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天国のお土産  作者: トニー
第一章:クァボ男爵領の惨劇
13/160

1-12. 牡鹿、なの

 洞穴に、差し込んで来る明かりが失せて、暫く。

 その間に、何が起きることもなかったが、僕の心は少し荒みました。


 欠食児童(ギーク)が目を覚ます。

 やはり夜行性なのだろう。小鬼全般がそうなのか、コイツだけがなのかは知らないが。

 夜目が効くことを考えれば、前者だろうとは思うけど。


 「ヌ、親熊トやら(あさごはん)、はナシか」


 残念そうですね。

 いやちょっと待ってよルビがおかしい。


 これはもうあれですね。

 目が覚めたら目の前にでっかい肉塊が、さあお食べと置いてあってほしかったと。

 うん、わかりますよ、そんな都合の良い事起きるわけ無いでしょ。現実見ろ。


 「デ、獲物ハ」


 くうッ、やはりナメられている。

 僕はお前の、召使でも家来でもないのだぞー。


 ぶうぶうー。今に見ておれ。


 (外に、鹿の群れが、いるっぽいの)


 ここの巣穴の上を、何頭かが通り過ぎたのを察知したのです。

 その際に、一頭をマーキングしておいたのだけれど、今は圏外。<未知>の中。


 「鹿? ソレは、食い物カ?」


 このやり取り毎回やるの?

 モノを知らな過ぎなんではないですかね、コイツ。

 それともやはり誘導尋問でしょうか。


 (四本足の動物。オスには角があるから気をつけるの)


 「案内シロ」


 ほら来た。

 よーし、思い知らせてやる。


 (悪いけど僕は寝るの)


 (君が寝ている間、ずっと見張ってて疲れたの)


 (じゃあ、お休みなさいなの)


 結論はあれです、こいつの一方的な要求なんて、もう聞いてやらない。

 躾けの基本は、ワガママを断固許さないこと。


 うちは叱らずに伸ばす方針なのとか、それ単に甘やかしてるだけってゆうか、放置してるだけじゃねえか巫山戯ろこのババア。

 いや全く、ああはなりたくないものです。他山の石と致しましょう。


 泣こうがー、喚こうがー。

 ひゃッはー、泣いたり笑ったりできなくしてやるゼー。


 もうガン無視。

 ギークがなんか騒いでるけど意味解釈完全放棄。


 労働者の権利を守れー!

 ストだー、ストだー、ストライキー!

 俺たちはー、人間だー!


 では、お休みなさいです。アーアー聞こえない。


 雑音退散、騒音黙殺。



 暗転。



 グバァンッ!

 とかなんだか意味不明に強烈な衝撃をくらって、僕の意識は強制的に呼び戻されました。


 え、なにッ、なんなの?!


 背後、何処かに打ち付けられたものか、背骨が軋む。

 ダメージで呼吸ができない。苦しい、苦しい。ぎにゃーッ


 これは、一体何事か?!

 先の衝撃に続き、もう一発。今度は脇腹に灼熱感。


 やばい、これ下手すると死ぬんじゃないか。

 慌てて景色を意識に映せば、眼前には猛る牡鹿。


 そのご立派はアレは、ベットリと赤く、血に濡れていた。


 ギークくうゥゥゥゥゥん?!

 ぬぁにを、してくれちゃっているのかしらァァァァん?!


 「ガハッ、グ、ゴフォッ、ゴフッ」


 ギークが咳き込んで、そして赤いモノを吐き出す。

 全身に痺れるような感覚。

 非常にまずい。

 

 現状。

 眼前には猛る牡鹿。

 背面には樹の幹。


 牡鹿に後ろ脚で蹴り飛ばされました。

 吹っ飛ばされて立木に全身打撲りました。

 そんでもって締めに角突き立てられた。


 そういうことですね?

 あんた何そんな一方的にやられてんのさ。

 モンスターの矜持どうした。相手ふつーの鹿ですよ。


 (こ、こらーッ、しっかりするの!)


 しょうがない。

 こんなところで、牡鹿に掘られて計画破綻とか、アホすぎる。


 (()ァァッッツ! なの!)


 情けなく朦朧としていたギークだったが、僕のありがたい声援を受けて、少し正気を取り戻したようだった。

 咳き込むのを抑えて、厳しい眼差しで牡鹿を見つめる。

 ああ全く、手間がかかりますね!


 (もうッ、落ち着いて、相手、よくみるの!)


 牡鹿の動きを、目で牽制する。よしいい感じ。

 目に力を込めて、ジリジリと。高まる緊張、唸る鼓動。


 (いち、にの、さんで。いい?)


 (いち、にの、さんで、後ろの木の、裏側に回り込むの)


 (落ち着いて。でも素早くねッ)


 プフーッ、プフーッ、と鼻息荒く、牡鹿は興奮状態だ!

 いやだッ やめて僕はそーゆー趣味はない!


 (回り込んだら、すぐ木に登るの!)


 僕の適切な助言に従って、ギークが動く。

 動きに釣られたか、シカが木の幹にヘッドアタック。バランスを崩したのが見えました。


 ギークの矮躯は、するりスタタンと幹を駆け登る。

 あっという間に、牡鹿の頭上を取った。


 やれやれ、一息。

 何だっていうのでしょうね、マジで。


 箱入り娘な僕に何させてくれちゃってるかな。


 まあ、頭上取ったらこっちのものでしょ。

 そもそもモンスターと単なる野獣じゃ、土台が違う。


 ここからのトドメはギークの好きに任せるとしてだ。

 僕は《地図》を確認しておこうかな。


 寝ている間に、数刻ほどが経った模様です。

 ギークはこの雑木林の中を、結構うろうろと歩き回ったようで、近辺の未踏地域がかなり削れておりました。


 すぐ近くにいる鹿は、この一頭だけ。

 僕が昼に、洞穴の奥に居ながらにしてマーキングしていた鹿は、少し離れたところにいる。


 うーむ。

 『オレが殿を務めるッ、女子供は早くニゲロッ』みたいな、ナイスな牡鹿なんですかねコイツ。


 そう思ってみれば、フーフーと興奮しすぎで充血した瞳にも、悲壮感とか決意とか、そういったものが漲っているような気がしてきたり、しなかったり。


 『お前だけを一人死なせはしないッ』

 『皆を逃がしたら、オレはすぐに戻って来る!』

 『それまでは、どうか済まない! どうか持ちこたえていてくれッ』

 な牡鹿はいないんですかね。


 待っていれば、もうすぐ登場したりしませんかね。

 ちょっと興奮しますね。


 ああいや、そうでなく。


 周囲の敵性確認クリア。

 ついでは状態確認(ステータスチェック)。四肢に骨折なし。脊椎問題なし。

 外傷性の出血はすでに止まった。まあオールグリーンかな。

 さすがの頑丈さというべきよね。


 ギークが仕掛けた。

 木の枝を軽く撓らせつつ跳躍、牡鹿の胴体に斜め上から飛び掛かります。


 暴れ狂う牡鹿の筋肉を、モンスターとしての禍々しく燻り上がった筋肉でもって押さえつける。

 蹂躙する。


 首筋に喰らいつき、牡鹿の角を両手でつかんで捩じり伏せる。

 数分が過ぎる。


 哀しそうな目で牡鹿は一度空を仰ぎ、やがてその目からは光が失われていきました。

[WARN] ギークは、外敵からの攻撃を受けています!

[INFO] 牡鹿を、殺害しました。

[INFO] 牡鹿を、摂食しました。

[INFO] 永劫の飢餓により、摂食物は魔素に変換されました。空腹状態は維持されます。

[INFO] ギークは、レベルが上がった!

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  小鬼 Dランク Lv7→Lv8 空腹

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv2

  唆すもの Lv--

  地図 Lv1

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(小鬼)

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