1-13. ランクアップが痛い、なの
え? ちょっと待って痛い。マジ痛い。
そして意味不明で唐突すぎる。
いやマジで。
イタイイタイ、痛いよバカ、あほ、死ね!
(ギャーッ、人でなしーッ)
あおおぉぉおぉぉぉぉッ あおッ あおうおぉぉぉぉッ がぎゃー!
心のなかで大絶叫な断末魔。
あッ、だめッ、やめて、マジ死ぬ! マジ死ぬって!
僕は脳裏で煩悶する。
ギークはギークで、喰い散らかした鹿さんの残骸の上を、なんか吠えくさりながら転げまわっている。
僕はギークとおおよその感覚を共有しているので、僕が痛い苦しいとか感じているこれは、元はギークが感じたそれである。痛いよなー、痛いだろうー?
残骸といっても、血溜まりと抜け落ちた体毛くらいしかそこにはない。
毎度骨まで残さず齧り喰っているので。
経緯としては。
牡鹿とバトっておいしく召し上がり、一旦洞穴に戻って就眠。
まあ、その場では戦闘に大過ないと判断した程度ではあったといえ、この調子で押し込まれたら、ちょっと死ねるかもってケガしてたわけだしね。
起きたらもう完治していたけど。
人間よりも断然回復力あるよね、コレ。
すごいねー。でもそもそも、モンスターが動物相手に大ケガすんなよ、だけどね。
そんなわけで、その日はぐっすりと眠って。今はその次の夜である。
《地図》のマーキング頼りでその他大勢の元へと移動しました。
この森、いや林かな? ごめん、森と林の違いってなんだっけ?
前夜、僕が意識を閉ざしている間に、洞穴周りの未踏域は大分ギークが埋めていたので、残りの鹿さん方の居所は、比較的すぐに見つけることができたわけです。
見つけたのは数にして五頭。
先日突然に現れた男気溢れる好敵手、牡鹿くんがいた群であろう。
一対五で多勢に無勢だけれども、そこはもうこの僕にお任せ。
僕の孔明真っ青な的確かつ優雅で洗練された戦術指南に基づき、まあちょっと尻を掘られそうになったり、蹄で踏まれそうになったかもしれないけど、細かいことは置いて、やりました鹿群全滅です。
《地図》にマーキングして、追っかけて倒して、遺体は勇敢だった牡鹿の元へ。
《地図》にマーキングして、追っかけて倒して、遺体は勇敢だった牡鹿の元へ。
《地図》にマーキングして、追っかけて倒して、遺体は勇敢だった牡鹿の元へ。
《地図》にマーキングして、追っかけて倒して、遺体は勇敢だった牡鹿の元へ。
追っかけて倒して、遺体は勇敢だった牡鹿の元へ。
あ、最後の一頭は、もともとマーキングしてた雌鹿ね。
信じがたいことに、全部食べた。
食べたよ、全部食べ切ったよこの異次元胃袋生物。
いや、明らかにギークの体自体、鹿の一頭より小柄なんだけど? おかしいでしょ。
胃袋が謎空間に直結しているとしか思えない。
アイテムボックス的に活用はできないだろうか。
そういうことができるという話は聞いたことがないが。
できたら便利だよね。アイテムボックス。
基本だよね、こういう世界でのチートな生活の。
食べて食べてで体ポカポカ。
外気温低いので、風が気持ちいいぜ。
そんな感じに暢気してたら、もうね、突然ですよ。
ビギーンッときて、激痛が、全身を走り抜けたのです。
それで、ギュリッギュリッ、とか、ミキャメキャモキャグチュ、とか。
とにかくなんだか、生き物の体からしたらまずいだろコレって感じの擬音が全身の神経を駆け巡りましてですね?
それで冒頭なんですが、いやマジでなによこれ。
目の奥で火花が散る。
なんだがちょっと前の地獄な日々がフラッシュバックしそう。
やばい、やばい、やばい。
いやもしかして許容量限界突破で胃袋破裂真っ最中だったりしません?
え、なにゴブリンの赤ん坊らが、妊婦さんのお腹とかから穴通さず出てくる感じで、ボン、とかなっちゃったりするのこれから?!
ギャーッ いやーッ
乙女の死に様として最悪のパターンのひとつでしょソレ。
しかも理由食いすぎとかおかしいでしょ。
いや確かに死体的には、醜いオスの小鬼だろうから何も乙女ではないわけで、そうか安心だね。
アーーーッ、痛いイタイイタイッ
じたばたじたばた。
だがそれは、始まりと同様に、突然に収まった。
まだわずかに、四肢関節の節々に鈍い痛みが残っている気もするが、先ほどの気も狂わんばかりのそれと比べれば、気持ちいいくらいのものである。
いや、痛みが気持ちいいとかそういうことが言いたいわけではないのであしからずだ。
いや、ヤメテッ、僕をそんな目で見ないでッ
もうねー、女はみんなマゾだとか、フザケタこと抜かすドレッドノート級の阿呆とかいるじゃん?
あーゆーやつとかさー。お前のたま蹴り潰して、棒磨り潰してやるから、キんモチイィィィッ、とか叫んでみろやコラとか、言いたくなるよね。
何の話だ。
「ギィ、、、なんだ、今ノハ?」
じたばたしていたギークが、むくりと起き上がって、きょろきょろと周囲を見渡す。
攻撃でも受けたのかと思ったのだろう。
たぶんそれは違う。《地図》には何ら敵性と思しき反応がないし。
遠方から謎な攻撃でも食らった?
可能性はあるけど、でもどこも負傷はしてない。
ギークの体、血塗れだけど。
でもこれは貪り喰らった鹿さんの血だしね。というか。
(脚、伸びた? 腕も。体ちょっと、育っている気がするの)
ちょっと大きな子供くらいの体型から、ちょっとが取れて大きな子供くらいの体格へ。
間違いないね、うん、育ってるね。
「ソウカ? 、、、どうだろうナ。分からん」
いや分かれよ。明らかに育ってるってば。
僕を信じよ。そして神と崇めよ。
そうかー、きっとこれが、ランクアップというやつですねー。
どんな生き物だよモンスター。
えー、もしかしてさっきみたいな痛み、今後ランクアップの度にご進呈されてしまうのですかねー。
うわー、勘弁願いたいですわー。
「敵はいないのダナ?」
ギークが問い掛け、
(いないと思うの)
(うん、少なくともこの近辺には、いないの)
僕が応える。
「グゥ。マダ少シ、体に妙なイタミがアルな」
さいですか。そうですねありますね。筋肉痛みたいな感じ。成長痛?
骨が急に伸長したからですかね。
「まだ満腹デハナイガ、、、シカタナイ。今日ハ、モウ寝ることにスルか」
もうそれさ、満腹になることとか諦めたほうが良いよね。
世界中の生きもの全部食べてもダメなんじゃない?
(じゃあ、洞穴に戻るの?)
僕が問い掛け、
「ソウダな」
ギークが答えた。
おお、なんか会話が成立しているぞ?!
もしやこれもランクアップの恩恵なのか!
よーしよし、なかなかいいぞー。
[INFO] 地図に、マーキングを追加しました。
[INFO] 地図に、マーキングを追加しました。
[INFO] 牡鹿を、殺害しました。
[INFO] 牡鹿を、摂食しました。
[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。
[INFO] ギークは、レベルが上がった!
[INFO] 地図の、マーキングを解除しました。
[INFO] 雌鹿を、殺害しました。
[INFO] 雌鹿を、摂食しました。
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[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。
[INFO] ギークは、ランクが上がった!
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[INFO] 現在の状態を表示します。
ギーク
小鬼 Dランク→D+ランク Lv8→Lv2 空腹
【ギフト】
不死の蛇 Lv2
唆すもの Lv--
地図 Lv1
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【種族特性】
永劫の飢餓(継承元:餓鬼)
暗視(小鬼)