1-15. この雑木林を抜けたら、なの
誤字、脱字など、ご指摘いただければ幸いです。
熊な洞穴への戻り道。
下草ザクザク踏み分けて、小枝パキポキへし折って、僕の示す方角へ。
うーん、あれだなー。
野生動物ってのは巣の場所を悟られないようにするため、出入りする時には色々と工夫をするものだと、いいますが。
つまりギーク君は、そういう動物よりもおバカさんだ、ってことでいいのですかね
まあね、巣といいましてもね。
卵を置いているわけでも、大事なピヨピヨが待っているわけでもないですから?
そこまでの警戒には値しない、ですかね?
いやいや。
Dランクモンスターなんて、ハンターどもに小遣いだか経験値だかを稼がせるためのカモですよ、世間的に。
この辺り一帯は、信じがたいほどに平穏で、モンスターなんて影も形もないようですので、狩人達も寄りつかないのかもですが。
油断は大敵なのです。
ミアの復讐を果たすまでは、さっくり死んで貰っちゃあ困るのです。
ハラ減ったハラ減ったばかりじゃなくてですね、もうちょっとそういう危機感とか、持つべきじゃないですかね。
え? そいつ移動に関してはお前の指示に従ってるだけだろうって?
いやいや、僕は方針は出しますけどね。そういう細かいことは現場にお任せなんですよー。
僕も暇じゃあないのですー。
自分の身は自分で守る努力をしてほしいですね。
ほんともう、まっとうなハンターに狙われちゃったら、小鬼なんてきっとほとんど相手になりませんよ。
だってほらあの人ら、ドラゴンとか狩るし?
少なくてもミアの愛読してた冒険者同士がウッフンな物語ではそうだったし?
くだらないことを考えつつ、僕は《地図》のルートと現在位置とを目で追っていた。
そして、ふと気が付く。
小熊見つけて渡った小川は雑木林の南側。
当然、小川の場所と雑木林の南の際は《地図》上に表示されている。
洞穴の場所からその逆方向、北側に進んだ雑木林の際についても、一部が《地図》に表示されていた。
どうやら僕がお休みなさいしている間に、ギーク君そこまで足を延ばしていたらしい。
僕の《地図》の習熟レベルだと、《地図》上に表示されるのは、木とか大岩とか川とか民家。
後はマーキングしたターゲットくらいかな。そんな程度の情報量だ。周辺探知の範囲は別として。
そのレベルだと、森を北に抜けた場所に何があるのか。
地図上では<未知>ではなくなっているものの、さっぱりと分からない。
ここは目撃者に聞いてみましょう。
(そこ右ね。あ、ところでギーク。ちょっと聞きたいの)
「、、、ギーク? なんだソレは。食い物か?」
キサンの名前じゃぼけーーーッ
なんという衝撃の事実。
こいつ自分の名前把握してねぇッ
名付け親がなくぜこのやろこの場合それは僕だよクソッたれ!
ああダメだ、僕はもう全てを悟ったよ。
悟ってしまったよ。
さっきの会話できてんじゃん感は、きっともう何かの偶然か勘違いだったんだよ。
ああ、むなしい。
色即是空、空即是色。
すべては空だ。からっぽなんだ。
いや、諦めちゃだめ。諦めちゃだめだ。
逃げたらあかん。
教育だ。そう、教育をするのだ。
そうすればほら、ゾウリムシだって。
単細胞なアレだって。
迷路を最短経路通ってクリアできるようになるそうじゃあないか。
鍛えるのだ。鍛えればほらきっと。
とりあえず、お前の名前はギークなのだと説教する。
ギーク。ギークなの! わかったのギーク!
(ギーク、そこの左手の坂を上るの)
(ギーク、直角に右を向いて、それからまっすぐなの)
(ギーク、右手にある木のわきを迂回して坂を降るの)
「オイ、同じトコロ、回ってナイか」
(……きのせいなの)
それから暫く、ほんのちょっと遠回りしつつも、僕らは目的地の洞穴に到着した。
やだな迷ったわけじゃありませんよ?
三人称を強調することに意を注ぎ過ぎて、右と左を言い間違えたりなんかしてないです。
きっとあれは必要な儀式だったのです。将来への伏線かなんかなのです。
分かりましたね? 僕はバカじゃないですよ?
で、寝る前に。
(あ、ちょっと待って、寝るのストップなの!)
(一昨日ね、僕が寝ているときに、森の北を抜けたと思うの)
(森を抜けたところがどうなっていたか、教えてほしいの)
あぶないあぶない。
ギークが自分の名前を把握していなかった衝撃のあまり、聞くのを忘れていた。
ん? 何度も言うが、僕はバカじゃないよ? ちゃんと思い出したし?
「北? ワカナン。それはドッチの事だ」
ああ、そうね。ギークは《地図》見れないものね。
うん、明日だね。直に見に行こう、そうしよう。
節々痛かったから、ここに戻ってはきたけどね。
どうせこの近辺には、もうまともな食べ物はなさそうだし。
それがばれたらどうせまた、移動するぞとせっつかれるだろうしね。