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天国のお土産  作者: トニー
第六章:遠足に行こう
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6-16. 良からぬ報せ

 ここ暫く、フィーの様子が何やらおかしい。

 その事に、ウェナンは当然に気付いていた。

 普段、ほとんどいつも一緒に行動しているのだ。そりゃあ気が付く。

 しかし、にも関わらず、その原因について、ウェナンには心当たりが無いのだった。


「なんで嘘なんてついたんだよ。ギフトを貰ったとか、意味不明だぜ」

「煩いなあ! 悪かったよ、ゴメンナサイ!!」


 ウェナンがフィーを責めて、フィーが叩き付けるように謝った。


 ほとんど無駄足に終わった狩り。その後だ。

 頑張りが報われなかったことは、仕方ないと割り切るしかない事だ。そんなことより何よりウェナンが不満なのは、フィーがレンブレイに、バカみたいな言い訳、意図の分からない虚言を弄した事だった。

 ご褒美でギフトを貰った? そんな事実は有りはしない。


「おい、一体なに隠してんだよ! 俺にも話せないってのか?!」


 非難の目つきで、ウェナンがフィーを睨む。

 フィーは一旦そっぽを向いて、しかしウェナンが諦めないので向き直り、不機嫌そうに応えた。


「嘘なんてついてないわよ! なによ、ウェナンのくせに!」

「なんだよそれ、それが嘘だろ! お前の嘘はバレバレなんだよ!」


 怒るウェナンの言葉に、フィーが改めてそっぽを向いた。

 結局今日に至るまで、ふたりの間のわだかまりは解消されずにいた。


 なによ、ウェナンのくせに。

 フィーはそう思う。ウェナンのくせに、なによ。


 ウェナンとルーアと、フィー。

 孤児院では、特に仲の良かった三人だが、その中でウェナンは一番、身体が小さく、体重も軽かった。

 外から見れば、ほとんど誤差のようなものではあったが、子供達当人としては重要な違いだ。

 だからウェナンは、三人の中では末弟ポジションであり、フィーには自分がお姉さんだという意識があった。


 ウェナンの相談になら、乗ってあげる。

 でも自分の悩みをウェナンに打ち明けるのには、抵抗がある。

 特に、今回のこれは、どうしたら良いのか。


 薄ぼんやりと光る自分の身体を見る。

 光量はごく乏しい。維持される時間も短い。


 照明代わりには使えなそうだ。

 しかしこれ、<<練気纏い>>が、非常に有用な、そして多くの狩人が垂涎のギフトであることを、フィーはすでに知っていた。


「ほう? 珍しいこともあるもんだな」


 フィーの咄嗟の嘘に、レンブレイはそう言った。

 だから、有り得ない事ではないのだなと、ギフトを報酬で貰うと言う事も有り得るのだなと、一安心したフィーだった。


「そんな事があるわけ無いだろ」


 そのように即断されかねない、迂闊な嘘をついてしまった自覚はあった。口に出してしまって即座に後悔する類の戯言だ。阿呆みたいだ。

 フィーは嘘が下手だ。それは、昔からそうだった。


「知らないと言うことは、自分だけでは分からないものよ。他者が居て、他人との関わりがあって、初めて人は、自分の至らなさに気が付けるの」


 幼い頃に、フィーには、子供たちのグループの中で爪弾きにあって、もうあんな奴等大嫌いだとか、ここを出で行くとか、そんな大騒ぎをしていた時期があった。

 その時に、院長先生が皆を集めて、そんな事を言った。


「先代のジジイがね、いやいや、ジジイじゃなくて院長だわ。院長がね、まあ、カニーファに言った事の受け売りなんだけどさ。皆、意味は分かるかな?」


 全員の顔を、ひとりひとり見渡して、院長先生が尋ねる。

 院長先生は目が良くない。それでもまだその頃は、現在程ではなくて、ひとりひとりをしっかりと見据えて、話をしてくれていた。


「誰かの悪い所に気がついたら、どんな形でも、ちゃんと指摘してあげなきゃダメよ。この場にいるのはみんな、苦労を分かち合う仲間なんだからね。無言で切り捨てたり、疎外するみたいな事は、絶対にしてはダメ」


 そして、どうして仲間外れにするみたいな、酷いことをしたの? と皆に尋ねてくれた。そういう場を設けてくれて、話し合いをしたのだ。


「だってフィーは、バレる嘘ばっかりつくんだもの」


 皆からの答えが、それだった。

 喚いたり泣き出したり蹴っ飛ばしたり、したようなしなかったような、されたようなされなかったような、細かい記憶は曖昧だけれど、フィーはそれ以来、なるべく嘘は付かないように、そう心掛けてきた。

 他の人から見てどうだったかは、それは分からないけれど、そう意識して努めてきたのである。


「オイオイ、<<練気纏い>>を、どうして使える!?」


 なのに、レンブレイに強い口調で問われて、なんとか言い逃れなければと言う発想になってしまった。

 失敗だった。


 分からない。

 分からないというのが真実だろう。

 そう答えるべきだった。


 変な言い逃れの嘘を付くから、その嘘を誤魔化すために、無理筋の嘘を重ねることになる。分かっていたのに、やってしまった。

 もしかしたらと思い浮かんだ心当たりが、絶対に明かせない秘密事だったから、だから引きずられたのだ。


 ボクは、何をやっているのだろう。

 思い返せば、悔いは溜息となって溢れ、気分は沈む。


 ウェナンと二人がかりでも、攻めあぐねていたタフな大熊を、レンブレイが一撃に仕留めたのを見た。

 その時、レンブレイはギフトの発動で白く発光していて、つまり<<練気纏い>>による一時的な強化でそれを為し得たのだということが見て取れたので、ああ自分達にも、あれ出来たらいいなと思ったのだ。


 そうしたら、出来てしまった。

 レンブレイのそれに比較して、光量は全く控え目だったけれど、一目見てレンブレイがそれを<<練気纏い>>だと断じたから、間違いないのだろう。

 希望は叶った。でも、その場で試すことじゃ無かった。


 フィーは、失敗続きの自分を悔いていた。しかしそれを、ウェナンに打ち明けることはない。姉としてのプライドもあるが、そもそもの秘密事が、ウェナンにだって打ち明けられないものだったからだ。


「組合の、支部長からの呼び出しですか? あの、何かミスとかありました?」


 ウェナンが戸惑いつつ、レンブレイに尋ねる。

 呼び出しなんてものを受けたのは、初めてだ。知らぬ間に、何かしでかしでもしただろうか。


「理由は聞いちゃいないが、心当たりでもあるのか? ないなら、違うんじゃないかね」


 フィーが一瞬、怯えたような表情をしたのに、レンブレイは気が付いた。

 内心で首を傾げる。


 こいつ等が直近で請けた仕事は、結果的に俺が獲物を掠めることになっちまった、例の熊狩りだろ? 支部長に小言を言われるとすれば、それは俺であって、こいつ等はどっちかって言うと被害者だと思うがな。

 フィーには何か、心当たりでもあるのか?


「フィーは……」

「レンブレイさん! <<練気纏い>>というギフトの事なんですが、折角だから使いこなせるようになりたいです。特訓のやり方とか、教えてくれませんか?」


 レンブレイがフィーに声を掛けようとして、それはフィーからのお願いに上書きされた。


「あ? ああ、まあ、そりゃ構わんが」


 フィーの唐突さにやや気圧されて、レンブレイが応える。


「ありがとうございます! 支部長のお話が終わったらでもいいですか? お忙しくなければ」


 まくし立てるように言葉を続けるフィーに、レンブレイが言った。


「構わねぇけどよ、つっても<<練気纏い>>は前に話した通り、とにかく維持し続ける事で習熟するギフトの典型だせ。改めて話せることは、あんまりねぇな。それこそ、そのタイプのギフトについちゃあ、<<練気纏い>>を例に上げて説明したと思うがね。聞いてなかったか?」


 レンブレイの問い掛けに、気不味そうにフィーの目線が宙を泳ぐ。


「ま、自分が使えるようになったとなれば、改めて話を聞きたいってのは、別にいいんだけどよ」


 そう言って、夕食ついでで付き合うことを承諾するレンブレイ。

 ウェナンが不機嫌そうにしていたので、冗談を交えて声を掛ける。


「一緒にお食事でもどうですかって、フィーをナンパしたわけじゃねぇからな? お前も来るだろ?」

「え? あ、はい。ありがとうございます」


 不機嫌の理由はそれでは無かったらしい。

 何だろうなと思いつつ、まあそのうち分かんだろと、些細な違和感をレンブレイは気に留めないことにした。

 相談してくるなら乗ってやる。しかしそうでないなら自主性に任せるというのが、レンブレイのスタンスなのだ。


 俺の予想じゃ、こいつ等自身のことじゃ無いんだがな。

 レンブレイは考える。仮にそうであれば、事前にアランからもう少し言及がありそうなものだ。

 カニーファが、何かやらかしたかしたんじゃないか?

 それがレンブレイの予想だった。


 王都で、貴族の糞ガキが、貧民の小僧を甚振っている場面を目にしたか何かして、糞ガキにちょっと教訓をくれてやったところ、牢にブチ込まれたとか、カニーファの経歴的には実にありそうな話だ。

 港町モーソンには、貴族のガキなんてそうは居ないが、王都にゃそれこそ、ゴロゴロといるだろうからな。


 レンブレイがウェナンとフィーを連れて、三人で組合に戻った時には、すでにアランに噛み付いていた五人の姿はなく、すんなりと奥の部屋に通された。

 そこで告げられた事件の知らせは、レンブレイの予想が半ば正解、フィーの懸念は杞憂だったが、しかしそれはさておき、レンブレイとしても耳を疑う内容であり、ウェナンとフィーは大いに驚いた。


「ドラゴンに襲撃を受けただと? 王都がか?」


 レンブレイがアランに尋ねる。


「いや、そうではないようだ。この紙片分の情報しかこちらには来てないから、どうにも詳細はわからんのだがな」


 一枚の羊皮紙を持ち上げて、アランが応える。


「カニーファは、護衛の仕事で王都から、北にあるヘザファレート公爵領の国境付近にまで、足を伸びしていたようだな。そこで、護衛対象諸共にモンスター、恐らくはアイスレクイエムと推定される、に襲われたということのようだ」


 そして苦々しい表情になって、付け加えた。


「その護衛対象と言うのが、下級とはいえ貴族の次男三男達で、まあ何だ、ろくでもない事を本部が言って来た、と言う所までだな。これに書いてある事は」


「貴族共が、お前らが推薦した護衛が貧弱だから、アタクシ達の可愛い愛息子達が死んだんだ! 組合は責任を取れ! とでも言い出して、本部はへいこらと示談金を差し出しつつ、こっちにその損害を補填しろと言って来たってか?」


「レンブレイ」


 不機嫌そうに言い放ったレンブレイを、アランが窘める。


「何だ? なんか違うのか?」

「拡大解釈すればそうとも取れる内容が書いてある事は否定せんがな。可愛い後進たちの前では、もう少しマシに振る舞いたまえ」


 小さく舌打ちして、レンブレイは一歩下がった。


「……、カニーファはどうなったよ」


 ウェナンとフィーのどちらもが、言葉を無くしている体であるのを見て、代弁するように、レンブレイがアランに尋ねる。


「さっき言った通りだ。つまり、明記されてはいない」

「生死不明で、行方知れずだと」

「そんなッ!」


 アランの言葉を、レンブレイが意訳して、ウェナンが悲鳴を上げた。

 フィーは顔色を失くし、ウェナンに取り縋る。ウェナンは驚きつつも、それを支えた。

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