7-11. 誰が勇者、なの
アギーラちゃんには標的の動きを鈍くする、そういう能力があるそうだ。アギーラちゃんに限らず、彼女の一族で戦士になるくらいの者であれば誰でもが出来ることだそうで、ギークができないと言ったら驚かれた。
「本当に出来ないのカ? におい隠しと同じデ、出来ることに気付いていないというだけではないカ?? 狩りの時に、ダルトカイの足を止めていたではないカ。あれは違うのカ?」
狩りの時に使っていた、というのは、僕の<<制圧の邪眼>>ですね。悪徳爺をギークが頭からバリバリやった際に、どういう理屈でか使えるようになったギフトです。
うーん、なるほど? 相手の動きを悪くする、という意味では、確かに同じようなものかも知れない。しかしそうすると、アギーラちゃんの一族は、全員が僕と同じで邪眼なギフト持ちってことなのかな。
(それって、どんな相手にも効果があるものなの?)
「いや、人間、、、というか、同族には効かないナ。例えばだが、村の戦士の誰かが吾に仕掛けてきたとしても、吾にそれは効かなイ」
なるほど。その特徴が僕の邪眼に当てはまるかというと、、、どうなんでしょうね? 分かりません。そもそも僕に同族とか居るのだろうか。居るなら会ってみたいものだ。出会ったところで、姿は見えないのだろうけど。
「仕掛けられたことは分かるのデ、吾等の間では、その行為は警告ダ。声を出せないとき、合図にも使っているかナ。戦士でない者の内には、仕掛ける方ができない者もいル。しかしその彼等にも効果は出なイ」
ギフトって言うよりは、アギーラちゃんの一族に特有な、種族特性に類する特殊能力、または種族特性そのものって感じがする。練習したとしても、ギークがその能力を身につける日は来ないな。多分だけど。
でもギーク、ちょっとだけやってみない? 出来たら儲けものだし。アギーラちゃんが手取り足取り教えてくれる一生懸命な姿が見れて、僕も眼福だしね。え? お前がやれ?
(仲間以外には、例えば相手がすごーく強かったりしても、効果があるの?)
例えば、アイスレクイエムのような破格にも通じるのだろうか。僕はそう思って、アギーラちゃんに尋ねた。これ、邪眼はダメなのである。
ダメだった。アイスレクイエムどころか、王獣にもトゲトゲにも、まるで通用しなかった。ギークから逃げようとする獲物の足止めなんかだと、どうやらほぼ確実に成功するので、その用途では便利なのだけれど、肝心なときに役に立たないギフトなのだ。
「そうだナ、、、発動に失敗する、ということはあるゾ。相手がどうこうではなク、体調であるとか、本人の問題なのだガ。それから、通用はしても、効きが悪いと言うことはあル。元々が鈍重な相手には、長く良く効くナ。元が素早い相手には、効果時間も短イ」
少し考えてから、アギーラちゃんが答えてくれる。ふーんと言う感じ。素早い相手にこそ長く良く効いて欲しいものだと思うが、儘ならないものなのですね。
(ギーク、右上なの。木の幹の側に居るの)
アギーラちゃんと歓談しつつも、見逃さなかった僕が言うと、手慣れた所作でギークが短弓に矢を番え、一瞬だけ狙って即座に射離した。ビュンと飛んだ矢が、木の幹に掴まりこちらを見下ろしていたウサギ的な小動物を見事に仕留める。
師匠から譲られた<<引戻し>>のギフトで矢を回収すれば、それに貫かれた可哀想な小動物ごと、フワフワと手元に寄ってきた。
その様子を見て、アギーラちゃんが目を輝かせる。ギークは当然だ、みたいな顔をしているが、でも僕にはアギーラちゃんからの感動の眼差しが重たい。
純粋な賞賛と尊敬、子供が何でも出来る魔法使いを見出したときのような、期待と信頼の眼差しである。いえ、大したことはしていないし、出来ないです。あまり過度な期待はしないであげてください。
ギークは矢が貫く小動物の首を残酷に囓り喰らって、胴体から矢を引き抜き、脚を持ってブンブンと左右に振り回した。かなり酷い光景だ。首から上を失った小さな死体から、遠心力で赤い血が絞り出され、周囲に飛び散る。
血の臭いでより大物の獲物、有り体に言えば例のトゲトゲを呼び寄せようという魂胆なのだが、いちいち残忍な感じになるのはどうにかならないのか。てゆうか血の撒き方が雑すぎる。飛沫がアギーラちゃんにも掛かってるじゃないか!
幸いショゴ君スーツでキャッチしたから、アギーラちゃんの綺麗な銀毛は汚れていない。けれどもしかし! 同じ事をするにしたって、もうちょっと丁寧慎重に、喪われた命に敬意を払う感じでやらんかい!
「大して撒けてないな。もう何匹か捕まえてから、纏めてやるべきだったか」
僕がギークにどう抗議してやろうかと考えていると、僕がそれについて口火を切るより先に、不満気な口調でギークがほざいた。カラカラに血抜きされた首なしの死体に齧り付き、二口三口で片付けつつの台詞である。
他に手頃ななにかが居ないものかと、周囲を見渡している。
シビトが徘徊していた集落跡をスルーして、獣道を更に数日進んだ僕らは、アギーラちゃんが大集落と呼ぶ場所に辿り着いた。
そこにはアギーラちゃんと同じく、フサフサの銀毛を全身に生やした人々が数え切れないくらい、と言っても百人ちょっとだとは思うが、暮らしていて、集落に近付いた僕らは、不審な人物として槍に囲まれることになった。
そこでアギーラちゃんがこんな事を言ったので、事態が大事になっている。
「吾は、大いなる黒に加護を賜りし戦士、アギーラ! こちらにおわすハ、御遣様より魔界へと旅立つ使命を与えられた使徒、勇者ギークであル! お前達では話にならン! 長を呼んでこイ!」
待ってアギーラちゃん、なにか増えてる。なにか称号が増えてるよ。僕は思った。何故に勇者? どう考えてもギークは、ラーなミラーで正体を暴かれて、退治される側だろう。
「ナルホドお前は同族ダ、優れた戦士ダ、それは認めよウ! だがそっちのデカいのは何ダ!? 使徒? 勇者だト? バカなことヲ! 森の悪鬼ではないカ!!」
前に出てきたちょっと偉そうな人が、怒鳴りつけるようにアギーラちゃんに言い返す。そこからは、認めろ、認められん、みたいな遣り取りとなった。アギーラちゃんは、その偉そうなのから、最終的には次のような条件を引き出した。
「いいだろウ、確かに強いのだろうシ、冷静でもあるようダ。立ち寄り人としてなら遇してもよイ。だがウガチをお前達だけで斃したという言葉は真実カ? それが真実であるなラ、この近くにもウガチは居ル。証してみる勇気はあるカ? あるのなラ、吾等は貴殿を単なる立ち寄り人ではなク、まさに娘、お前が主張するようニ、偉大な勇者であると認メ、この集落上げての歓迎をするだろウ」
いや、普通に立ち寄り人とやらだし、それで全然僕は構わなかったのですが、アギーラちゃんがとにかくやる気でいっぱいで、頬が興奮に紅潮していて、心持ち銀毛も昂ぶって膨らんでいる感じになっていてとても可愛くて、まあそんなわけだからそんなアギーラちゃんを落胆させるわけにはいかず、トゲトゲ狩りに挑戦しようとしている現在である。
僕は<<地図>>を使って、付近の様子を探る。大きな気配は映っていない。ギークと、アギーラちゃんと、先の集落からの見届け人としてついてきた若者ふたりだけだ。
この若者達、ギークの射撃から始まるさっきの一連の行動に、信じられないものを見る目を向けていたが、なにか言いたいことがあるならぜひ言ってやって欲しい。
残忍だ! とか、残酷だ! とか、ビシッとお願いしたいね。命を何だと思っているんだこの下郎! とかでも可。最近ちょっと僕、余りに酷いギークの振る舞いを間近に見続けたせいで、これ位ならまだセーフかな? みたく毒されてしまっている感がなきにしも非ずなのだ。自覚があるから、まだ立ち直れると思うのだが、ここらでちょっと外部から客観的な意見を貰って、校正しておきたいところである。
あ、アギーラちゃんも、どうぞ遠慮なく指摘してくれていいんですよ。ギークが暴れ出したら僕が抑えます。他二名については約束は出来かねるが、断じてアギーラちゃんだけは守り通す意思があるね。
何も来ない。来ないなあ。ヒマなので、またちょっと別のことを考える。アギーラちゃん可愛いな-。既に僕はアギーラちゃんの同族な皆さんを何人も目にしているが、アギーラちゃんはダントツで可愛いと思う。お持ち帰りしたいな-。されてくれないかなー。
ギークには指一本たりとも触れさせたくないと言うのに、ギークを通してしかアギーラちゃんに接することが出来ないこの僕の苦悩たるや如何ばかりのものか。きっと誰も理解してくれないだろうと思う。いや! 今の僕にはショゴ君がいる! ショゴ君ともう少しシンクロ出来るようになれば、もしかしたらもっとムフフな感じとか、、、
「来たゾ!」
あ、いけない。ちょっと楽しい空想のひとときを過ごしてしまっていた。そのネタだったアギーラちゃんのリアル警告を聞いて、正気に返る。急いで<<地図>>を確認すると、いたいたコイツだ。うん、ところで気のせいか? なんか二匹居るんだけど。
勘違いでも見間違いでもなく、二匹来た。明らかに偶然じゃなく示し合わせの襲来と伺える。何でと言ってトゲトゲの二匹、ばったり遭遇してしかしお互いには目もくれず、僕らだけを標的として襲い掛かってきたからだ。コンビネーションもバッチリなようで、こっちとしてはたまったものではない。無茶言うな。一匹でもこのトゲトゲ共は十分な難敵なのだ。それが二匹同時とか、理不尽すぎる。
「グルァァァアアアア!」
盾で一匹の体当たりを凌いだギークが、雄叫びを上げて大鉈での反撃を試みる。その背後からもう一匹の強襲を受けた。姿勢を捻って無理矢理に躱したギークだったが、いやダメだこれ、ただでさえ異様に俊敏な相手だというのに、これじゃこっちから攻撃する隙がない。
次第に追い込まれて防戦一方になっていき、他の同行者を気遣う余裕もなくなっていく。見届け人だったふたりが、いつの間にか斃されいた事に気付いた。ローリングアタックに轢き潰されて、なんだか酷いことになっている。お気の毒としか言いようがない。
アギーラちゃん! アギーラちゃんは無事?! 慌てて探すが、トゲトゲ共の猛攻が激しすぎて、ギークの身体も滝壺の木の葉かなにかのように翻弄されていて、周りの様子を窺う余裕が僕にもない。クルクル、グルグル、目が回る。
「ミイ! 引き戻せ!!」
ついにいかれたのか、いや元からか。ギークがブンブンと振るっていた大鉈を振りかぶって、放り投げた。そして僕の名を呼び、そう喚く。何だって言うのか。その鉈を引っ張ればいいのか? 僕が師匠から引き継いだ<<引戻し>>のギフトを発動させる。ギークは巧みに自分の身体の位置を変えた。
結構な速度で飛び戻ってくる大鉈と、ギークの身体とを結ぶ線上に、トゲトゲの一匹が入り込む。意外な方向から飛び戻ってきた大鉈の刃がまともにザクッと命中した。その痛みと驚きに、間断なかったトゲトゲの動きが一瞬止まる。
「間に合わねえな、バカめ!」
そしてギークは短弓を取り出し、矢継ぎ早で足の止まった一匹に向けて何本もの矢を射放つ。相方の危機に気付いたもう一匹が駆け戻ってくる頃には、かなりその一匹を弱体化させることに成功した。戻ってきた方のおざなりな攻撃を盾でいなし、弱った方に駆け寄る。
(ギーク!)
位置関係が変わったので、僕は大鉈を再度<<引戻し>>た。トゲトゲの胴体に突き立っていたそれは、今度は引き抜かれて僕の合図で待ち受けたギークの右手に収まる。
ギークからの魔力の供給、多分なにそういったものによって、大鉈の刀身が滅紫色の光を不吉に宿した。これを真っ当に叩き込むことができれば、恐らくは確実な止めになるだろう。だが、結構なダメージを受けたているはずのトゲトゲだが、この期に及んでも逃れようとする。
(うごくなー! なの!)
この機会を逃すと、また大変だ。ダメ元で邪眼を発動してみる僕。僕に出来ることが、他にはないのだ。僕にももうちょっと、直接に攻撃が出来るようなギフトが欲しい。
効いた?! 驚いた。ギークの攻撃から逃げようとしていたトゲトゲの動きが鈍る。凄絶な笑みを浮かべてギークが言った。
「じゃあな」
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[INFO] 現在の状態を表示します。
ギーク
夜叉 B+ Lv48 空腹(忍耐)
【種族特性】
永劫の飢餓(継承元:餓鬼)
暗視(継承元:小鬼)
忍耐の限界[耐久/狂化](継承元:鬼)
手弱女の化粧[模倣](継承元:妖鬼)
森林の神霊[隠形/加護]
【称号】
大いなる黒の使徒?
アギーラの勇者?
【従者】
黒六号[生きている円盾] 親愛度E
赤四号[生きている大鉈] 親愛度E
アギーラ
雪猿鬼 C+ランク Lv11 通常
【種族特性】
大いなる黒の眷属[ヘイスト/スロウ]
【称号】
大いなる黒の戦士
ミイ
神霊 ーー ーー ーー
【エクストラ】
唆すもの
????(工事中)
【ギフト】
不死の蛇 Lv5
地図 Lv4
引戻し Lv4
制圧の邪眼 Lv4
<---ロック--->
<---ロック--->
<---ロック--->
【称号】
????(思い出し中)
【従者】
ショゴ君[ショゴス] 親愛度 D → C