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天国のお土産  作者: トニー
第六章:遠足に行こう
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6-24. 思わぬ長逗留、なの

「隠していたとか言うわけじゃねえぞ。上の方で岩に化けていた連中、岩ネズミ? まあ何でもいいが、そいつに叩き付けて弾かれた後、この鉈がぼんやりと光ってたじゃねえか」


 宛がわれたテントの中で獣皮の敷布の上に横たわり、僕の追求にギークが応えた。

 既に宴は終わり、夜も更けでいる。ギークはやはり遠慮という言葉を知らず、六つに切り分けた地竜の肉塊の内、五個までをきれいに平らげて、村人達を驚かせた。

 明らかにギーク自身の体重を上回る目方を食べていたものな。そりゃあ驚くだろう。

 腹が程々に膨れて気分がよくなったからか、いつもより機嫌良く饒舌にギークが喋る。


「あの時、少し何か吸われる感覚があったんだが、気付かなかったか? まあそういう感覚があったんだ。だから逆に、俺のほうから押し付けて(・・・・・)やったら、光るのが再現できるんじゃねえかと思って、やってみたんだよ。思った以上に光ってたな」


 ぶっつけ本番だったらしい。

 失敗してもギークが恥をかくだけだし、別にいいけどね。


 この大鉈が、思った以上の拾い物だった、と言うことでいいのかな? アイスレクイエムの巣穴の奥で、伝説の聖剣宝鎗に混ざって転がっていたのだし、やはり伝説級の武器に違いないと思うので、それくらいの能力が秘められていてもおかしくはないが。たぶん。


押し付けた(・・・・・)って、いったいなにを、なの)


 よく分からない表現を使わないで欲しいものだね。押し付けるとか。こう、ギークがアギーラちゃんを組み敷いて、可愛いお顔にアレな感じのナニをグイグイとやってる絵が脳裏に浮かんだのは、もちろん当然にギークが悪いのであって、僕は無罪だ。


「フレデリカが、たしか魔力とかなんとか言っていたやつだ。具体的にそれは何と言われても、俺だって知らんがね。あの毛むくじゃら共なら知っているんじゃないか? なにかやってただろ。肉塊囲んで加速がどうのとよ。アギーラも、戦っている最中に、ほんのり光ったりとかしていたしな」


「失礼すル」


 噂をすれば影が差すというが、ギークがアギーラちゃんの名を出したほとんど直後くらいに、その本人がガサリとギークがいるテントの中に入ってきた。

 陰影しかなかったテントの中に、本来の色彩が僅かによみがえる。彼女が手に照明、原理不明な光る水晶を持っていたからだ。


「く、暗いのだナ。もウ、寝てしまうところだったカ?」


 ギークの目は暗がりに強い。金庫の中のような、完全な密閉空間だというならまだしも、これくらいの暗さだったら大して苦にもしない。

 アギーラちゃんが入ってくるまで、テントの中にはギークしかいなかった。村全体で3つしかないテントの一つを、ギークが占有してしまっているわけで、大丈夫なのかと思う。

 まさに下にも置かない扱いというものだ。ここの村人達にとって、御遣様から使命を託された使徒というものがどれほどの存在なのかが知れる。

 詐欺で糾弾される前に、そそくさと逃げだしたい気分になるね。


「何か用か」


 彼女の問いに、ぶっきら棒にギークが応じた。彼女はちょっと迷った感じで、明かりを持ったままテントの入り口辺りで佇んでいる。むう、小さな膨らみの陰影が、僕の衝動を艶めかしく誘惑するのですが、どうしたいいのでしょうか。懊悩退散、煩悩調伏、南無三宝。


「そノ、なんダ、吾等はいつモ、寝るときハ、皆で寄り添い合って寝るのダ。この地の夜は冷えル、からナ。だがあまり大勢で押し掛けてモ、もしかしての時に困、、、いヤ、実際、吾も吾もとなってしまったのでナ、それはダメなのデ、ひとまず責任を持って吾がだナ」


 うん、えーと、やばいくらいに至れり尽くせりだ。ぶっちゃけやばいと思う。これが世に言うモテ期とか言う奴なのだろうか。どうしよう。

 とりあえずギークの左手を使って、ギークをぶん殴っておいた。アギーラちゃんがキョトンとして、ギークが烈火の如く怒りだしたけれども、まあ、それは仕方のないことである。


「使徒殿ハ、これからどうするのダ? すぐニ、使命を果たしに出るのカ」


 暖かでモフモフなアギーラちゃんが、引き留めるような目線を向けてきている。ギークは僕にどうするのかを言わせたいらしい。何か答えろとジェスチャーをしてきた。

 あれ? ギークは別に、フレデリカとの合流にはこだわりがない感じ? そうだよね、ないから僕に聞いてきたんだよね。「どっちでもいいが、どうすんだ?」みたいな体だろう。

 んー、やっぱりそうだよな。僕はちょっと考え込む。ギークには根本の所で主体性がないというか、明確な目的みたいなものを持ってない感じがあるのだよね。それ、ちょっとなんとかしたいなあ。


 僕なんかは、ミアを虐待した報いをね、どういう形でか、あのエデナーデの街に叩き付けてやる事を、目的にしているわけだ。

 お父様を生き埋めにして、司祭のクソッタレは高く吊して、ミアを裏切った誰も彼もを八つ裂き、はちょっと考えるとしても、なんか酷い目に遭わせてやるぜというのが僕の最優先達成目標だ。

 で、その為には、僕の立場上、どうしたってギークに主戦力として頑張って貰う必要があるわけです。しかしエデナーデは騎士の国、エデン辺境伯領の首都なので、そこに攻め入って、騎士達の親玉であるお父様に刃を届かせようと思うなら、戦力の強化がどうしたって必要なのだな。

 だからこれまで、季節が一巡するほどの期間、僕は復讐の衝動を堪えに堪えて、ギークを鍛え上げてきたわけですよ。まあ、大筋としては。

 一方で肝心のギークだが、コイツは結局、何がしたいんだっけ? というか、刹那的には戦いたかったり、食事がしたかったり、寝たかったりするのは別として、将来こうなりたいからこうする、という感じがないんだよね。

 その方が扱いやすくていいんじゃないかって? いや、それがそうでもないのだ。

 相手の志向、希望することの根っこが分からないと、交渉も誘導も、やりにくくって仕方がない。「メシ、ハラヘッタ」しか言わない程度に単純な生き物であればともかく、今のギークぐらい色々考えることができる相手だと、変な気まぐれで僕の想定外のことをされちゃったりするわけだし。

 だからあれだよ、できるなら、ギークの目標に僕も協力するから、僕の目標にも協力してよの体制が作れるのが本当はいいはずなんだよ。それで、最後に僕はギークを裏切って、ミアを殺害した主犯であるギークにもご臨終戴くと。

 そうだよなー、そういうふうに持っていきたいなー。


(アギーラちゃん、教えて欲しいの)


 僕たちは王都に行きたい。どうやったら行けるだろうか。

 どうやって行くのが良い方法だろうかと、僕は彼女に尋ねた。


 現在位置から王都まで、その間がほとんど白紙である<<地図>>を見る限り、直線距離で移動できたとしても、十数日はかかるだろう距離がある。

 普通に考えれば、出発前にはある程度の旅支度は調えておきたいし、例えばで言えば川下りのような、ショートカットできるルートがあるなら、積極的に採用したい。


「ちゃ、ちゃん?! あ、いエ、、、ええト、王都、ですカ?」


 ギークに覆い被さっている彼女が喋ると、吐息が肌をくすぐるのでこそばゆい。んー、彼女、暖かいし、それになんだか香ばしいのだよねー。にゅう。ああ、いけない、なにか幸せだ。毛並みもきれいだし、触り心地も抜群だし、なんだかもうずっとこのままでもいいような、、、ちがう! 正気に戻れ僕!

 若干予想していた事だが、やはりここの住民達が認識している世界には、僕が思う王都は含まれていないようだった。僕は質問を大きく後退させて、そもそも人間というものを知っていますかと彼女に尋ねる。

 人間というのはですねー、目と鼻と口があるのです。それで、頭以外は毛が薄くてですね、いや、人によっては頭も薄いんですが、腕が二本で、足も二本で、それで足だけで歩いて、ああ何かこの言い方だとギークも人間になっちゃうな。ええと、後はね、、、

 頑張って説明する。説明というのは、本当に面倒くさい。


「それハ、魔界のデーモン共のことカ? 使徒殿の使命とはもしヤ、魔王の討伐カ!?」


 えー?

 いや、違うんじゃないかなぁ、、、


 とりあえず、もう何日かアギーラちゃんたちの村にお世話になる事になった。

 決して、香ばしいモフモフの誘惑に屈した、とか言う事ではない。聞き込みの結果、王都に戻るのが一筋縄ではいかなそうなことが分かったからである。


「この黒き海を渡った向こうかラ、御遣様は獲物を狩って戻って来られル。吾らではこの海は渡れなイ。この向こうがどうなっているのかハ、実際に見た事はないのダ。しかシ、この先にあるのは魔界であるト、吾等は代々に言い伝えていル。もしこの向こうから生きて海を渡ってくる者あれバ、それは御遣様に仇為す魔界のデーモンであル。吾等が総力を上げて討ち祓うべき恐るべき敵ダ、とナ」


 僕らは山を越え谷を越え、それなりの距離をアギーラちゃんに案内されて、荒波打ち寄せる海岸に来た。ガウェン侯爵領の、港町モーソンの海岸にあったような、砂浜はない。大小様々な岩塊が転がり、砂利と朽ちた貝殻が波浪に洗われている、怪しい雲行きと併せて、どうにも不吉な雰囲気があった。

 方角的には、アギーラちゃんの指し示す先こそが人間世界だ。なんと、この場所から王都まで、陸続きではなかったのだ。マジかよあの呆けドラゴンめ。どうせいっちゅうんだ。

 対岸は翳んで見えず、隠形で幽体化して宙に浮かんで空を渡るというのも無理がある。

 すごすごとアギーラちゃんの村に出戻って、さてどうしてくれようかと、僕は悩んだ。


「そノ、言い出しにくい事なのだガ、、、」


 ある日、アギーラちゃんがギークのテントに戻ってきて、悔しそうな表情で言った。


「食料の備蓄がもう底を尽きそうだと言う事でナ、吾も狩りに出なくてはならなくなっタ。数日留守にすることになル。これでも吾ハ戦士なのデ、この状況で村にはいられなイ。済まないガ、使徒殿の世話役には別の者を手配するのデ、、、」


 ぎゃあああああ!

 やっぱり!? 危惧していた事が!!

 いやまって、待ってアギーラちゃん、責任取らせます。


 ゴラァ! ギーク! 俺も行くと言わんかい!!

 自分が喰い尽くした分は、責任持って自分で補填しろーー!!!




/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_


[INFO] ランクアップにより種族特性<<森林の神霊>>の権能が拡張されます。

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  夜叉ヤクシャ B→B+ランク Lv42 空腹(忍耐)

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv3→Lv5

  唆すもの Lv--

  地図 Lv4

  引戻し Lv4

  制圧の邪眼 Lv3→Lv4

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(継承元:小鬼)

  忍耐の限界[耐久/狂化](継承元:鬼)

  手弱女の化粧[模倣](継承元:妖鬼)

  森林の神霊[隠形/加護]

 【従者】

  ショゴ君[ショゴス] 親愛度E→D

  黒六号[生きている円盾] 親愛度E

  赤四号[生きている大鉈] 親愛度E


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