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天国のお土産  作者: トニー
第七章:勇者の旅立ち
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7-06. インフルエンス、なの

 トゲトゲの攻撃は、ギークの護りを貫けない。けれどギークの攻撃も当たらない。

 決め手に欠く攻防は、体力と集中力を互いに削り合う、消耗戦になった。

 ショゴ君の護りをトゲが貫けないと言っても、それはギークが盾や鉈でうまく防いで、まともにはくらっていないからだ。体当たりを正面からくらったりすれば、もちろんまずい。

 そしてギークの攻撃が当たらないのは、トゲトゲの化け物が異様な俊敏さで避けるからであり、つまりはその均衡の上に互角である。

 先にミスした方があっさりと負ける。そんな戦局だった。


 先に勝負に出たのはギークだった。獣よりも気が短いというのはどうかと思う。しかしそこはギークなので仕方がないのか。

 バックステップでいったん距離を開けたトゲトゲが、チャージした体当たりを仕掛けてくる。この攻撃パターンはこれで三回目だった。予想された攻撃が来ると見るや、ギークは身構え、けれどその突撃を盾では防がなかった。


(え?! ちょっと待つのギーク! それはダメなの!!)


 僕がギャーと悲鳴を上げる。

 ギークがトゲトゲをギリギリまで引きつけたからだし、やろうとしている企みが失敗するのではと思ったからである。

 トゲトゲの突進を、ギークは隠形で透かした。生身は透過できないんじゃないかという懸念が僕の中にはあったのだけれど、どうやらそんな事はなかったようだ。騒いだ僕がバカみたいだ。心臓に悪いのでやめてほしい。

 ちなみにお前の心臓は何処にあるんだとか、そういう突っ込みはご遠慮ください。


 ギークの狙いはもちろん敵の撃破だ。躱して満足ではない。

 突撃を透かされたトゲトゲが、勢い余って体勢を崩すことをギークは期待したのだろう。

 トゲトゲは確かに体勢を崩したが、しかし崩した体勢を立て直さなかった。巨体を丸め、突撃の勢いを活かし、ゴロゴロゴロと、藪の彼方へ転がっていってしまった。

 ギークが顔を歪めて舌打ちをする。これでは追撃をしようにも追い付けない。


 弧を描く移動からのローリングアタックが来た。むちゃくちゃだ。

 転がるトゲトゲがギークに追撃を仕掛ける。それを今度はギークは盾で防ごうとした。たぶん、弾くようにして回転を止めてしまえと考えたのだろう。

 無謀だった。上から下の回転に、ギークの腕が盾ごと吸い込まれる。ギークの肩口から頬にかけてがごっそりと削られる。血飛沫が舞い、灼けた鉄を押し付けられたときと同じような激痛が僕を襲った。もちろんギークも襲われたのだろうが、それはどうでもいい。

 僕が声にならない悲鳴を上げる。視界が真っ赤。痛い、痛い、痛い! 痛みの余りなにも分からなくなる。分からない。なんでこんな目に合わなきゃならないんだ?!


 気が付けば、ギークはトゲトゲのモンスターを切り伏せて、その骸を見下ろしていた。

 どういう事? 僕の頭は疑問符で埋め尽くされる。

 僕が苦痛で錯乱状態になっていた間に、見事ギークがトゲトゲを仕留めたものか。

 しかしはて、僕もそんなに長い間、前後不覚に陥ったりはしていないはずだ。

 頬が熱くて痛い。鑢掛けられたダメージは、依然未だに流血中。ちょっと多めに見積もったとしても、この攻撃をくらってから、何分も経ってはいないはず。

 僅かな時間に、いったい何があったというのか。僕は首を捻る。イメージの話だ。突っ込みは不要である。

 トゲトゲの死骸を睨んでいたギークの目線が、そこから離れ、叢の方を向いた。


「コイツの動きが急に遅くなったのは、お前の仕業か」


 厳しい表情で、ギークが詰問の声を投げる。それで僕も気が付いた。

 応答はない。応答はない。叢の茂みがガサリと揺れて、観念したという体で、アギーラちゃんが姿を現した。


「す、すまないギーク。ピンチかと思っテ、つい手を出してしまっタ」


 なるほど、トゲトゲを撃破するにあたっては、アギーラちゃんが何か手助けをしてくれたようである。それで窮地から一発逆転、ギークはトゲトゲに勝利をおさめたに違いない。

 ギークの表情は厳しい。決闘を邪魔されたという気分なのか。油断して大ダメージを喰らったお前が悪いと思うね。アギーラちゃんが謝る事なんてなにもないです。


 アギーラちゃんには、<<地図>>のマーカを付けさせて貰っていた。

 トゲトゲと戦い始める前の時点では、近くには居なかったはず。だから尾行されていたわけではない。そう思う。

 野犬たちと戦い、トゲトゲと戦っている間に探し出されて、追いつかれてしまったと言う事になるのだろうか。


「戦いに水を差してしまった事は詫びル。だがギーク、ギーク! その血塗れなのハ、まさかウガチの攻撃を喰らったのカ?! 奴の棘には毒があるのだゾ! ……とにかく応急処置ヲ、なんとか、ウウ、しなけれバ! ギーク、そこに座レ! 早く!!」


 詰め寄ってきたアギーラちゃんの、飛び掛からんばかりの剣幕に、ギークはややタジタジとなって、言われるがまま指し示された地面に腰を下ろした。

 この辺り、ギークは情けないと評すべきなのか、それとも素直なのか。無意味に反抗したりしないのだから、素直でいいのかな? どうも釈然としないものを感じるが。

 ギークが素直とか、何の冗談だ的な意味で。


「おい、何をする」


 真っ正面から、腹筋を跨ぐ形で、アギーラちゃんがギークに飛び乗ってきた。

 抗議するギークを無視し、未だにダクダクと流血している肩から頬に掛けての傷をじっと見詰める。アギーラちゃんの小さな舌が伸ばされて、おずおずとギークのそれを舐めた。


「……ク、これハ、こんナ、大きすぎル、、、これでハ!」


 うん、何の話でしょうか?

 傷口ですね。アギーラちゃんはギークの傷口を丹念に舐めて、唇で吸い付き、含んだ血を地面に吐き捨てた。その行為を何度も何度も、アギーラちゃんが繰り返す。

 ギークはされるがままで、戸惑いの表情を浮かべている。アギーラちゃんの熱い吐息が耳朶にかかった。いけないです。懸命なアギーラちゃんを見ていると、何か変な気分になってきます。もしやこれは、ギークの身体に毒が回ってきてしまった証なのではあるまいか。


「フゥ、、、フゥ、、、うッ、、、」


 その内に、ギークに身を凭れ掛けるようにして、顔を紅潮させたアギーラちゃんが、ばったりと倒れてしまった。あれ? え? なんでッ?!


「おい、どうした?」


 ギークが尋ねる。しかし、アギーラちゃんは熱にうなされているかのように苦しそう。

 ギークが呼び掛けても、アギーラちゃんは返事をしない。僕からもアギーラちゃんに声を掛けるのだけれど、反応がない。意識が朦朧としてしまっているようだ。なんだかとってもまずい状況な気がする。まさかトゲトゲの毒とやらか。

 ギークからアギーラちゃんに、よもや毒が移ってしまったのか。まさかまさか、まさかそんな。いや、ちょっと待ってよ! どうしよう!?

 しまった、ついうっかりアギーラちゃんのすることを見守ってしまっていた。だって、ほら、だって、しょうがないじゃないか!

 本当に待って、こんなのはダメだ。どうしたらいい。


 毒。毒だ。ええと、だから、これは毒による症状ってことなんだよね?

 症状は!? 高熱、意識の混濁、早い動悸、息が苦しそう、あうう、アギーラちゃんがギークのせいで苦しそうだ。ギーク! ちょっとお前、何とかしろよ!

 毒って何だっけ? 咬刺毒ベノムだから動物毒トキシン毒物ポイズンか? てゆうかギークは普通に平気そうなんだけど、なにこの理不尽。可愛い女の子に対する選択毒性でもあったっていうのか?! ふざけんな。

 いや、今そういう話はどうでもいい。どうでもいいか? 今は毒より大事な話はないんだからどうでも良くない? いや、えーと、待て待て落ち着け。落ち着くんだ。そうじゃなくて、だから毒なんだよ。毒なんだから、無毒化できればいいんだ。そうだ。


 ギークには毒が効いていない。つまりギークはトゲトゲの毒に耐性か何かがあったんだ。だとすれば、ギークの血をアギーラちゃんにあげればいい、のかな?

 いや、アギーラちゃんはそもそも、毒に汚染されたギークの血が原因で苦しんでいるのですよ。それじゃダメだ。分かんないけど、うまくいく気がしない。

 アギーラちゃんの<<地図>>上のマーカが赤白黄色の順繰りで点滅している。なにこの色。気のせいであって欲しいが、光量が少しずつ減っているような。ちなみにギークは憎らしい程に平然と青緑。力強く灯っている。お前がアギーラちゃんの代わりに苦しめ馬鹿野郎。


 アギーラちゃんを負ぶって、村に引き返すということを考える。

 村の誰かが、この毒に対処する方法を知っているかも。もしかしたら、薬があるかも。

 でもその望みは、きっと薄い。あの村で誰かが知っているようなことなら、アギーラちゃんだってたぶん知っていたはずじゃないか? その最善の対処でこうなっているのであれば、村に戻ってもどうしようもないのではないかと思うのだ。


(アギーラちゃんは、たぶん毒で、弱っているの! 弱っているのだから、強化して、支えてあげればいい、はずなの! 強化なのギーク! 大鉈を光らせるあれをやるの!)


 ひらめいて、僕はギークに言った。あれはそう、きっと<<練気纏い>>の親戚のような能力に違いない。そのはずだ。きっとそうだ。

 <<練気纏い>>には、怪我の回復を早めてくれて、毒やら何やらへの抵抗力を高める効果もあったはず。確かそうだ。そうだったはずだ。

 大丈夫、きっとできる。信じろギーク。<<練気纏い>>が強化できるのは自分だけだ。でもギークのは<<練気纏い>>そのものじゃない。そう、だからきっと都合良く、アギーラちゃんを強化する事だってできるはずじゃないか。できたっていいだろう!

 

(あれ?)


 何か違和感を覚えて、僕は周囲を見渡した。

 アギーラちゃんが倒れてしまってから、少し時間が過ぎている。措置はうまくいった。アギーラちゃんは意識を取り戻してくれた。

 ギークが、魔力なるものをアギーラちゃんに供給したことが、そのことに事実貢献したのかどうか、それはよく分からない。でも、とにかくよかった。本当に良かった。

 アギーラちゃんはまだ身動きができない。憔悴した様子で地面に横たわっている。


 ギークが向こうに居る。傍らにはトゲトゲの死骸が転がっている。

 木々が何本も薙ぎ倒されており、そこかしこには血痕が散っていた。

 今、再び野犬たちの襲撃を受けていた。なんなんだこいつら。

 もしかしたら血臭に招き寄せられているのだろうか。そうかもしれない。場所を移動するべきだったか。それでギークは野良犬たちと戦っている。でも、なにかがおかしい。


 僕は<<制圧の邪眼>>で犬一匹の動きを止めている。

 そいつは噛み付こうとした姿勢のままに硬直し、ブルブルと震えていた。

 それに気付いたギークが矢を放つ。避ける事も叶わず、野良犬の頭部は粉砕された。ギークの居る場所の逆方向へ、血漿が派手にまき散らされる。


 なにかがおかしい。そうだ、ギークの位置が遠い。なんであいつはあんなに遠くに居るんだろう。アギーラちゃんはすぐ側に居る。いつもギークが居るくらいの距離だ。

 さっきまでは少し離れた場所にいたけれど、いつの間にか直ぐ近くに来ていた。弱っているアギーラちゃんに、さっきの犬が噛み付こうとしているのが見えたのだ。それで僕は、それを止めなきゃと思った。でも邪眼の射程には少し遠かった。

 遠かったので、僕は、どうしたんだっけ? なんだかちょっと記憶が混乱してる。どうしたんだっけ? えーと、あれれ?




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[INFO] <<唆すもの>>は、スレーブノードの構築を試みています、、、

[INFO] <<唆すもの>>は、スレーブノードの構築に成功しました。

[INFO] ノード間の同期を開始しました。

[INFO] ノード間の同期はスケジューラによりバックグラウンドで実行されます。

[INFO] <<唆すもの>>によって、プライマリの実行ノード変更が要求されました。

[ERROR] 役割のドレインに失敗しました。アクセスできません。

[ERROR] 役割のドレインに失敗しました。アクセスできません。

[ERROR] 役割のドレインに失敗しました。アクセスできません。

[INFO] <<唆すもの>>は、フェイルバックに成功しました。

[INFO] 役割の再編成が要求されました。再編成を実施しています。

[INFO] 役割の再編成に成功しました。

[INFO] <<唆すもの>>によって、プライマリ_1の実行ノード変更が要求されました。

[INFO] <<唆すもの>>によって、プライマリ_1の実行ノードが変更されました。

[WARN] 役割の一部は従来のノードで継続して実行されています。要求は成功しましたがこの状態には複数の問題があります。問題の修正方法を探しています。

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  夜叉ヤクシャ B+ランク Lv42→Lv47 空腹(忍耐)

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(継承元:小鬼)

  忍耐の限界[耐久/狂化](継承元:鬼)

  手弱女の化粧[模倣](継承元:妖鬼)

  森林の神霊[隠形/加護]

 【従者】

  黒六号[生きている円盾] 親愛度E

  赤四号[生きている大鉈] 親愛度E



 アギーラ

  雪猿鬼イエティ C+ランク Lv11 ミイ実行中

 【種族特性】

  大いなる黒の眷属[ヘイスト/スロウ]



 ミイ

  ?? ランク不詳 Lv未定義 状態不明

 【エクストラ】

  唆すもの

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv5

  地図 Lv4

  引戻し Lv4

  制圧の邪眼 Lv4

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【称号】

  ????(復旧中)

 【従者】

  ショゴ君[ショゴス] 親愛度D


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