2-18. 師匠のギフト、なの
「ギフトというのは、人間が生来有していたり、他人から分け与えられたりで身につける、特殊な力のことだ。それは知っている、でいいのか? 誰しもが持っている力という訳じゃないが、極めてレアというわけでもない。あたしでも持っているくらいだからな。ああ、そうだ、最初の質問に答えると、あたしはギフトを一つ持っているよ。生まれつきのやつをな」
生まれつきのギフトって、確か母親からの遺伝のはずです。父親から遺伝することはないらしいです。何ででしょうね。
うーむ、そして師匠のお母様ですか。どんな人でしょうねー。やっぱり師匠を凌ぐ巨乳なのかしら。子供を産むと育つって言うし、きっとグレイトフルなんだろうなー。
「あたしのギフトは、<<引戻し>>というものだ。ああ、複数のギフトを持っているヤツもいるが、あたしはこの一つきりだな。お前との戦いでは、活躍させる機会もなかったが、まあ使い用によってはそれなりに便利な力さ。ギフトってやつは、大抵がそうなんだろうけどな」
聞いた覚えがないギフトです。レアなのかしら。ミアのプレゼント候補選考時にみたカタログには載ってなかったと思うのです。
「まあ、知らないだろう。地味なギフトだしな。<<念動>>という、遠隔で物体を操作できるギフトがあるんだが、その機能限定版、もしくは劣化版といったところだ。このギフトを持っていたから、あたしは予備武器に短弓を選んだのさ」
あー、それでかー。
何かの互換下位とされるギフトは、最初の時点で候補から外しちゃったんだった。
在庫さえあれば、どれでも好きなものを選んでいいって話だったからなー。より便利なギフトが別にあるよってやつは、ろくに目も通さなかったんですよねー。勿体ないことしたかな?
まあ、地図そのものには不満はないので、むしろミアに大感謝なので、後悔するような話でもないのだけどね。でも、弓と相性が良いのです? ギークともいいのですかね。それはそれで興味はありますね。
「何ができるかというとな、一度手元から離れたものを、再度手元に引き戻すことができる。元々手元にあったものしか対象にできないし、そしてその対象物がどこにあるのかをしっかり認識できていないと発動しないしと、まあ色々と制約もあるんだけどな。だから例えば今ここで小石を落としたとして」
師匠、実演してくれます。素敵です。
小石を拾って、それを地面に落とす。コロコロ転がっていた小石が、不意にヒュンッと逆戻しのように宙を飛んで師匠の掌に回帰しました。パシッと師匠がその小石を掴みます。
おー。ぱちぱち。ほらギーク、拍手ー。
「目に見えているからな、これなら回収できる。しかし同じ小石でも高い崖から投げ落としたような場合には、まず無理だ。似たようなものが大量にあるような場所で、回収したい対象を見失ってしまった時も、やはり回収できない」
ほうほう。
「使いどころとしては、矢の回収に便利だな。お前みたいに逐次拾いに行かなくて済むからだが。いや、的を外して遥か遠くに飛んで行ってしまった分は、つまりどこに行ったか分からないのでダメなんだか」
いやー、良いんじゃないでしょうか。それ僕もほしいです。僕なら地図のマーキングと組合せてよりいい感じに活用できる予感がします。師匠、そのギフトください。
「ほしいのか? いや、モンスターにギフトは使えないと聞いたがな。まあ、そうでなくても、お前を教会に連れていくことはできないぞ。あたし個人としては、分けてやること自体は別に吝かじゃないが、無理だろうな」
そうなんですよね。生まれつきじゃない方のギフトの入手手段、教会が絡むんですよね。
死刑囚な家庭教師野郎の授業、で内容を覚えている数少ない例外シリーズ。ギフトについて。まあさすがにこの授業はちゃんと聞いていましたので回想可能です。
『世のギフト持ちは、どうやってそのギフトを手に入れたのか。入手ルートは大別して2つになります。持って生まれるか、後から購入するかです。後から購入する場合は、誰からどのようにかが問題になります』
お前もうそのテキストよこせよ。
書いてあること読み上げているだけじゃないか。目線の動きがそう言っているよ。こっち見て話せよ。
『最も一般的なのは、入手したいギフトを持っている人と一緒に教会を訪ねるか、教会に提供者の確保までをお願いするかして、<<授与の儀式>>を受けるという方法になります。購入者にギフトの習熟レベルをひとつ分け与える形になりますので、分け与えた側のギフト習熟レベルが下がることになります』
これが、ミアが<<地図>>を授かった方法になりますね。
『それ以外では、「ギフトの種子」と呼ばれる専用アイテムを購入する方法があります。経口摂取によりギフトを獲得することができます。この「ギフトの種子」は<<種子の収穫>>というギフトによって作られるそうですが、材料はギフト保有者の遺体だといいます。おひとりの遺体からは、平均でひとつの種が収穫できるとされていて、複数個が収穫できることもあれば、全くできないこともあるそうです』
そのギフトの話するときは、もうちょっとホラーな感じで雰囲気出してほしいですね。かつて王都の夜を震撼させた連続殺人犯がいた、……、みたいなノリで。
分かってないです。だからこいつは無能で能無しなのです。保有者は教会の厳重な管理課の下に置かれるんですよね、そのギフト、知ってますよ? でも死刑じゃないんですね。
なんだかよくわからない<<唆すもの>>とやらより、よっぽど禁忌の名にふさわしいギフトだと思うんだけどね。理不尽です。
『後は、悪魔に魂を売った代価にギフトを得るという邪法があります。興味を持つべきではありませんよ? 妖精に記憶を渡してその引き換えにという事例も過去にはあったそうですが、それが本当に妖精だったのか、悪魔が化けた姿だったのではないか、結論は出ていません。そして最後に、これは購入というわけではありませんが、天使様のご加護を得て、ということもありますね。聖人伝説はご存知でしょう』
いやだからさ、棒読みすぎるといいたい。テキストの著者に謝れ。
悪魔ね。悪魔。嗤っちゃうね。うふふふふふ。
お前らのことだし、教会のことだよ、それはさあ。
師匠の<<引戻し>>ギフトは、それはそれで便利そうでしたが、ちょっと今回のテーマであるところの、ギークが森に芝刈り、じゃなかった狂犬狩りに行っている間の、師匠の身の安全をどうやって担保するかという問題の解決にはならなそうです。なので、やはりちょっと気は進まない方法ですが、やはり<<地図>>の新機能頼りでいきましょう。もっといいアイディアが思い付くまでの繋ぎです。
こっそり隠れていてください。家から出てはダメです。可能な限り早めに帰ってきます。そんなことを、ギークの口から師匠に告げさせます。
「いや、そこまで心配してくれなくても大丈夫だ。これでもハンターなんだからな」
師匠、なんだか困惑しつつも少し嬉しそうにしています。僕はとても心配です。師匠が照れていてかわいいです。きっと皆が狙います。どうしましょう。
「この小刀を預ける。身の危険を感じた時はこれで、どこでもいいが、例えば利き腕ではないほうの腕を、血が暫くの間は流れるくらいの深さ、刺すか切るかするように。ただ、跡は残らないように気を付けて。そうすれば、お前がピンチだということが、俺に伝わる。何を置いても、すぐに駆け付けるから」
僕のお願いを、ギークが間に入って師匠に告げます。
そー、これが習熟レベルがアップした<<地図>>の実力、新機能。マーキング対象の現在の状態をマーカーの色でザックリと判別できる機能です。
師匠の顔が真っ赤だ。なぜ?
えーと、だから。マーカーの色が変わるのです。静物の色は灰色でこれは今まで通りですが、生物である場合、狂犬相手に実験してみた結果では、平常で青、一定以上の負傷で黄色、重傷で赤になるようです。気絶中は白でした。一気にカラフルですね。最後、死亡したときは灰色に戻りました。
わざわざ実験をしたのは、僕がギフト名鑑の記述をちゃんと覚えていなかったから、ではなくて元々そんな詳しい仕様までは書かれていなかったからです。著者の方にはもう少し頑張ってほしかったですね。
というわけなので、流血レベルのケガをもし師匠がしたときには、マーカの色が黄色に変わるでしょうから、それで把握できるだろうということです。気が進まなかった理由は、怪我をしてもらわないとピンチに気づけないからです。
では、名残惜しいですが、狩猟に出発しなければなりません。このままではギークが空腹で暴れだしてしまいます。日暮れまでには帰ってきますね。
ギーク、最後にちょっと師匠に行ってきますのハグをしましょう。
え、師匠そんな。目とか閉じちゃダメです。襲われちゃいますよ!




