2-07. 割が悪い仕事
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狩人組合において、狩人はCランク以上が一人前とみなされる。
Dランク以下のハンターには、モンスターハントや、賞金首ハント、あるいは採掘採取といった、成果物報酬の仕事しか任されない。
それらの仕事は、もちろん組合ハンターの主要業務である。
だが、期日までに最も早く条件を満たした者に金銭を幾らか払うという、いわゆるかんばんに対する早い者勝ちのお使いであって、総じて割りが悪い仕事であった。
命を懸けたモンスターハント。
仮に首尾よく討伐対象を討ち果たしたとしよう。
あるいは崖をよじ登り、転落の恐怖に耐えて採取採掘を成し遂げたのでもいい。
納品競争に遅れれば、無報酬に終わってしまう。
努力は報われず、一銭も支払われない。
賞金首ハントであれば、納品時に競争は起きないのが普通である。
ターゲットは通常オンリーワンであり、獲得できた時点で報酬が約束されたようなものだからだ。
だがそれは単に競争になるタイミングが前倒しにされているだけだ。
つまりこうした狩りは初期投資、かけた旅費やその他の雑費が回収できるかさえも、運任せなものである。
過酷な話だ。しかし立場を変えて考えれば当然のことではあった。
当面に必要な分は十束だといっている薬師がいたとして、枯れ萎びたらゴミにしかならない薬草を、採取できたからと千束も二千束も、無理に買い取らせることができるはずはない。
採掘だとして、細工師や鍛冶師が当座に加工して販売できる以上の量を持ち込んでも、買い取っては貰えない。草と違ってゴミにはならないまでも、価格というのは常に需要と供給のバランスで変動するものであって、在庫はリスクだからだ。取る必要のないリスクは誰も取らない。
モンスターハントであれば、スポンサーである領主貴族の予算に左右される。宝石王熊や高位竜のように、遺骸そのものに希少価値が付くモンスターを狩ったとなれば、引く手数多の大歓迎を受けることもあるだろう。しかしそうしたレアケースを除いては、つまりは限られた予算や仕事を組合所属のハンター全員が血眼に奪い合っているのが現実でなのある。
そういった諸々の都合を調整するのが狩人組合の仕事ではないのか?
もちろんそうだ。組合は可能な範囲で組合員の便宜を図る。可能な範囲でだ。十束の需要に千束の供給は調整の余地がない。無い袖は振れないのだ。
では、ハンターに用意される仕事が全て、割りが悪いのか。
それは違う。いわゆる安定収入が約束される仕事もちゃんとある。
それが領主貴族の年間の治安予算とは別口の財布から金銭が出る仕事、つまり商人の<<護衛>>や、教会の<<傭兵>>といった、信用が重視される仕事だった。
これらの仕事は、成果にではなく、労働に対して報酬が支払われる。
つまり安定収入だ。少なくとも旅費や雑費は回収できるだろうし、儲けの計算もできる。
これら信用が重視される仕事が請けられるのが、Cランク以上。
一人前ではない者には任せることができない仕事、ということである。
労働時間に対する報酬であるから、受注に際しては契約の締結が求められる。
契約では、双方に身元保証人のサインか、保証金の預託が要求される。もちろん、そうでなければどちらかが一方的に契約を破棄しようとするかもしれないからだ。
だから今この場所にいる、隊商の護衛任務を請けて集まったのであろうハンター達は、いずれもそれなりの実績があり、それなりに稼いでいる、腕利きばかりのはずだった。
「カッ、くっせえ女がいるナァ。貧民上がりの薄汚ねぇ、毎日股を開く代わりにパンを恵んでもらっていたに違えねェ性病女が、なんだってこんな場所に居やがるんだァ? オイ、この俺様に病気が伝染ったらどうしてくれる。隊商のみなさんだって迷惑だ。とっとと消え失せちまえよ」
戦鎚を背負った壮年の男ハンターが、短弓を背負い細剣を佩く女ハンターに絡んでいる。実績があり稼いでいるからといって、人格者とは限らない。
特に長年Cランクで停滞している向きは、若手の同ランクハンターに対して無闇矢鱈と権威的になる傾向があった。
「はッ、臭い? ご愁傷様だね、そりゃあアンタ自身の加齢臭でなければ性根が腐った臭いだよ。もはやどうにも手遅れとみえるね。ああ、こっちにも漂ってきたよ勘弁願いたいね。あんたこそ迷惑だからこの世から速やかに退場したらどうだい?」
女ハンターの名前はカニーファ。
貧民窟出身にしてCランクになった数少ない、女性としては唯一であるハンターとして、それなりに目立つ存在であった。
しがみついている自分の立場の方を飾り立てたい連中にとっては、彼女のような存在は親の仇のようにさえ見えるものだからだ。
「いうじゃねぇかこの性病女が。おめぇ、この仕事がこの世で請ける最後の仕事だぜ。分かってんだろうな? そこの門をくぐったら、五体満足で戻ってこれるとは、まさか期待するんじゃねぇぞ」
殺害予告ともとれる罵声であったが、売り言葉に買い言葉。よくある応酬である。周囲の誰もさして気には留めていなかった。武器が抜かれない限りはそんなものだ。
性根の腐っている男ハンターの捨て台詞。
それは特にこれという意味もない、空虚な脅し文句に過ぎなかったが。
しかし口は禍の門だという。
これが、罵られたカニーファだけではなく、一行全員の未来に不幸を招き寄せた、その言霊となったのかもしれなかった。
港町モーソンを出立し、一行は街道を進む。交易先として目指すはべス候の所領である。
ダナサス川を中心とした船での交易をメインとする港町モーソンの商人たちだが、船で運んできた荷を売り捌く、また船で運ぶ荷を仕入れる段では、やはり陸路を使用することになる。
陸路を使う交易は、船を使ったそれと比べてコストがかかる。リスクが大きい。
しかし同時に相応のリターンも期待できる、割りが良いものでもある。
陸路を往くなら、野盗やモンスターからの襲撃は時に避けられない。それは誰しもの共通認識だ。
護衛のCランクハンターは当然として、隊商の商人たちも、ある程度の鉄火場には慣れている面子が多かった。
それが逆に、油断に繋がったのかもしれない。
街道を進んで数日。
野盗たちからの最初の襲撃を退けた後、カニーファは隊商の隊長に引き返すことを進言した。
しかし一笑に付された。同行しているハンターの中での一番の最年長が、出発前にカニーファとモメた戦鎚の男だったというのも、悪く働いただろうか。
カニーファとしては、襲撃をかけてきた野盗たちの装備が気にかかったのだ。何人か、コモン鋼の鎗だの鉾だのを振るっていなかったか。
それは、そういった装備を持つことが許される、騎士だのハンターだのと言った相手を野盗たちが襲い、武器を奪ったのだということを意味し得る。
だがしかし。
「くだらんな! 適当な武器屋の物置にでも忍び込んで盗んで来たか、非合法の闇商人から買い付けたか、そんなところだろう。そもそも性病女、お前の見立て違いって線が一番濃厚だぜ。性病の黴菌が眼球にまで及んでるんじゃないのか?!」
隊長の側で駄弁っていた老害が口を挟んできて、結局取り合ってはもらえなかった。
その後、再び舌鋒での罵り合いになって、隊長の説得どころではなくなった、が正しいが。
そうしてその夜、この隊商の一行は壊滅する。
狂猛なる赤鬼率いる野盗の襲撃を受けて、悉くの物資と、多くの生命が奪われたのだ。




