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天国のお土産  作者: トニー
第一章:クァボ男爵領の惨劇
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1-14. とある見習いハンター向けの受付窓口にて

誤字、脱字など、ご指摘いただければ幸いです。

 「うん、よく頑張ったわね。文句なし、合格よ!」


 納められた討伐証明、ランクアップしていた餓鬼の一部。

 粗末な布に包まれた状態のそれに、納品者の名前と支払い予定額を書いた木片を括り付ける。


 奥の席でいつでも虫眼鏡を覗いている鑑定士の先生にそれを渡して、判断を仰ぐ。

 問題なしと返された包みを、丁寧に奥の棚に仕舞って、そばかすの受付嬢は窓口へと急ぎ戻った。


 そこでは、カウンターに身を乗り出すように、くすんだオレンジ色の髪の、ヤンチャそうな少年が、瞳をキラキラとさせて、彼女を待っている。


 誇らしげに、かつ期待に満ちたまなざしを自分に向けてくる少年に対して、彼女は少年が最も欲しがっていたであろう冒頭の言葉を渡した。


 その直後。


 「ッ、いやッッッたあぁぁぁぁああッ!」


 さして広くない受付所に、頬を紅潮させた少年の、歓喜の雄たけびが響き渡った。

 結構な大声であったが、誰も少年を非難がましく見るものはいない。


 ここはそういう場所、Eランク(見習い)ハンター向けの受付所。

 新たな新人ハンターの、門出を祝うための場所なのだから。


 「おめでとう。私も嬉しいわ。君が無事に戻ってきてくれて、そして立派になって」


 コスモスのような笑顔で微笑みながら、そばかすの受付嬢は、少年に言う。

 少年は、興奮冷めやらぬまま、幾分か頬を紅潮させて、受付嬢の笑顔を見つめた。


 「ウェナン君、これで今日今この瞬間を以て、あなたはEランク(見習い)ハンターを卒業します。そしてもう一度言うわね。おめでとう、君はDランク(駆け出し)ハンターとなりました」


 討伐報酬のコモン鋼貨数枚を手渡して、彼女がお祝いの言葉を述べる。

 ウェナンと呼ばれた少年は、心から嬉しそうに、元気良くうなずいた。


 「ここはEランク(見習い)ハンターの受付所だから、次から君が行くべきなのは、隣の黄色く縁どられた白い旗の掲げられている建屋になります。ウェナン君の専門はモンスターの狩り(ハント)ですから、牙のバッチを着けた人が担当です。間違えないようにね」


 今度は少し寂しそうに、しかしはっきりと少年は頷く。それは、分かっていたことではあるのだ。

 その後、細々とした注意事項や、Dランク(駆け出し)以上のハンターが心がけるべきことなどの説明を受ける。


 「モンスターを(ハントす)狩人(ハンター)である君たちには、ギルドが所有しているモンスター図鑑の閲覧が許可されます。Dランク(駆け出し)の君たちには、Dランクまで(民間人クラスの強さ)のモンスター情報の閲覧が許可されることになります。Cランク(マイナー)ハンターになれば、Cランクまで(兵士クラスの強さ)の情報閲覧が許可されます。情報は生命線で、ハンターの命綱でもあります。狩りに臨む前には、しっかりと必要な情報を、確認してから出発するようにしてくださいね」


 そして最後に。


 「それでは、頑張ってください。狩人(ハンター)ウェナン。私たちは、私は、あなたを応援しています。Dランク(駆け出し)以上のハンターの、仕事の受付は私にはできませんが、なにかつらいことがあったら、このEランク(見習い)ハンター受付所の卒業生として、いつでも相談に戻ってきてくれていいですからね」


 受付嬢は、白い手袋を嵌めた右手を差し出す。

 頬を上気させて、ウェナン少年はしっかりとその手を握った。


 少年が立ち去った後、受付嬢は次の新人のための仕事に戻る。

 正直、送り出しマニュアルの内容には、疑問がないではない。


 窓口業務終了後の、同僚との会話。


 「モンスター図鑑とか、そりゃあ許可が出るのは嘘じゃないけどさ」


 「んー?」


 「あの年でハンター目指すようなコ、そうそう文字なんか読めないわよねぇ」


 「あー、まあねー。でもしょうがないんじゃない? 権利は権利なんだし、説明はしなきゃ」


 「分かってるけどさ。それならそれで、もっとここで読み書きまで教えるとか、できるんじゃないか、したほうがいいんじゃないかなって。ああいう子たちを相手にしていると、思っちゃうのよね」


 ちゃんと書物で下調べをしていれば、知ってさえいれば、簡単に避けられたであろうトラップのような諸々、モンスターの特性や、地理特有の事情などに、無知ゆえの無謀さで突っ込んで、取り返しのつかないことになってしまうDランク(駆け出し)Cランク(マイナー)の数は相当に多い。


 この前小耳にはさんだところでは、Cランク(マイナー)上がりたてのハンターが、水に潜って河童を狩ろうとしたらしい。なにか特殊な、つまり《水中生活》や《酸欠耐性》などのギフト持ちだというのならまだしも、当然にドザエモンとなって、町外れに漂着していたというから本当に信じられない。


 Eランク(見習い)の内は、彼女ら受付嬢が、これから向かうべき場所、倒すべき相手の情報を、懇切丁寧に説明するので、ちゃんとその話を聞いて仕事に臨むことさえできていれば、そうそう酷いことにはならないのだが、Dランク(駆け出し)以上のハンターには、そんな手厚いサポートは提供されない。


 自分のための情報は、自分の足と、知恵、知識とで、集めなければならなくなるのだ。


 「今でさえ、一人一人に相当時間かけちゃってるからねー。Eランク(見習い)だけ別の建物にされちゃった理由でもあるし。これ以上って言ってもね、厳しいよ。そういうのはさー、もう現場レベルじゃどうしようもないよね」


 「そうだよね。分かっては、いるんだけどね」


 Dランク(駆け出し)からCランク(マイナー)に昇格できるハンターは、本当に少ない。


 まだDランクくらいであれば、そのランクに該当するモンスター自体は、そこまで強いというわけではないにもかかわらず。

 毎夜毎晩のように、死んだらしいとか、帰ってこないだとかの話を聞く。


 特に先々代のガウェン侯爵以降、この領は貧乏だから。

 食い詰めた貧民たち、親に捨てられた孤児たちが、挙って狩人(ハンター)職に就いた結果として、個々人の品質というか、能力というものが全体的に低下して、それがそのまま死亡者数の増大に直結している。


 それを狩人組合(ハンターズギルド)の怠慢が原因だといわれても、職員一人一人の善意と良心と努力とに期待するとか言われても、どうしようもないというものだった。


 貧民や孤児出身のDランク(駆け出し)たち。お金がないのは分かるのだけれど。

 モンスターに対してちゃんとした武器も持た(買え)ず、木の棒だの竹槍だので挑もうとするのだ。


 EやD-(民間人でも倒せる)ランクのモンスターを相手取るならまだしもだ。

 D+やC-(兵士を呼ぶべき)ランクにそれで挑むのは、無謀を通り越していてかける言葉も思い付かない。


 それはある意味勇者の所業なのかもしれなかったが、果てしなく自殺に近似した行為でもあった。


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