1-21. ミカンの復讐者たち、なの
誤字、脱字など、ご指摘いただければ幸いです。
結局、ギークを騎士がいるだろう集落の方へ案内することに決める。
正直他に宛もないし。
騎士とは戦わないよ?
ハンターの一人が確か弓矢一式持っていたから、こそこそと忍び込んで、それを奪っちゃえ作戦です。
それでとんずら。
どこかに引き篭もって使い方練習して、それでついでにレベル上げて、万全に仕上げましょう。
うん、我ながらなかなかナイスな行動指針。
そんなわけでそれをギークに説明。
「相変わらず、バカなことをいうやつだ」
あんですとーッ
どういうことッ 僕のこの完璧なプランになんの文句が!
そんな七面倒臭いことができるなら、そもそも角だけ回収して、ついでに騎士の寝首でも掻いて、とんずらすれば済むことだろうが。
いやいや討伐証明に持っていかれたんだから、納められた場所は狩人組合の事務所でなければ領主の元、敵戦力の中心地だよ、木っ端なハンターの住処にこっそり忍び込もうってのとはわけが違う話だよ。
諸々の意識合わせを経て、《地図》で現在位置を確認しながら、恐らくは人里があるのであろう方角へと足を進める。
森を抜けた先で小川を渡る。ダナサス川の支流だと思しきそれは、一番深いところの水深でもギークの腰までは届かない。そして濁っている。腐臭とはちょっと違うが、刺激臭? 生臭さ? を感じる。
この辺りにお住いの皆様、こんな水で育てた作物とか食べて平気なのですかね。僕は嫌です。といってもこれまでだとギークが勝手に食べちゃってたから、拒否権とか全然なかったですが。
(ここを流されて、もうちょっと下流の地点に、漂着したの)
道すがら、それなりにまともな理解力を示すようになったギークに、これまでのことを掻い摘んで説明する。
主に食欲の権化に対する愚痴になっているような気もするが。ギークは聞いているような、聞き流しているような。あ、いま鼻で笑いやがった。
(ミカン畑のそばに、人が住んでいる集落があるはずなの。あの騎士やギークの角も、きっと其処なの)
「そうか。ではあの時、寝床を探そうといった時だが、そっち側にお前が俺を案内していれば、もっと食いものにありつけたのではないのか」
ずいぶん変わったような気がするが、食欲の権化なところは変わらずか。
(バカをいうな、なの。鬼ならまだしも、人間の集団に小鬼が勝てるわけがないの。鬼にしても騎士だけじゃなくハンターにだって、きっと正面からでは勝てないの)
どうもこいつは人間を甘く見ているような気がする。
そりゃあ、強い奴もいれば弱い奴もいるだろうけど、基本的にこの世界の人間というやつは、それなりには強いのだ。
なぜなら人間たちには、神のご加護が付いている。
洗礼を受けた者は、体が飛躍的に頑丈になり、病や毒への耐性を獲得する。指とか腕とか、本来は切れたら再生なんかしないものなのだという。それが時間はかかるにしても、きちんと元通りにくっついたり生えてきたりするのは、ご加護のおかげなんだそうだ。
洗礼は教会の善意により、コイン一枚で受けることができる。教会がない地域には、スラムにさえも、定期的に洗礼を行うための神父が巡回をしている。
他の儀式ではあり得ないことのはずだが、後払いさえも認めているという。故に洗礼を受けない者などほとんどいないので、そうでない場合には実際どうなのかということは、正直よくわからない。
だが確かに、現在の教会が宗教世界を統一する以前の、大昔の記録によれば、人間は今よりもずっと脆弱な、それこそ小鬼にすらエサと認識されかねないような、弱弱しい存在だったようだ。
矢が僅かに体を掠めただけで、そこから破傷風にかかって死んでしまうであるとか、馬や牛程度の体重すら支えることができずに押し潰されて死んでしまうことがあったりだとか、現代人からするとちょっと信じられないような記録が、残されていたりするのだという。
だからこそ、人間たちは誰しもが教会の信徒であり、神の愛を信じている。
与えよ、されば与えられん。
小川を超えて、やや小高土手ようになっている場所を乗り越えようと、歩みを進める。
川辺の背丈が高い雑草群、枯草色に変色しており、秋を感じさせる。
(! ギーク、ちょっと木の上か、岩陰か、どこかに隠れるの!)
周辺探索に何かがかかった。土手の向こう側から、人の群れ、数人の集団がこちらに向かってきているようなのが察しられた。
「なんだ? 騎士か?」
マーキングの該当はない。騎士でも熊狩りの時にケガをしたハンターでもない。
もう一人のハンターか? それ以外の集団か?
(違うけど、数が多いの。とりあえず隠れて。様子見をするの!)
「やれやれだ」
軽く見渡すが、付近には木も岩もない。
いや、ほら僕の指示はこうね、イメージ優先? 細かいことは気にするな。
ギークは雑草の草むらに隠れることにしたらしい。
伏せって姿勢を低くし、息を潜めて耳を澄ます。
大丈夫かなこれ。
ギークの体色だと、目を凝らして観察でもされてしまうと露見しそうである。
もうちょっとちゃんと隠れてほしい。ドキドキするじゃないか。
ジャリッジャリッジャリッ、と大きな音を立て近付いてくる足音。
何某かの会話の声が聞こえてくる。
何を話している?。
「あー、できれば、儂らに退治までさせてもらいたかったものだがなぁ」
「もちろんだとも。どれだけ手塩にかけて、あの娘らをあそこまで育てのか。未だに悔しくて、思い出せば涙が出るわ!」
「だども仕方はあるまいて。でかい熊のモンスターけ? 儂らではそないなんが徘徊いとったという森になんぞ、足は延ばせん。後始末を任せてもらえただけでも、気を使ってもらっとる方だろう」
「熊のモンスターなあ。なんで今になってそないなもんが出たかね。もう長いこと、クァボ男爵様の領じゃあモンスターなんか、縁がなかったちゅうのになあ」
う、うーん。ミカン畑の農夫さんたちですか。
この先の森にあるはずの、ギークの死体を後始末しに行くところ、ですかね?
農作物の恨みは怖いのですねー。
各々、農用フォークだったり、鉈だったり、ノコギリだったり、木槌だったり。
武具とはみなされない代用品で武装している。
うん、あれらで一体、小鬼の死体をどう後始末するつもりなのか。
農夫さんたち御一行を観察していると、ギークがジェスチャーで声には出さず、殲滅戦を始めるかと聞いてきた。
どうしましょう? うーん、悩みどころですね。
(見逃したほうが、いいと思うの。下手に手を出すと、騎士を呼ばれちゃうかも知れないの)
今いる場所と、この農夫さんたちが住んでいるのだろう集落との、距離感が分からない。
一気に倒せるならまだしも、戦っている最中に、その騒動を集落側から気づかれてしまうと、面倒なことになるだろう。
ついでに言えば、教会関係者でもミアを殺したあの街の関係者でもない、無関係な一般人に手を出すというのは、元人間の可憐な女の子を自認する身としては抵抗を覚える話だ。
他人を殺すくらいなら自分が死ぬ、とまでは全くぜんぜん欠片も思わないけれど。やってしまったのならまあしょうがないかではあるが、避けられるものなら避けたい。
でもこっちの理由がギークの協賛を得られるとはとても思えないね。
ギークにとっちゃあ、子熊や鹿と、大して変わらんだろうしね。
前者の理由だけで惨劇回避の方向へ。
ギーク、堪える。
待て! お手!
おー、よしよし偉いわー。
ドッグフードがあれば進呈したい。ないけど。
自分で誘導しておいてなんだけど、ちょっとびっくりだねー。
ギーク、小鬼から鬼になっただけで、マジ別人に変わったよなー。
空腹が我慢できるようになったから?
そうねー。あの無限な衝動を、どうしてか抑え込める感じになったのが、理由として大きそうねー。
小鬼だった頃のギークだったら、ハラが減ッタゾ、で食気優先。
その後先とかなーんも考えてなかったからね。
あの頃だって、もし満腹になれていたら、もうちょっと違ってたのかね。
[INFO] 忍耐の限界により、状態異常「空腹」を堪えています。




