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天国のお土産  作者: トニー
第六章:遠足に行こう
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6-06. 焼け焦げた屍の山

 なんでか知らないが、ミイが役立たん。

 探索能力を宛にしたい場面なんだがな。


 問い掛けてもまともな応えが返ってこない。

 そしてブツブツと訳のわからんことを呟いてやがる。

 ちょっと死体が転がっているから何だってんだ。


(違う、違うの。こんなのは、僕は……)


 なんだ? お前が原因で犯人なのか?

 肝心なときになんだってんだこのバカは。


 嘘だの嫌だの、阿呆か?

 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが。


 予定では、街なかにある建屋の屋上に転移するはずだった。

 先日、ナフタリアスを立ち去る際に転移した場所だ。

 人目のない屋上に着地するはずが、屋根の抜けた廃墟の中に落ちた。

 瓦礫の山に降り立って、文句を言いつつその廃墟を出た。


 そして見渡せば、辺り一面が焼け焦げた瓦礫の原だ。

 黒焦げの遺体がそこら中に散らばっていた。

 燻っている火と、そこかしこから立ち昇る黒煙。

 かつて活気に溢れていた街、その面影としてあるのは屍の山か。

 肉が骨が焼けて焙られる独特の芳香が立ち込めていた。

 事件が起きてから、それほどの時間は経っていないらしかった。


「しかし、どいつもこいつもファイティングポーズだな。敵は殴れそうな相手だったのか?」


 景色を観察しての感想を言う。

 街一つを焼き払うような相手に素手で殴りかかろうとはね。

 なかなかにこの街の住民たちは勇敢な猛者達であったようだ。

 まったく、惜しい奴らを亡くしたものだ、てやつだな。


「で、ここはナフタリアスの街なのか? フン、えらく様変わりしたもんだが、ハンター共はどうした?」


 俺としては、ミイないしフレデリカに尋ねたつもりだったが、どっちも聞いちゃいなかった。心底思うが、人の話を聞かない連中だな。イラつくぜ。


(ガンマ線の発生源を多数検知。警告、ここは危険であります。緩和措置検索、今の権限で実行可能な有効な対抗手段は退避のみ。緊急避難対応、ひとまず城門前まで転移するであります。ここの城内は立ち入り厳禁であります)


 唐突にフレデリカが言う。

 そしてフッと、足元から地面が消失して落下感に襲われた。

 暗転する。光が闇に、闇が光に。宙から落ちて別の地面に着地する。

 是非もなく、転移させられたらしい。


「おいフレデリカ!? なにをしやがる、勝手なことを!」


 舌打ちして、周囲を見渡す。

 誰かに目撃されてないか? おいおいおい、マジかよ。


 人人人人、目の前には人だかりがあった。

 おー、どうすんだこれ。


 ここは何処だ。城門前のようだが、北門か?

 ナフタリアスには北門と南門があるという話だった。

 しかし、南門には行ったことがない。

 フレデリカの転移は行ったことがある場所にしか飛べないそうだ。

 だから別の街に転移したのでなければそれであっているはずだ。


 で、この場にいるのは、焼け出された街の住民達なんだろうな。

 これだけの人が居れば、誰がしかの目には留まってしまったよな?

 誤魔化しようなんてないぞ? どうする? 全員殺しゃいいのか?


(緊急事態につき、事後承諾になることはご了承いただきたいであります。あの場は危険だったのであります)


 そうかいそうかい。

 じゃあとりあえず目撃したかも知れない連中を殺しとくか?

 あー、何人くらいいるんだこれ。やりきれるか不安になるぜ。

 俺のスタミナも無限じゃないしな。


 人だかりの規模をざっと測る。そして、すぐに気付いた。

 誰も彼も、こっちを見てない。なんだ? 目撃者はいないのか?

 拍子抜けだ。しかしじゃあ連中が見ているものは何だ。


「何やってんだ、あれは。というか……」


 群衆の顔の向きから、注目されている先を追う。 

 彼等の目線は、全てが一点に注がれているようだった。

 その中心には白い人影。それに向かって、土下座したり祈ったり。

 被災民達は忙しそうだ。


 ありそうなシチュエーションは何だろうか。

 領主様、どうかお助けください、私のなにがしがまだ中に、とかか?

 そしてそいつだけが、その白いのだけが、こっちを見ていた。

 ああ、一番面倒そうなのに目撃されていたか。


 仕方ねえ、取り敢えずもとの姿に戻るとするか。

 突如凶悪なモンスターが襲い掛かってきた、の体でどうかね。

 フレデリカが転移を使えるってのは、バレちゃまずいんだよな?

 なら目撃者は殺さなきゃな。確か、そういう話だったはずだ。


(……ポートスキャン確認であります。お笑いでありますね、半可なクラッカー風情が、この私に向かっていい度胸であります)


 と、フレデリカ。今度はなんだ。


(仮想ハニーポットに誘引、プロセスを鹵獲、振る舞い観察。敵性認定、条件クリア、ワンタイムで機能制限ロック解除)


 ものすごい早口だ。ほとんどまともには聞き取れない。

 俺はフレデリカを背負っているわけだが、重量が増した気がした。

 気のせいか?


(逆襲実行。計画プログラム『際限容赦無き無慈悲』発動、反撃プロセスを自己複製で無限並列多次元展開、総当り干渉ブルートフォースアタック開始。……、……、……、クリア。制御コントロールロールの部分パーティクル根源ルート奪取、ターゲットサイドからの審議要請は受諾アクセプトしつつ遅延対応、強制終了アボート命令オーダー実行、……拒否エラー再試行リトライ、強制実行、要請受諾し遅延回答で負荷を掛ける、キャンセル要求無視、要求無視、制圧完了。上書オーバライド、監査プロセス強制停止、監査停止に伴う巻き添えでの遮断カットオフプロセスを誘発)


 ボンッ


 群衆の中心にいた白い人影。唯一こちらに目を向けてきていたそれ。

 避難民たちの注目を一心に集めていたそれが、唐突に赤く弾けた。


「あ? なんだありゃ?」


 多少の距離があるので、詳細はよく分からない。

 しかし派手に弾けて、血潮と骨肉の欠片をバラ撒いたようだ。


「んん? なんかの儀式なのか?」


 爆弾でも呑まされたか。

 あれだな、あの飛び散ったと共に不幸も弾ける、みたいな感じで。

 呟く。人間は儀式ってのが大好きだそうだしな。フラッゲンによれば。


 天災があったり、その予兆があったりすると、それをするらしい。

 同胞を無残に殺して、引き換えに何かを願うのだ。

 あの白いのは、そう言った儀式の生贄だったのかね。

 それならご愁傷様だ。目があった気がしたのは気のせいだろう。

 そう思ったところで、フレデリカが言った。


(おや、これは予想外であります。まさか爆発するとは。だいぶ不安定というか綱渡りな存在だったようでありますね。ちょっと、大人気ない対応をしてしまったかも知れないであります)


 原因はお前かよ。


 呆然としていたらしい群衆がざわめき始めた。

 甲高い悲鳴が聞こえ、蜂の巣をつついたような騒ぎになり始めていた。


「おい」


 半眼でフレデリカを見遣る。


(月を取らんとした猿猴の末路などあのようなものでありますね。けれども死なば仏、冥福をお祈りするであります)


 コイツめ、さっきから何だ。ワケがわからんぞ。


「おいフレデリカ、目撃者を殺したのはまあいい判断だとしてもだ、何がどう危険で、どうして転移が必要だったんだ。分かるように説明しろ」


(分かるようにでありますか。先の説明でご理解いただけないとなると、これは難題でありますね)


 喧嘩売ってんのかコノヤロウ。

 アイアンクローをかましてやろうかと考える。


(城内は毒物で汚染されていたのであります。ここも全くの安全圏とは言えないのでありますが、ひとまずでの避難であります)


 毒ぅ? 


「ハンター共がいることを確認してたよな? あの中に居たんじゃないのか? 毒だと言うなら、なぜ奴等は平気なんだ」


 モンスターにだけ有効な毒とかか?

 そういうのは勘弁願いたいものだが。


(彼らには危機意識が足りていないでありますね。<加護の塵たち>は確かに遺伝子の欠損を補修する機能を有するでありますが、限度というものがあるであります。あのレベルの放射線に長時間曝されては、かなりの確率で不可逆的なダメージを負う事になると予想されるのであります)


 遅効性の毒物ってことか?

 この街の有様が誰かの仕業だとすれば、随分と念のいったことだな。


(じゃあ、じゃあいま避難している人達は?! みんなみんな死んでしまうということなの?!)


 ミイが口を挟んできた。そんな事は俺は知らん。


(個別に診断してみないことには何ともでありますが、いま五体満足なのであれはすぐに死ぬような事には、そうそうとはならないはずであります。子供を産めなくなったり、怪我が治りにくくなったり、寿命が半分程削られるといった副作用は、<塵>も万能では無いですので、あるかも知れないでありますが)


(……!? そんなの……!)


「ふん、それはつまり、件のハンター共もそうだろうってことだな?」


(そうでありますね。基本的には同じであります。鍛えていない一般人よりは多少対抗力があって頑丈かとは思うでありますが、時間の問題であります)


 そうかそうか。


「放っておいても程なくくたばるって事なら、放置って選択肢もあったがね」


 ひとまず、難民たちの前から移動する。


「それが期待できないとなればやはり看過はできんよな。フレデリカ、連中を俺の側に一人ずつ転移させてくるような事はできんのか?」


(それは難しいであります。相手が無抵抗でじっとしているのならともかく、目視できない場所で、動き回っていると、まず回避されるであります)


 フレデリカの転移は、地面に突然出現する黒い穴を介したものだ。

 それに落下すると、違う場所に着地することになる。


 落とし穴のように設置することもできるそうだから、穴のサイズを大きくするとか、数を用意すれば、任意の誰かを無理やり引っ張ってくる事も出来そうなものだ。

 そう思い、なぜ難しいのかを尋ねる。


(転移門の開閉は、燃費の悪い作業であります。そんな事をしたら、一人目か二人目かで燃料切れが(エンプティ)確実であります)


「転移じゃなくてもいいが、連中を個別に誘き寄せる方法は何かあるか? この辺に突っ立ていれば、そのうち寄っては来るんだろうが、各個撃破できる仕込みが望ましくはある」


(そうでありますね……)


 尋ねつつ、ジェスチャーでフレデリカに武器を要求する。

 かつて騎士の家から強奪した金属の長弓が出現したので弓把を握る。


(彼等は相互に短波通信で連絡を取り合って行動しているようであります。周波数はほぼ特定できているでありますから、混信させて誤情報を流すことで行動を誘導することができるかも知れないであります)


 なんのこっちゃだが、方法があるってんなら試させよう。


「それはいい。では適当にひとりかふたり、釣り出して貰おうか」


(了解であります。ただ、努力はするでありますが、直接相手を操れる訳ではないでありますから、成功は約束できないであります)


 別に構わんさ、そんなことはな。

 うっかり五人か? 全員が釣れてしまってもさして問題じゃない。

 やっと戦いに臨めるってわけだな? いちいち前置きが長いんだよ。

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