1-16. 親熊との出会い、なの
誤字、脱字など、ご指摘いただければ幸いです。
雑木林の北端に行ってみました。
マジなんもなかったです。
徐々に、木の本数が疎らになってゆきー。
そして岩と砂に覆われた赤茶けた地面が地平線ー。
ダメだ。あっち方面に進んだら死ぬ。
小さなムシか、トカゲくらいしかいなくなる予感がビビッときた。
そんなもん喰わされたら僕の魂が死んでしまうわ。
生肉まる齧りにもだいぶやられているけれど、虫とかマジ無理だから。
なので、雑木林に一旦戻り、まだ<未踏>である東の方へ。
食い物求めてザクザク歩く。
「オイ、マダか! ナンナんダ、腹がヘッタぞ!!」
えーん。わかってますよー。
わかってますー。
これからヤろうとしているところに、ヤってーいわれると、むしろヤる気が失せるでしょー。
分かってるから、ちょっと黙っててください。恥じらいが大切ですよ。
(びっくりするくらい、生き物がいないの)
ちょっとこれ、異常でない?
飢えた小鬼が来るのを察して逃げた?
いやー、それならば。
逃げずに隠れた生き物の一匹や二匹、周辺地図に引っかかってもよさそうなもの。
これは何か、別の要因が疑われます。
つかぶっちゃけ、ヤな予感ビンビン来てます。
だって、考えてみればあの鹿さんたち。
牡鹿がわざわざ身を呈して時間を稼いだのに、なんだってあんな中途半端な場所でうろうろしていましたかね。
まるで、もう逃げる場所がなくなって、途方に暮れていたかのようじゃないですか?
引き返す?
引き返すべき?
どうしよう。
何を悩むことがって、この腹ペコですよ。
彼、もうイライラが臨界イッてますね。これはこれでヤバイ。
下手なこというと刺されそう。
どうやってかは分からんけどなんか種族特性とかで。
これ以上進んでも、こっちに食い物はなさそうだ。
進む向きを変えよう。
路線としてはこれで行くとして。
ただいまちょっと、信頼を毀損中。
なぜなら案内した場所に、二連続で喰えそうなものが無かったから。
エサの切れ目が、縁の切れ目か。世知辛い世の中である。
あー、最初に北に向かわせたのしくったなー。
まさか、雑木林でこうまで獲物に巡り合えないとは。
ムダ足踏ませやがってこのドブスがとか、思われてソウダナー。
思ってたらコロス。
どうすればできるかは知らんがテキトーな攻撃手段とか唐突に授かって。
バキバキッ、ザザザーッ
あうち。なんか聞こえた。
「オオォッ! グワゼロォォォオォオォォォッ」
ギーク、音源に向かってハイパーダッシュ。
ぎゃーッ! しまったタイミングを逸した。
あうあう。
いやーんッ 音から察するに、相手相当デカイよ。
デカけりゃイイッてモンじゃないよ肝に命じとけよおっぱいかよッ
あァーッ、とちょ、イタイよイタイって?!
イバラな茂みに何を真っ正面から突っ込んでんのー!!
もうね、森の中をとにかく強引に無理矢理で駆け抜ける。
肉を喰う為。喰らうため。本能の権化。イッちゃてる。未来に生きてる。
秘密の奥の手を使えば、ギークの足を止めさせること、やってできないことではない。
でも、こんなにも全身に勢いが付いちゃてると、これはもう手が出せない。
こんなんで急制動かけたら、間違いなくエクストリーム前転で大事故大ケガ確定ですよ。
ヤバげイベントの発生が結局不可避だとしたら、そのケガが原因で逃げ損ねるところまで予想できます。
それは避けたい。間抜けすぎる。
(ギーク! せめて木に登るの! 何かいても攻撃なら上からするの!)
「グゥ、ガッ」
ギーク、手近にあった木の幹をよじ登る。
ふいー、よっしゃー。聞いてもらえた。
そこから先は、木の枝から枝へ、器用にジャンプ。
効果音が、ザガザガザガザガーッ、から、ザガッ(グン)ザガッ(グン)ザガッ、に代わる。
これはね、牡鹿な成功体験があるからね。いけると思ったよ。
よしよし、ご褒美にエサをあげよう。
うん、あそこにいる熊なんぞいかが?
熊鍋旨みが強くて独特な感じらしいよ?
。。。え? 熊ですか?
グゥオルゥルルルァアアアァァァァァアッ!!!
森に、恐るべき咆哮が轟き渡った。
ギャーッ なんぞこれマジっすか?!
なんかもう周りの木々全部がビリビリいってる。
あ、ギーク、動きが止まった。
隙を伺うべきと考える理性くらいは、腹ペコ鉋に削りきられたおがくず脳みそにも残ってたのか?
違うわこれ、咆哮くらって怯んだだけだ。
、、、と、とりあえず。熊にマーキングを追加。
いいえ? 僕にあれと戦う意思はありません。マーキングは逃げる時にも有用なのです。
巨躯を覆う体毛は濁った血の色。鋭い爪は鮮血の赤。
目は紅色に光り輝く。夜暗がりの森に軌跡を描く。
その口吻は艶やかに黒く、牙は紅玉と見紛う。
つまり血染熊ですねありがとうございますふざけんなーッ
C+かB-かもしれないけど、小鬼に取っちゃどっちも同じじゃそんなもん。
モンスターのいない土地だねー、平穏すぎるんじゃないですかねー。
そんなことを思っていた時期も僕にはありました。
親熊だよねー。そうだよねー。どっかには居るとは思っていたさ。
でもねどう見てもモンスター化してるじゃん。なんてこったい信じらんない。
ここの領主何やってんの?
件のミカン畑から此処ってそこまで距離離れてないですよ。つまり人里近いんでしょ? てかここってミカン畑と緯度が一直線だし。いやこれ完全に勘だけど、こことミカン畑の中間地点に横たわってる〈未知〉のどっかが村だよね? それでこんな化物放置とかマジどういうつもり死にますよ?
(ギーク、これはダメ、ダメなの)
(落ち着くの。まだ早いの。我慢するの)
(そう、イイコなの。動いちゃダメなの)
(なにもしなくていいの。今は、ジッとしてて欲しいの)
とりあえず説得。なんとしても説得。
挑むなよ、挑むんじゃないぞ? これはフリじゃないからな?
[INFO] 地図に、マーキング《血染熊》を追加しました。