2-12. 誕生した魔王が若頭になるまで
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オカシラがお頭になってから、オレたちの生活は大きく変わった、と思う。
お頭は、傲慢な地主の旦那を叩き殺し、納税遅れを責め立てに来た糞なお役人を潰し殺してくれた。
それからオレたちは村を要塞化して、赤鬼団を名乗ったんだ。
あそこで素直に作物を納めていたら、冬を越えるのはかなりしんどかったに違いない。
お頭のおかけで、なにも持っていかれずに済んだので、大分楽になった。
お頭には、いくら感謝してもし足りない気持ちがある。
お頭はとにかくデカい。並みの人間より二回りはデカいだろう。
そして肌が赤い。毎日酒を飲んでいるからだろうか。
頭に角みたいな突起がある。まあそういうこともあるだろう。
怪我した場所に拳大の瘤ができちまう奴とかもいるしな。
そしてとにかく怪力だ。
村を要塞化する折には、立木を掴んで引っこ抜いていた。
おまけにそれを幾本もまとめて担いで来られた時には、度肝を抜かれた。
そんなお頭だが、とにかく情に厚いところがある。
災難で散り散りになった<<イチゾク>>というのを、その災難があった日からずっと探しているそうだ。
そういうところも好感が持てる。
この人についていけばという安心感がある。
普段は荒々しくて粗暴なところもあるが、人間誰しも欠点の一つや二つあるものだ。
いざというときに頼りになる。これが大切なことだ。
聞いていた<<イチゾク>>の特徴通りな人物。
それが河原を歩いているのを見付けて、大慌てに人を呼んだ。
特徴通りも何も、お頭の説明は「緑色ダ」の一言だけだったわけだけれど。
そんな人間見たことなかったけど、居るもんなんだな。
だが違ったらしい。
もうちょっと濃かったり薄かったりする緑色なのだろうか。
その相手、<<イチゾク>>ではなかったが、他生の縁でお頭の部下に収まることになったと聞いた。
お頭の逞しい人徳に惚れ込んでのことだと思う。
部下に収まったと聞いたのは、その若者が水浴びに行くので門を通してくれと言ってきた時だ。
名はギークというそうだが、空腹の余りマウを生きたままマルカジリしたと聞いていたし、実際目の前に現れた時には全身血塗れで、その時の俺は正直心底竦み上がってしまっていた。
本来誰かを呼んで、そいつに行かせるべきところ。
自分でお頭のところに逃げるように確認へ向かってしまった。門番失格だった。
だが分かってほしい。あれは無理だ。
というかあの時の俺は、出たいなら勝手に出て行ってくれ、そして戻ってこなくていい、と思っていた。
だが確認から戻ってきたところ、そいつは律儀にも俺の帰りを待っていた。
且つ、さっきまで誰もいなかった門を指さして、通っていいと間抜けなことを言った俺に、普通にありがとうと礼を言ってきた。
その時は、存外な好青年じゃないかと思ったものだ。
だがそれも違った。勘違いだった。
奴は悪魔だったのだ。
今日も負けた。身包みを剝がされた。
返してほしければ、見合うものを持ってこい。はい頑張ります! サー!
悪魔としか思えない。
誰も奴には勝てなかった。
イカサマなのか? いいや、そんなはずはない。
椀もサイコロも、まず関係ないがコマだって、奴の作品じゃあない。
奴にだけは親を回さない特別ルールでやらせてもらった時だって、敗けた。
惨敗した。
一回一回のやり取りでは、勝ったり負けたりしているはずなのに、その日終わった時には確実に負けている。意味が分からない。
運命をいじっているのか。
そんなことまで可能な悪魔だというのか。
奴は頭が良い。良すぎる。
信じられないほど計算が早く、そして借金のことを一切忘れてくれない。
奴は目が良い。良すぎる。
明らかな死角でやったハズのすり替技が速攻でバレた。どこに目が付いているのだ。
人間じゃない。悪魔、いや魔王だ。
そして奴に挑む勇者はいなくなった。魔王の勝利だ。
ある日、奴が狩猟に出かけた後、別の<<イチゾク>>候補者がアジトを訪ねてきた。
俺はそう思った。誰もが思った。
ところがそれも奴だった。
奴は伸長が伸び、体がより筋肉質になったようだった。
出かけてから戻るまでのわずか数刻の間に何があったというのか。
成長したのだと、奴は言った。そんなバカな。
お頭はそれで納得したようだったが、他の誰しもが顔を見合わせた。
この時に悪魔が魔王になったということだろうか?
奴が狩猟に出て、獲物を持ち帰ったことは一度もない。
どういうことかと言う疑念から一度、門番を別の男に交代してもらって、こっそり跡をつけたことがある。
牡鹿にでも追い回されている情けない姿を確認できれば、借金の棒引きをお願いするネタにならないだろうかという浅ましい希望に駆られてでは決してなく、単なる好奇心の発露としてだ。
奴は、領主の騎士たちですらお手上げだと言って撤退していった、狂犬の森で戦っていた。
なんということだ。
狂犬の駆除は、オレたちが村人だった頃の悲願なのだ。
かつては大事な家畜や、人によっては家族が犠牲になっている。
俺たちの村が困窮した原因の一つがあの森だ。
お頭でさえ、あの森には近付こうとしなかった。
<<イチゾク>>が見つかれば考えよう、と言ってはくれている。
多勢に無勢では無理もないことだと、諦めていた。それなのに。
この日から、魔王は俺たちの英雄になった。
奴を最初に若頭と呼んだのは誰だっただろう。俺だったかもしれない。
次期お頭、という意味だ。
そういう未来が来ることもあるかもしれない。
その時の俺たちは、真剣にそう考えていた。
明日は、6時、12時、18時に投稿予定です。
実現できればいいなと思います。




