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天国のお土産  作者: トニー
第六章:遠足に行こう
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6-17. ギーク捜索隊

 苦々しい表情で、狩人組合の建屋を後にする。


「ダメだな、あれは。組合は、ほとんど何も把握しちゃいない」


 ナタリアが苛立ちを吐き捨てた。


 ギークはどうも、なにやらトラブルに巻き込まれたらしい。

 しかしその詳細は分からない。詳細どころか、生死さえもだ。


 カッ、カカッ


(捜索)


 携行できるサイズの小さな石板に、フレデリカがチョークで文字を書き付けた。

 それに頷きつつ、ナタリアが思案する。


「組合が宛にならない以上、足で探すしかないわけだが……」


 どうしたものか。


 王命を受けて、騎士団が動いている。

 だから狩人は締め出され、組合には情報が集まらない。

 そういう状況だ。


 こうなると組合は無能だ。

 しかし立場としては一狩人に過ぎない自分とて、何ができるか。

 ひとまず改めて、フレデリカに尋ねてみる。


「転移は無理なんだな? 連絡も取れない。居所も分からない」


(転移不可。通信圏外。居場所不明)


 カカカッと、かなりの速度で文字を書くフレデリカ。

 とても義手とは思えない速度と精度だ。

 この義手は、さて一体どういう仕掛けなのか。

 そんな疑問がふと、ナタリアの脳裏をよぎった。


「ひとまずは、竜に現れたという、現場に行ってみるしかないか」


 他愛のない疑問はおいて、ナタリアが言う。

 常連の情報屋にも当たってみたが、芳しい成果はなかった。

 後できることと言えば、それくらいだろう。


(否定。情報収集。生存者)


 それに対して、フレデリカが板書で応じた。

 石板に書き付けられた単語を見て、ナタリアが頷く。


「ああ、まあそうだな。そっちが先か。騎士団が押さえていないはずはないから、まともに話が聞けるかは疑わしいが、どうせ学園は向かう道中にあるわけだしな」


 そうして学園の門を訪ねたふたり、もとい一人と一体だった。

 ナタリアの予想通り、門前に居座っていた騎士に、取り付く島もなく追い払われる。


「事件の調査は、我ら騎士団の精鋭が行っている! 狩人風情の出る幕ではないわ! とっとと失せろ!」


 野良犬でも追い払うかの扱いだ。


(強行突破)


 踵を返してその場を離れたナタリアに、フレデリカが石板で要請する。


「いや、さすがにそれはな」


 ナタリアが苦笑をした。


 騎士団を差し置いて、狩人が成果を上げる。

 そんなことは、あってはならない。

 騎士団としては当然そうだ。


 貴族や教会からの依頼で動いている体裁を仮に取り繕えたとしても、騎士団は狩人の関与を認めようとはしないだろう。

 唯一、国王が何か言ったのであれば、さすがに別かも知れないが。


 穏当に協力が得られないのなら、強引に説得するという手段は確かに候補になる。

 しかし騎士団相手にとれる手ではない。


「さて、学生の方から外に出てきてくれれば、話も早いが」


 そんなうまい話もないだろう。

 外出禁止令が出されていても不思議ではない。


(強行突破)


 再度フレデリカが、石板に書き記す。

 ナタリアが首を横に振る。


 どうやらフレデリカにも焦りがあるようだ。

 ナタリアにはやや意外に思った。

 ギークとフレデリカの関係は、どうもよく分からない。

 しかし少なくとも今のフレデリカは、ギークのことを心配していらしい。


「なにか拾えれば幸い、と言うところだな」


 背負う荷袋の上であくびをしていた黒猫を、ナタリアが持ち上げる。


 この黒猫は、ギフトによるナタリアの耳目だ。

 普段は王都で、教会関連の施設を探らせている。

 こんなこともあるかと、呼び戻して連れてきたのだった。


 周囲を見回し、人目がない場所で、学園の塀の向こうへと黒猫を送り出す。

 都合良く、知りたい情報を会話している誰かに行き会えれば良いが。


(端末?)


 フレデリカが疑問形で単語を板書する。


「うん? 今の黒猫(シェード)オレの使い魔のようなものだ。学園ここはあいつに任せて、オレたちは現場に向かうとしようか」


 ナタリアが応えて、では行こうかとのジェスチャーをする。

 フレデリカがしゃがみ込んで、義手の片方を持ち上げ、固まる。


「どうした、フレデリカ?」


 ナタリアが尋ねた。

 それには応えないフレデリカが伸ばした義手の掌から、黒い何かが滲んで滴る。

 滴ったそれは塊となり、形を変えて、手足を生やした。


「……なんだと?」


 ナタリアが驚きの声を上げる。

 フレデリカから溢れたそれは、黒猫の形となり、小さくニャアと鳴いた。

 身震いの後、飛ぶように跳ねて塀を登り、その向こうへと消えていく。


 さらにもう一匹、二匹と、フレデリカから黒猫が生み出される。

 そして計三匹が、学園の敷地へと飛び込んでいった。


「なんだそれは。ギフト、ではないな?」


 厳しい顔付きになって、ナタリアがフレデリカを問い詰める。


(良発想。模倣)


「どういう仕組みだ?」


(説明至難)


 ナタリアの問いに、フレデリカがそう書き付ける。


 今、フレデリカが産み落とした黒猫の正体は、フレデリカが義手義足の内側に充填していた従魔、ショゴスの一部である。

 その仕組みを、フレデリカは説明できる。しかしそれをするには、フレデリカが今コミュニケーションツールとして使用しているインタフェース、片手で持てるサイズの石板は、余りにも小さすぎた。


「道中で、少しずつでも説明をもらおうか」


 何かを言いかけて、ナタリアはしばらく考えた後、嘆息。

 荷物を背負い直しつつ、そう要請した。

 フレデリカがコクリと頷く。そして一路、街道を北へ。


 ここまでフレデリカは、自分の足でしっかりと普通に歩いていたが、その支援を担っていたショゴスの大半を失ったことで、性能が劣化。しゃがんでいた姿勢から立ち上がろうとして、軽くよろけた。

 だが、現地への移動手段は、ナタリアが手配した馬である。故に、特に問題はなく、目的地に向けて移動を開始することができた。


 その日の夜、空からナタリアの元に降ってきたテンテンが、一足先に上空から偵察してきた現地の様子を報告する。


「見つからなかったわ。呼びかけにも応じなかったし。たぶん、生きているなら、別の場所に居るんじゃないかしら」


 もたらされたのは、悪い知らせだった。

 本人の姿が見えないとなれば、後ははぐれたギークの足取りが掴めるかどうかになる。

 それとて、何処まで期待できるものか。テンテンを労いつつ、ナタリアはこの先を思い悩んだ。

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