表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国のお土産  作者: トニー
第二章:赤鬼と匪賊
41/160

2-16. 新進気鋭で売出し中

 男と生まれたからには頂点を目指せ。

 子供の時分に誰かから聞いたその言葉を、今でもバリードは愚直に実践し続けていた。


 まず騎士になる。ついで世襲の貴族家の養子となる。タイミングよく国王が没すれば王位を継いだ女王を口説く。そうでなければ王女を娶る。

 そうして俺が国王となる!


 以上が、平民に生まれ、現在はハンターとして日々モンスターを狩り続けることで生計を立てている身の程知らず、バリードの人生設計であった。

 国王を真剣に目指している彼が、なぜハンターをやっているのか。それについては多少の補足が必要だろう。

 前提となるのは、世襲の貴族家と養子縁組ができるのは貴族だけ、王族の結婚相手になり得るのは世襲貴族家の一員だけ、というルールである。


 男爵家は、建国期の地方豪族や大地主たち。

 子爵家は、王国及び王国が吸収した各国家の重鎮たち。

 伯爵家は、今の王国がまだ諸国の一つでしかなかった頃の騎士たち。

 辺境伯は、騎士達の中で占領地の統治を任ぜられた辺境の土地持ち。

 侯爵家は、占領または統合された諸国のかつては王だった一族。

 公爵家は、国家樹立に奏功があった王の兄弟血縁者。


 世襲貴族とは、先祖を辿れば以上のルーツを持つ一族である。後からの治世に生まれた者が例えどれほど優秀であっても、この地位を得ることは難しい。

 そのままでは貴族の地位を失う貴族家の次男以降が、婚姻または養子縁組によって別の貴族の家を継承するということはある。しかし平民と生まれた者が、世襲貴族の家系に紛れ込む可能性など殆どない。


 殆どない。つまりなくはない。抜け道がある。

 それが、世襲ではない一代限りの貴族位、騎士爵の爵位を得ることだった。

 そうすれば、世襲貴族との婚姻も許可されるし、子を成せば世襲権も認められる。子を貴族の家に嫁がせたり、婿養子に出したりすることも可能だ。

 では、騎士爵の爵位を得るにはどうすればいいのか。

 ひとつは騎士学校を卒業して騎士になること。しかしこれは平民には解放されていない、領主貴族の次男以降が辿るための道だ。

 もうひとつはハンターとしてAランクにまで登り詰め、王と教会と推薦を得て騎士団への入団を認められること。

 それが適えば、平民であっても騎士爵の爵位を賜れる。騎「士」とはいうが男女は問われない。シンデレラストーリーを夢見た女性が、ハンターの資格ライセンスを取得する理由でもある。

 ただ、可能性がゼロではないというだけの、あまりにも狭き門。しかしそれでもその門をひたすらに目指す者はいる。バリードが将にそれであった。


 「そんなわけでッ 俺あぁー、こんな場所でッ 足踏みなんかッ してらんねーッ! ンだァ!!」


 バガァン! ゴロンガランゴロンガラン


 投げ付けられた丸太を大剣で切り払う。獰猛な笑みを浮かべた男ハンターが、オーガの群れへと突撃した。

 ギフトの効果である紫の仄かな光を鍛えた肉体に纏わせたBランクのハンター、現在新進気鋭で売出し中。それが大剣使い、無敵のバリードである。

 身の丈を超える大剣を振るい、身を躱そうとしたのであろうオーガの体を立木ごと両断する。鮮血がまき散らされ、急速に失われる体温が冬山に一瞬の湯気靄を作る。


 「サァ、どうしたどうしたァ?! 地獄の兵隊どもが情けねぇッ 次から次へとかかってこいヨォッ!!」


 挑発に乗ってか、鬼の一匹が手にした鉄槍で背後からバリードへと突きかかる。しかしその槍は、穂先が筋肉の隆起したバリードの背に触れた瞬間、柄が割れ砕けてへし折れた。


 「ふん! 脆い武器だなッ そんな有様じゃあ、俺の進撃は防げないゼッ!」


 反撃に背面へと振るった一撃で、バリードは軽々とその鬼を討ち取る。そして休むことなく次の獲物を探し、猛然と飛び掛かった。超重量であるはずのレーア鋼の大剣を軽々と振り回し、叢ごと、木の幹ごと、岩塊ごと、目に付くを幸いとオーガたちを撫で斬り、切り払い、叩き潰す。防御など一切考えないひたすらな攻め。それは、どちらがモンスターなのかという有様の、山肌一面を赤く染める殲滅戦であった。


 東の山奥で確認された、(オーガ)の群れを殲滅すること。それが今春Bランクへと昇格したバリードが、昇格後半年ほどが過ぎた今、初めて受けた指名依頼の内容(ミッション)である。指名依頼を貰えたことは、Aランクハンターへの昇格、そして貴族位の獲得を目指すバリードにとって大きなチャンスだ。

 組合ハンターのキャリアはEランクから始まる。ランクを上げようと思えば、昇格試験に合格する必要がある。昇格試験を受けるためには、一定期間の下積みであるとか、規定数の任務を可以上の評価で達成する等の条件がそれぞれ設定されている。

 しかし、BランクからAランクへの昇格についてはそれがない。Aランクだけは、明文化された条件をクリアできれば試験を受けられ、難易度はともかく試験官が合格といえば昇格できる、という仕組みにはなっていない。

 組合の内規をみれば、「Aランクへの昇格者は、Bランクの内で、英雄と称されるに足る特に優れた功績を打ち立てた者とする」とあるだけある。つまり組合のランク審査委員会の心証に寄るところが大きい。となれば、指名されての依頼を完璧にこなすことは、この心証の向上に大きく寄与するに違いなかった。


 指名依頼とは組合が、特に難易度が高いと判断した狩りについて、その狩りで成果を挙げることが期待できるBランク以上の組合員を名指しして任務を割り当てることを言う。指名されたハンターはその任務を断ることができる。断ったことによる罰則はない。ないとされているが、現役で活動中のBランクのハンターが、その指名依頼を断るというケースは稀だ。むしろ下手な指名を行って、貴重な戦力であるBランクハンターを損耗しないように、組合側が気を配るくらいである。

 Bランクで満足するハンターは殆どいない。Bランクで十分だと考えるような者は、そもそもBランクにも昇格できないからだ。多くのハンターが、Cランクで昇進を諦めてそのまま引退していく。BランクからAランクも険しい道だが、CランクからBランクも狭き門なのである。

 そしてバリードは、Aランクの更に()を目指している。騎士になる。そして王女を娶る。次の国王はこの俺だ! バリードは少年の頃の夢を未だに忘れない、純情一直線の(バカ)であった。


 どうしてこのバリード(バカ)は、今回鬼退治の指名を勝ち取れたのか。それはバリードの所有するギフトが、この仕事に最適と判断されたためである。本人が純情一直線(バカ)かどうかは、判断の基準にはならなかった。

 バリードが所有するギフトの名は<<降魔の英傑>>。その効果は無敵である。


 無敵(・・)である。


 なんだそれはという向きに説明すると、効果が発動している間は無敵、ということになる。効果の発動に条件があるタイプのギフトなのだ。

 その条件とは、自分の周囲でモンスターが死亡すること。死亡したモンスターのランクに応じて、そしてギフトの習熟度に応じて、無敵状態が維持される時間は増減される。

 軍隊を派遣しづらい山奥に巣食った(オーガ)という難敵を、一対多の不利をものともせずに殲滅できる戦力。バリードに期待されたのはそれである。それは確かに、バリード向きの仕事であった。


 その日、王都から見て東、そして赤鬼団の山砦から見れば西側、ダナサス側の上流に連なる山脈の奥深くで、赤鬼の一族であった(オーガ)たちの群が、たった一人のハンターの手によって全滅した。

 もし、このバカ(バリード)が夢を叶えて王座に就くことが万が一にもあったとすれば、王の若かりし頃の偉業として、恐らくは燦然と歴史に刻み込まれることになるだろう冒険譚であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ