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天国のお土産  作者: トニー
第七章:勇者の旅立ち
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7-07. におい隠し、なの

 ここは何処で、自分は誰だ?

 何だそのテンプレな疑問。バカバカしい。しっかりしろ。

 朕が名はニロムデ。他の誰でもない。炎の崇拝者、狩人の王、最初の王だ。


 それで? ここはどこだ。見覚えのない場所だが、いったい何がどうなっている。

 情報を集める。収集を試みる。……、……、応答がない。時間切れ。異常終了だ。

 なんだと? そんな莫迦な? 再試行するが、同じく失敗。これはおかしい。

 フクロウどもが応答を返さない。これはいったいどういうことだ。


 強い目眩を覚えた。なにかに干渉されている? 何が何だか分からない。

 この自分がこうも易々と、外部からの干渉を受けるなんて事が、果たしてあり得るのか。

 外部からではない? 不明。だがどちらにせよこれは異常だ。


 不正なアドレスの参照、緊急停止、リブート。

 前回正常に起動した時の構成で再起動。



 ◇ ◆ ◇ ◆



 なにか視点の位置がおかしいなと思って、色々やっていたら、元に戻った。

 戻ってから気付いたんだけれど、もしかして僕、今し方アギーラちゃんの中に居た?

 うそ、ほんと? まじめなはなし?


「ぜんぶ、食べてしまたのカ。すごいのだナ、ギークは」


 アギーラちゃんが言った。すごいというか、ギークは食い意地が張りすぎだ。

 というか、アレ? ギーク、トゲトゲの死体、いつ喰ったんだ?

 さっきまでまるまる残っていたと思ったのに、トゲ付きの体毛と血痕が散らばるばかりになっている。骨はどうした。骨まで丸かじったのかこいつ。


「……、……、すまん」


 ピタリと動きを止めて、周囲を見渡してから、血塗れた牙と口元はそのままに、ギークがアギーラちゃんに謝った。なにを謝ったのだろう。

 うん、謝るべき事は色々ありそうだが。


「お前の分を残しておくのを忘れていた」


 ノーコメントで。

 ともあれ、僕、アギーラちゃんの中に居たような気がする。さっきまで。

 なんで? どうして? どうやったんだ? ……、……、わからず。

 あれー? 気のせいかなぁ。


「立てるか?」


 ギークがアギーラちゃんの側に寄って、片手を伸ばした。

 おお、どうしたギーク。気が利くじゃないか。


「あァ、もう平気ダ」


 多少ふらつきつつも、アギーラちゃんはギークの手に掴まり、そして自分の足で立った。

 ギークの手を握ったまま少し動く。感覚に問題がないことを確認したらしい。

 手を掴んだままギークを見上げ、アギーラちゃんがギークに尋ねた。


「……ギーク、行ってしまうのカ?」


「……ミイ、いや、……精霊様、とやらの御意向でな」


 あ、この野郎!? 僕のせいにするのか! 僕憤慨。

 いや確かに僕の意向なんだけど、でもそこは男なら泥を被ったらどうだこの恥知らず。

 あーと、えーと、どうしよう、どう答えよう。


「ギークに、そして精霊様に使命があるのは分かっていル。それを邪魔するつもりはなイ。だかラ、そノ、吾も共に行く事ヲ、許しては貰えないだろうカ」


 決意を宿した表情でアギーラちゃんが言った。

 僕は迷った。とても迷った。使命だなんて方便だ。そして僕が本当にやりたい事には、僕は親しくなった人たちを巻き込みたくない。


「足手纏いになるつもりはなイ。力になれル、と思う。これでモ、村では誰よりも早く一人前・・・になった身ダ。役に立てるはずダ。だかラ、頼ム。連れて行ってくレ。吾にできることなラ、なんでもしよウ」


 なんでも? なんでもですか。あう!? やめてやめて。僕を誘惑しないで!


「付いてくるなら、好きにすればいい」


 ふぁ?! 僕が煩悶していたら、ギークが勝手に決めやがった。この野郎、この野郎!

 さて移動を再開するかと身支度しながら、ギークはアギーラちゃんに思いついたらしい一言を付け足した。


「ああ、いちおう警告しておくが、俺は余りに空腹が酷いときには、見境がなくなることがある。その時は、逃げろ。全力でな」


「そ、そうカ。分かっタ。気を付けよウ」


 目を可愛くパチクリとさせて、アギーラちゃんが応えた。

 ギークもたまにはいい事を言う。ええ、もうそんなときには脇目も振らずに逃げてください。あのモードになると、僕の制御も完全に弾かれてしまうのです。ダメなんです。だから是非ともお願いします。


「これハ、、、?」


 アギーラちゃんを連れて移動、大型の獣は立ち入って来れないだろう位置にでの休憩中。

 ギークの身体から分離して、うぞうぞと這い寄ってきた気味の悪、、、もとい、ぷりちーな黒い粘塊を見て、アギーラちゃんが後ずさった。アギーラちゃんにどん引きされて、ショゴ君がテケリと凹む。唐突すぎたことを反省しつつ、僕はフォローを入れた。


(敵じゃないの。大丈夫なの。ギークの護りを、分けてあげるの)


 フレデリカが言うには、本来のショゴ君は、栄養さえあれば、幾らでも分裂して自分の子供というか、複製を作れる生き物らしい。でもそうなると制御しきれなくなるので、制限を付けているとかいう事だった。

 細かい違いは分からないけれど、いま僕が本体から切り出したショゴ君の分体はあくまでショゴ君の一部であって、独立していない。そしてショゴ君は分体を作れるけれども、分体は自分の分体を作れない。そんな感じらしい。

 なにか他にも色々フレデリカは説明をしてくれたのだが、僕には理解ができなかった。あの娘はもっとわかりやすく人にものを説明するということを学ぶべきだと思う。


「く、喰われたりハ、しないカ? ウ、、、なにカ、、、こそばゆいのだガ、、、」


 ショゴ君の分体が、ゾゾゾと抵抗を止めたアギーラちゃんの肢体に取り付いていく。首元から下、銀色の綺麗な体毛で覆われていない箇所を重点的に防御しよう。黒はアギーラちゃんにあんまり似合わないかも。色とか、もうちょっと白っぽくならないかな。

 ああでもないこうでもないと試行錯誤する僕。その度、ショゴ君分体が微妙に蠢いたりするもので、アギーラちゃんが赤面しつつ、なにかを訴えるような、やや恨めしげな目線でギークを睨んだ。ちょっと待ってね、ごめんね、もうちょっとだけなので。

 とりあえず満足のいく出来になった。色は灰色、つるんとした鞣し革のような質感が、丸出しだったアギーラちゃんの胸元を含め、胴の前面を完璧に覆い隠している。

 どうだと誇りたいところなのだが、肝心のアギーラちゃんが、何だが内股でへたり込んで項垂れてしまっていた。呼吸もだいぶ乱れているようだ。はて? ちょっとくすぐったいくらいだったかと思うのだけれど、まだ体調が万全ではなかったのだろうか?


「なるほド、ギークの身体を覆っている、その黒っぽいものモ、この生き物だったのカ。まるで気が付かなかっタ。精霊様の、従僕なのだナ」


 立ち直ったアギーラちゃんが言う。

 それほど重さを感じる事もなく、身動きの邪魔にもならずで、貼り付けておく事にひとまずの合意は得られたようである。うん、よかった。


(そうなの。ショゴ君なの)


 最初はどうかと思ったのだけれど、ショゴ君スーツはとても便利だ。

 周りが暑ければひんやり冷たく、寒ければぽかぽか温い。蒸れる事も、汚れる事もなくて、逆に身体の汚れなんかを綺麗に掃除さえしてくれる。縁の下の力持ちである。

 アギーラちゃんにもこの快適さを是非とも分けてあげようと思ったわけで、他意はない。敢えて言えば、丸出しなのはやっぱり目の毒だし、それに怪我とかしたら大変だから、不慣れな地に一緒に行くというなら、何か着せてあげなきゃというのはあったけどね!


「見た事のない生き物ダ。これは、擬態なのカ? なにを食べているんダ?」


 なにを食べているんでしょうね? そういえば知らないですが、どうなんでしょう。


(たぶん、ギークのお零れを貰っている感じだと、思うの。あんまりがっつりと食餌をする感じではないの。間違ってもアギーラちゃんにかぶり付いたりしないように、きちんとお願いしてあるの。安心安全なの。ね、ショゴ君?)


 テケと返事があった。きっと大丈夫だ。

 そして、ギークのお零れを貰っているのだろうという予想が正しいのかどうか、今度観察してみようと思う。


(ところで、教えて欲しい事があるの)


 ショゴ君のことはひとまずおいて、アギーラちゃんに尋ねる。


(アギーラちゃん、こんな暗い夜の山林で、どうやってギークを見付けたの? なの。途中までは、尾行されている気配もなかったの)


「精霊様、そノ、『ちゃん』というのハ、、、出来れバ、、、」


 アギーラちゃんが、ゴニョゴニョと言葉を濁す。それから一転、しっかりした口調で応えてくれた。


におい(・・・)を追ってきたのダ。ギークのにおい(・・・)は、この山林ではかなり独特なので、わかりやすイ」


 、、、ギーク、臭い?


「いヤ! 不快な臭いということではなイ! ギークのにおい(・・・)が、とても力強いので、目立つのダ。さっきのシデオオカミ達、あれは血の臭いに惹かれたのだろうガ、そうでなくても捕捉されただろウ。練習が必要だガ、もう少し隠した方がいいとは思うゾ」


 臭いって、隠せるものなのかな。香水でも振り掛けておけばいいのだろうか。それはそれで目立ちそうだけれど。

 もう少し会話をして、どうやらアギーラちゃんの言うにおい(・・・)というもの、花の香りや焦げた臭いと言うときのそれとは、少し違うらしい事が分かってきた。アギーラちゃんがにおい(・・・)を隠しているときと、そうでないときで、<<地図>>に表示される光点の光量がかなり違うのだ。

 光点が完全に消えたりはしないようだけれど、これはもしや<<隠蔽>>ギフトに近い能力なのではなかろうか。訓練して身に付くようなら是非にという所だが、難しいような気がしてならない。


「他の土地のコトは知らないガ、吾等を含メ、この辺りに暮らす中型小型の獣ハ、どれも皆におい(・・・)を隠ス。長く生きている者ほど、におい隠し(・・・・・)は得意ダ。なので正直に言えば吾は余り得意な方ではないのだガ、ギークのようににおい(・・・)を全開に撒き散らすのハ、ウガチトゲトゲのようにその必要がない強者だけだナ。ギークはアレに勝つくらいに強いのだかラ、もちろんそれで平気だとは思うガ、当然目立ツ。目立つというのは襲われやすいということダ。だから、先を急ぐ旅なラ、伏せる努力をした方が良いとは思ウ」


 もちろん、出来るのならギークには是非にそれを身につけて欲しいところです。

 隠形は、あれはあれでとても便利なんだけれど、息が詰まるというか、発動中は呼吸できないというでかい難点があるので。

 休憩がてらと言う事で、アギーラちゃんに教わって、におい隠し(・・・・・)の練習をしてみるギーク。ダメだ、ギークにはセンスがない。アギーラちゃんも困った顔をしているし。


「他人に教えるというのハ、難しいものだな、、、」


 いえ、アギーラちゃん、貴女は決して悪くはないです。このうすらトンカチが無能野郎なのです。ごめんねー、ほんとごめんねー、なのです。

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