表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国のお土産  作者: トニー
第七章:勇者の旅立ち
153/160

7-08. 目を借りる、なの

 誰しもが好き勝手に生きている。

 協調性というものがない。協力と言う事をしない。

 自分の利を説くばかりで、相手の事を考えない。

 自分の権利ばかり主張して、他人の都合はお構いなし。


 正義がないし、哲学がない。

 そんなことだから、暴威に屈するばかりなんだ。

 それではダメだ。そう思うだろう?

 もっと互いに協力をするべきじゃないか。足並みを揃えることができるはずだ。

 心をひとつに、力を合わせて立ち向かおう。一致団結して、偉業を成し遂げよう。

 それこそ我等の真の力だ。



 目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 なんだか見える景色の様子が違う。果たしてここは、何処だろう。

 すでに周囲は明るくて、でも僕はまだ眠い。クラクラする。寝不足だ。

 眠気覚ましの紅茶が欲しい。そんなもの、もうだいぶ長い間、飲んでいないが。


 直前の記憶を思い起こす。ギークが、アギーラちゃんに、におい隠しの方法を習っていたはずだ。僕はその練習を叱咤激励していたはずで、しかしいつの間にやら意識が飛んでしまったようである。仕方ないよね。夜逃げの後だし眠かったのさ。

 なにか夢を見たような気がするのだけれど、なんだろう。内容は思い出せない。でも、ミアは出てきてくれなかった。師匠もいなかった。つまり、どうでもいい夢だ。

 怠くて眠い。もう一眠り、よろしいか?


「やはりそうダ、、、これはきっト、シラビトの仕業に違いなイ。先日、群れで御山に侵入してきたシビト達ノ、恐らくははぐれなのだろウ」


 アギーラちゃんの声が聞こえた。ようこそアギーラちゃん。僕の微睡みに初出演。

 ん? 違う違う。まだ寝てない。今のは現実の声だ。微睡みの甘露な誘惑を振り切って、僕は自分に起きろと命じる。辛い。苦しい。でも起きなきゃダメだ。起きるんだ。

 眠いよー。しんどいよー。アギーラちゃーん、僕にお目覚めのチューをプリーズ。


 アギーラちゃんはすぐ隣にいた。厳しい顔付きでなにかを見ている。何か居るのかな? 僕は<<地図>>を見て、辺りの様子を探ってみた。ファン、ファン、ファン。

 んー、これと言った反応はないようですが。範囲外? ギークもまた、アギーラちゃんと同じ方を向いている。ギークの視界を間借りして、視線の先を見た。あれ? あれれ?

 実に不可解。結構近くに、人影がひとつ。何をしているのかはよく分からないが、山中をフラフラと彷徨いている。アギーラちゃんもギークも、木陰からその人影を観察していた。

 なんでだろう? なんでというのは、どうして<<地図>>に映らない? 幽霊さん?

 寝惚け気味の胡乱な頭で考える。人影は、覚束ない足取りで、ただ行ったり来たりを繰り返しているようだ。そんな相手だが、実はにおい隠しの達人だったりするのだろうか。


「シビト? シラビト? なんだそれは。獣か? それとも食い物か?」


 ギークがほざく。食い物のわけはないだろうなあ。話を途中からしか聞いていなかった僕が言うのは何だけれどもね。

 ああ、よくよく見たら、映ってないことはなかった。でもちっちゃい。何だこれ。

 その人影には、見た目アギーラちゃんと同じくらいの背丈がある。でも<<地図>>上の光点はよくて小動物、大きな虫くらいにしか見えない。どういうこっちゃ。


「敵、外敵ダ。長老から聞いた以上のことハ、吾にも分からないのだがナ。出会ってしまったら最後、まともな戦いにすらならなイ、とても危険な相手だそうダ」


 アギーラちゃんからは、ごくごくまじめな答えが返ってきた。

 ギーク、空回ってるぞー。ちょっと自覚した方がいいぞー。


「シラビトは人や獣を殺して操ル。操られた人がシビトで、獣がシジュウだ。一度死んでいるかラ、自我はなイ。シラビトの傍を離れるト、もう一度力尽きるまデ、ああして意味もなく彷徨き回るのだと言ウ」


 シラビトが出たのは恐らく何日も前の話。その後ずっとここでこうしていたのだとすれば、付近の野獣に襲われなかったのは驚きだと、アギーラちゃんが言う。

 そして言った後に「そうかまさカ、付近の野獣ごと持って行かれたかラ、もしかしてこの辺りには何も残っていないのカ?」と、ここでようやく彷徨くシビトから目線を外し、周囲を見渡しながら呟いた。


「そのシラビトとやらはどうしたんだ」


 シビトに値踏みをするような視線を向けつつ、ギークが尋ねる。

 これはもうきっと、喰えるかどうかを考えているに違いなかった。深刻さ台無し。


「シラビトは御遣様に敵対しているのダ。御遣様がダイコク様から預かった秘宝を狙っているのだト、言い伝えられていル。どこからか軍勢を引き連れてきたリ、或いは集落を襲って軍勢に仕立て上げたりしテ、なんども御遣様に戦いを挑んでいるのダ。三年前まで存命だった長老ガ、吾が村では唯一シラビトを直接目撃をしての生き残りだったのだガ、もし御遣様が秘宝を奪われたときにハ、世界はきっと終わるのだろうト、シラビトの話をするときは、必ず最後にそう言っていタ。魔界が溢レ、平穏は失われてしまウ、とナ」


 魔界、魔界ね。それって僕たちがいた世界の事だと思うのですよ。あそこは魔界だったのだろうか。

 ミアを殺してしまう世界だし、そうだったのかも知れないな。

 でも、ミアや師匠が生まれた世界でもあるのですよね。うん、そこをどう考えるか。


「よく分からんが、もうこの辺りには居ないはず、てことか?」


「そうだろうナ。居ないはずダ。さっきも言ったガ、幾日か前に、御山を登るシビトとシジュウの一団が目撃されていたのダ。それもあっテ、御山を交代で警戒していたとこロ、ギークが下りてきたのだガ、、、」


「フン、ならここでこうしていても仕方ないだろ。目的の集落はどっちだ?」


 もう少し進んだ先に、大きな集落がある、はずなのだそうだ。

 僕が寝入ってしまった後、アギーラちゃんとギークは、安全に寝ることができる場所を求めて、それでここまで来たということだった。

 徹夜なんですね、僕だけ寝てしまってすいませんね。

 けれど、ここにシビトがいると言うことは、集落の方は望み薄だろうと、沈んだ表情でアギーラちゃんが言う。


「生き残りは居るかも知れないガ、、、近寄らない方がいいだろウ。すでに寝場所として安全とは言えない有様だろうシ、生き残りがいたとしテ、何かをしてやれるわけでもなイ。やはり交代で寝ることにしよウ。幸いにしテ、今この辺りに獣は少ないようダ。ここで不時泊ビバークにしないカ?」


 そして休むなら、先に休んでくれと構わないと、アギーラちゃんが提案してきた。

 トゲの毒にやられてからの病み上がりで本調子ではないだろうに、健気な子である。これでギークが、じゃあ遠慮なくとか言い出すようなら、折檻してやろう。

 もちろん、あのトゲトゲとの激戦から一睡もしていないギークだって疲労はしているのだろうが、こいつはまあなんか、メシでも喰わせておけば他は二の次みたいなところがある。きっと平気に違いない。


「、、、お前が先に休め。明るくなるまで気付かなかったが、随分と顔色が悪いぞ。そんなざまで、まともに見張りが務まるとは思えん」


 ギークどうした?!

 驚きである。ギークがまさかアギーラちゃんを気遣うなんて。


(・・・・・・)


 さて、アギーラちゃんは体調が悪い。ギークは疲労困憊。

 一方で仮眠をとった僕はそこそこ元気だ。まだちょっと眠いけど。

 もしかして現状の最適解って、僕が見張りを務めて、ギークとアギーラちゃんを休ませることだろうか?

 えーと、うん、まあね、はいはい分かりましたよ、やりますよ。


(僕が見張っていてあげるの。二人とも休めばいいの)


 僕が見張りをすると言っても、ギークに目を閉じられてしまうと視界が塞がれるので、<<地図>>でしか警戒は出来なくなってしまう。

 でもショゴ君もいるし、さっきアギーラちゃんが言ったように、周囲にモンスターの気配はないようだし、たぶん問題ないだろう。僕が二度寝できないことを除いては。

 ぐう、我慢しますよ。我慢すればいいんでしょ。


「起きてたんならとっとと言え」


 どっかりと腰を下ろして、木の幹に背中を預け、ギークが言った。

 目を閉じて、早くも寝る体勢である。

 こ、この野郎、、、寝ている間にこっそり鼻と口を塞いでやろうか。


「セ、精霊様に任せてしまうのカ?」


 アギーラちゃんは遠慮なんてしなくていいですよー。さあ、こっちにおいでー。

 ギークが目を閉じてほどなく、足の上におずおずといった感じで、暖かいものが寄り添ってきた。もちろんアギーラちゃんに違いない。モフモフで、そして香ばしい。

 ああ、いいなー。アギーラちゃん、いいなー。

 師匠との日々を思いだす。添い寝してくれたクラナスと、それに思いっきり甘えたミアの事を思い出す。


 アギーラちゃんは逡巡していたようだったが、やはり疲れ切って居たのだろう、フラフラとギークの横に寝そべると、直ぐにスヤスヤ寝息を立て始めた。

 アギーラちゃんとギークが寝入ってから程なく、僕は速攻で退屈だった。アギーラちゃんのぬくもりが僕を幸せにしてくれる。ああ、ダメだ、このままだと確実に寝てしまう。何かしよう。何がいいだろう。


 そうだ、今日もショゴ君の訓練をしよう。

 そう思いついた僕は、ショゴ君との会話を試みる。会話というか、意思の疎通というか、感覚共有の練習だ。

 僕は今、ショゴ君から、少しだけれども、感覚のフィードバックみたいなものを貰えている。不思議な感じだけれども、ショゴ君が触れたものの形とかが、なんとなく分かる。


 目下での目標は、ショゴ君の目を借りれないかということである。

 ショゴ君は体の何処にでも目を作ることができるみたいなんだけれども、その目で見た映像を共有して貰いたいわけだ。それが可能なら、一気に出来ることが広がるんだけどな。

 フレデリカの言葉を信じるなら、訓練すれば、出来るようになるはずだとのことである。訓練、これで結構頑張っていると思うのだけれど、なかなか難しい。なにか取っ掛かりとか欲しいものだけれどな。どうやればいいのか。


(ギークもショゴ君みたいに素直だったら良かったのになー、なの)


 訓練の傍ら、ショゴ君であやとりをして遊んだりしながら呟く。

 ギークが僕をうっとおしいと思っているのは間違いない。悪徳爺フラッゲンを取り込んで以降、その傾向が特に顕著になったと思う。

 もう少し折り合いを付けるとか、妥協点を見いだすべきだというのは、僕としては分かってはいるのだ。というか、妥協できるところは、これまでも結構譲ってきたつもりの僕である。

 しかし、譲れないところが噛み合わない。つまり根本的に相性が悪いのではなかろうかと思う昨今だった。いっそギークを乗り捨ててショゴ君に乗り換えるというのはどうだろう。悪くない、いいアイディアじゃないかと思う。


 触覚が共有できて、視覚もできれば、なんか最後には全部が行けるんじゃないかな。

 乗り換えると言えばそう、なんかあのトゲトゲとやり合った後に、一瞬だけ僕はアギーラちゃんの中に居たんじゃないか疑惑があるのだけれど、あれば結局何だったのだろう。


(あ! なにか見える、見えるの!!)


 やったぜ拍手喝采。全然ぼやけているし、まだまだだけれど、ショゴ君の視覚情報らしきものの共有に成功した。おお、ホントに出来たよ。やったぜ! ナイスだショゴ君。

 いいぞいいぞー、この調子だー。そんな風に僕が大はしゃぎをしていたら、突如ギークの右腕が跳ね上がって、自分の顔をがっしりと掴んだ。痛い、痛い痛い。


「ミイ、ギャンギャンとうるせえぞ。静かに寝かせろ」


 ウヌゥ! 黙って静かに寝てろよこの野郎。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ