまうという結果に終わってしまう。


 今やガウェン侯爵領におけるダナサス川は悪臭を放つ泥川であり、良識ある王国民は近付くのも躊躇う様相になってしまっていた。元はお前らが垂れ流す糞尿が原因だからなと誰かが言ってやるべきではある。


 すでに、虹を見かけることがなくなる季節。

 風は冷たく、水濡れた幼い少年少女らの身を切り刻む。

 港町モーソンの西のはずれ、漂着するゴミの類が水路を塞いで堰き止めてしまうようなことがないように、孤児院の子供たちが身を震わせつつも必死にゴミ拾いに勤しんでいた。


 「カニ姉、やっぱりまだ戻ってないって」


 「そんな、そんなはず……」


 「オイッ やっぱりってなんだよ! やっぱりてことは、お前全然カニ姉のこと信じてねぇってことじゃねぇか! そんなだから……!」


 「ヤメてよ! グスッ ……、やめようよ、そんな喧嘩。カニ姉怒るよ」


 黙々とではないが、会話を交わしつつも真剣に。時折手が止まることはあるが、おおよそ休まずに。

 麻袋一杯にゴミを回収して、所定の場所に持ち込めば銭貨数枚が貰える。

 過酷だが、しかし子供たちにもできて、今日を生きるための小銭が手に入るという貴重な仕事だった。


 カニ姉というのは、スラム産まれでかつ女の身でありながらにして、一人前の(Cランク)ハンターにまでなったカニーファの、孤児たちからの愛称である。

 彼女は、安定しない収入をそれでも何とかやりくりして、定期的に孤児院へと寄付をしていた。

 また、手が空いている時には、孤児たちに身を守り戦う術を教えたり、ハンター四方山話を聞かせたりするということもやっていた。

 それはカニーファなりの恩返しであったが、この孤児院の子供達にとっては聖騎士だのAランクハンターだのは全くの有象無象、カニーファこそが真の英雄だった。


 その英雄が、帰ってこないのだ。


 隊商の護衛に着くので、いつもより遠出するということは孤児たちも聞いていた。

 良い子にして、お土産話を楽しみに待っているからね、と約束したのだ。


 カニーファが護衛についた隊商自体は、春先まで戻ってこない予定のものだった。

 しかし、カニーファを始めハンターの幾人かは、べス候の領地に入って最初の街に着いたら、すぐに取って返してくるはずだった。向こう側の領地で活動している、土地勘がある別のハンターと護衛を交代する契約だったからだ。

 しかしその取って返してくるはずだったハンターが、誰一人として戻ってきていない。


 順調であれば、いや少々のトラブルがあったにしても、もうとっくにモーソンに戻ってきていなければおかしいだけの時間が経っていた。

 Cランクハンターの集団が、野盗の類に早々と遅れをとるはずはない。

 とすれば強力なモンスターが出現したのか、何らかの災厄に巻き込まれてしまったのか、はたまたあるいは何者かの陰謀か。


 狩人組合の方でも、情報収集に努めているとのことだったが、目下カニーファの消息に関するめぼしい情報は、少なくとも孤児院の子供等のところには届いていなかった。

 子供等はここのところ毎日、入れ代わり立ち代わりで組合の窓口を訪ねているにもかかわらずだ。


 「やはり、何者かの襲撃を受けた線が、濃厚なのか」


 港町モーソンの狩人組合組合支部長が、机に肩肘をついてこめかみを揉み解す。


 「決定的な証拠というか、はっきり言えば遺体は見つからなかったよ。ただ争ったらしき痕跡とか、死体焼いたんじゃないかなって言う形跡はあった」


 調査の仕事を請け負った、この支部には数人しかいないBランクハンターの内の一人、剛鎗のレンブレイが支部長の問に答える形で報告を続ける。


 「焼いた形跡が、あったんだ。支部長。モンスターじゃあねえ、人間だろうな。Cランクを一網打尽にできるようなバカげた野盗か、それとも、だ」


 そんな野盗がいるはずがないとすれば?


 「どこかの領主が、軍事行動を目論んでいるのでは、と言いたいのか」


 行軍する姿を見られてたので目撃者を始末した。あり得ないとまでは言えない話だが。

 そんなことがあり得るとすれば、原因はなんだろうか。ガウェン候からの借金返済への協力要請に対する、寄子貴族の反発か? 今更とも思えるし、それだけ準備や根回しに時間をかけたのだと考えることもできるし、いや考えが飛躍しているな。

 支部長がため息を吐き捨て、座ったままの姿勢でレンブレイを見上げる。


 「根拠のないことを、あまり方々で吹聴しないようにな。ともあれご苦労だった。依頼の達成を認めよう。物証がないのでC評価以上はやれないが、悪くは思うなよ。それが決まりだ」


 レンブレイは肩を竦めて、支部長のサインが殴り書きされた書類を受け取る。

 隊商の護衛に着いたCランクハンターが全滅したのだとすれば、それはこの支部としても看過できない大きな損失だった。

 組合が護衛(エスコート)の任務を斡旋するハンターは、組合としても有望株なメンバーである。護衛の派遣を要請してくる商人からの信用がかかっているからだ。


 それがまとめて失われてしまった。

 護衛(エスコート)の任務に着いたハンターが一人余さず全滅する。そうした事件が時折起きるという地域は確かに存在している。しかしガウェン侯爵領においては、組合の記録にある限り初めての大事件であった。

 支部長としては、とにかく頭の痛い問題だった。



 後始末と謝罪、利害の調整、万が一への備え。

 事務作業に忙殺されていた支部長アランは、隊商の護衛についていたハンターが一人、生還したとの報を耳にする。

 それはレンブレイから、生存者は絶望的との調査結果報告を受けた、その数日後のことであった。


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