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天国のお土産  作者: トニー
第五章:王都と怪盗
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5-20. 報告後の自由行動、なの

 帰り際に寄り道して、陰府シェオルの入り口に繋がっているという廃坑の入り口を地図に追加。場所については、この辺にあるだろうと事前におおよそは当たりを付けていたから、それほど苦労することもなく辿り着くことができた。

 まあ、いまでもボチボチの頻度で人が出入りしているそうだし、踏み固められた道が普通に出来ていたので、予め調べていなくても到着できただろうと思う。


 今回は場所の確認だけだ。必要以上には近寄らず、地図に廃坑のオブジェが追加されたのを確認してすぐに、僕らは王都城外のいつものキャンプ地に転移で帰還した。もうすぐ日がストンと落下しそうだったからだ。

 来た足跡だけあって帰る足跡が無いことになるから、足跡だけ見たら廃坑に潜った様に見えるかもねと、愚にもつかないことを考えてみる。まあ、そんなものに注目する暇な人がいればの話だ。


 疲れ切った体にムチ打って、夕飯(もちろん鍋だ。そしてこの日はキノコ鍋)を用意してくれたナタリアには大変申し訳なく思うのだが、ギークには量が全く足りていなかった。

 河童語改めフレデリカ語的な表現でいうなら、魔素還元の閾値にさえ至っていない量だ、ということになるらしい。


(フレデリカー、ナタリアから預かった分以外で、ギークに食べさせられそうなものって、ちょっとでももう残ってないの?)


 やばい、このままではギークが空腹の余り暴れ出してしまうかも知れない。

 ダメで元々で聞いてみる。この謎の骨とかでもいい。齧らせておけ。


(もちろん在るのであります。とりあえず半分を出すのであります)


 あん?


 ズン、と真っ二つになった王獣グリフォンの半分が、唐突に出現した。

 おいこら、どういうこっちゃ。


(ご主人様のマーカが付いていたので、転移する前に回収したであります)


 いやいや、この場合、問題はそこじゃないような気がするのですよ。


「……ギーク、信義に悖ることは、オレとしても感心しないな。要らぬトラブルの元だぞ?」


 黙然と、突如出現したその半身を眺めてから、ナタリアがギークを軽く睨んで、そういった。


「……だな。討伐の報告では、クラナスとバリードの名前も出すことにしよう」


 ギークが他人事として応えた。


「報奨金は、次に逢う機会に、折半分を渡すということでいいか?」


 そして提案する。これは俺の意志じゃない、与り知らぬことだアピール。


 協力して獲物モンスターを狩ったのにもかかわらず、報酬を独り占めするような行為は当然だけど嫌われる。そんな前科があると言うことが知られてしまうと、基本的にはもう誰もチームは組んでくれなくなる。


「仕方ない。まあ、そうだな。ひとまず組合に相談しておけ」


 不正な手段で報酬の独占のような事をやらかすと、場合によっては組合からペナルティをくらうこともあるそうだ。場合によってというのは、ハンター同士のトラブル全般がそうらしいのだけれど、訴えた方と訴えられた方のこれまでの実績や評判なんかを考慮して、どうするかを決める感じなんだという。

 自称被害者による讒言という可能性も否定できないからということらしいが、つまり組合側の心証次第で、何を訴えても聞いてもらえずになりかねないような気もするね。ま、司法の恣意性なんて、組合に限ったことじゃないけどね。


 で、翌日、狩人組合の受付に王獣の嘴と毟った羽、尻尾を討伐証明として提出した。鑑定の結果、王獣のランクは何とAランク下位。そりゃあ強いわ。Bランク三名とCランク一名で成し遂げたと報告すれば、当然のようにどうやってだと驚かれたが、しかしクラナスの名前を出せばなんだか妙に納得された。


「ああ、あの方ですかぁ♡ それなら納得です。いや~、流石ですね! 憧れちゃいますぅ。こほん、失礼、クラナスさんたちは、今日はいらっしゃらないのですか?」


 ……名前売れすぎじゃないですかね、クラナス。大丈夫かな。

 この組合側、っていうか、事務なお嬢さんの反応を伺うに、元聖騎士ってことが、かなりバッチリと露見してしまっているようだけれど。


「クラナスさんと、バリードさんは、王都には戻らず、そのままヘザファレート公爵領へ行かれたということですか?! ……いえ、ううん、それはでも、ちょっと困りましたね。委任状のようなものも、お持ちではないんですよね?」


 彼女は難しそうな顔をして、考え込んだ。


「これほどの大物を倒したということであれば、できれば全員そろった状態で、本部の方に報告をお願いしたいところなのですが……」


 いま、報告しているのはギークである。ギークは面倒臭がったわけだが、ナタリアはギークの監督役名目で同行しているので、陰府シェオルに潜りたいと言うような交渉事は別として、仕事の報告はギークがすることとなっていた。


「遠からず、恐らくは春の内に、また王都に戻って来ると言っていた。それまではあたしたちも王都に居る予定だ。ひとまず討伐達成で受理をしてもらえるかな? 本部には後日、クラナス達と合流したら報告に伺おう」


 窓口嬢の逡巡を見て、ギークが言った。


「そうですか、そうすると報告は受理させていただきますが、、、報奨金のお渡しも、申し訳ないのですが今すぐというわけにはいかないです。お揃いになってからでないと。ご了承ください」


 折半以前に、支払ってくれないってか。

 ちょっとひどいな。


「しかたないな。それで構わない。本部の方には話を通しておいてもらえるか?」


 いや、粘ろうよギーク。あっさり引き下がっちゃダメでしょ。

 さては面倒臭くなったな? 絶対そうだ。


 ナタリアの方を伺う。ポーカーフェイス。ムムム。


「さて、今日はこの後どうするか、だが」


 狩人組合の建屋を出たところで、ナタリアが尋ねてきた。


(買い物! 僕は買い物に行きたいの! これは譲れないの!!)


 僕は熱烈アピール。報酬は貰えなかったが、しかし金はあるのだ!


「俺は市に行くつもりだ。ナタリアはなにか用事があるのか?」


「市? 買い出しか? 報酬の支払いも保留にされてしまったからな。必要なら先日分に追加で幾らか貸そうか?」


 ナタリアの申し出に、大丈夫だとギークが応える。

 事実、大丈夫ではあるのだけれども、なんでかは説明できない。

 不審に思われなければいいけれど。


「そうか。ああ、オレの予定だな、。オレは例の魔物調教師についての調査を知人に頼んでいてな、それでなにか分かったか確認してこようと思っている」


 ああ、あの胡散臭い祓魔師エクソシスト。そういえば調べてみると言っていたっけね。


「言いそびれていたが、それに関しては俺からも情報があるぞ」


 そしてギークが、廃屋での出来事について掻い摘んでナタリアに説明する。

 悪徳爺の姿になれるのは秘密なので、師匠老婆バージョンで応対したことにした。

 ……現実にそんなバージョンになることはあってはならないが。


「なるほど、やはり教会の関係者か。お前のことを探しているようだった、というのだな?」


 ナタリアが忌々しいという表情をする。

 何か思うところがあるようだ。


「そのようだな。まあ、コロシアムからモンスターが脱走したとなれば、捜索にあたる者が居るのは当然だろうから、そっちは祓魔師としての本業かも知れないが」


「いや、騎士か衛兵の仕事のはずだ。教会の敷地内であればともかく、本来は城内に金属武器を持ち歩けないはずの祓魔師風情が出る幕じゃない。殊に王都の教会の連中は、その辺り傍若無人なようだがね」


 ギークの楽観を否定して、教会に目を付けられたとみるべきだ、とナタリアが警告してきた。

 おかしいなー、わるいことなんて、なんにもしていないのになー。


(ここにもあったであります♪ 大量であります♪)


 ……ギークとナタリアがまじめな話をしている裏で、フレデリカが楽しそうに何かをしている。

 フレデリカはどうも僕の<<地図>>を横から覗けるらしいのだけれど、さっきから周辺探索ミニマップ上に小さな謎光点が出現する度に、それを<<収納>>で回収しているようだった。


(フレデリカ、さっきから何をやっているの?)

(錬成素材が物陰に沢山落ちているのであります。ボーナスステージであります)


 なんのこっちゃ。取得物の横領はよくありませんよ?


 十分に気を付けろと言われつつ、商業区画に出たので、ナタリアと別れた。

 帰りの集合場所は北門前広場、噴水前。


 日中の出入りには今のところちゃんと城門を使っている。

 転移は、明るいうちだと転移際を目撃されるリスクが高めなので、なるべく控えているのだ。


 城内に小屋とか、ちょいちょい出入りしても不自然ない拠点があればいいんだけどね。

 コロシアムに出場する際、変身に使っていた廃屋は、目を付けられたかもしれないからもう使えない。

 ……家でも買うか? 金銭はある。昨夜できた。でもなぁ、金銭の出所を説明できないな。


 ちなみにナタリアへの借金はもちろん返すが、昨日今日ではどうにも不自然な感じになってしまいそうだから、少し寝かせておくことにする。


「で、何を買う気だ」


 ギークが聞いてきた。

 怪盗の衣装! と言いたいところだけど。


(まずは武器を手入れする道具の予備と、消耗品の買い足しなの。最初は鍛冶屋なの。次は靴屋で、雑貨屋寄って、最後に服屋なの。時間は限られているの。さあ急ぐの)


 優先順位的には、こんな感じだろう。武器も靴も使えば痛むわけで、補修が必要だ。武器は言わずもがなだが、今回は遠出したし山も登ったので長靴ブーツがかなり傷んだ。夜叉の姿の時に履いては草履もかなりボロボロ。


 草履は、紐を緩めるだけでサイズを調整できるのでとても便利である。夜叉の姿で靴屋にオーダーメイドを頼むわけにはいかないから、自分でサイズの調整ができるというのが重要なポイントだ。

 ただし耐久性にちょっと難がある。夜叉なギークの足の裏が硬すぎるのと、踏み込みが強すぎるせいなんだけど。


 草履なんて履かなくてもギークは平気だろうけれど、明らかに人じゃない足跡とかを付けて歩きたくはないので履かせている。ま、草履は修繕不可として、破棄して新規購入コースでもいいでしょう。


「おや、別嬪さんだね。まさか武器を買いに来たってのかい?」


 愛想良さげな鍛冶屋のおっさんに、そんな声を掛けられた。


「いいや、武器はもう持っている。手入れ用品が大分へたって来たので、予備を買いたいんだ」


 ギークが普通に応対した。


 新しい金属武器にも興味がある。ま、でもCランクハンターに購入できるのは三級品(コモン鋼)の武器だけだ。新調するならBランクに昇格してからの方がいいだろう。

 武器が三級品(コモン鋼)だろうと二級品(レーア鋼)だろうと、<<錬気纏い(エンチャント)>>のような強化系統のギフトを使うのでなければ、それほどの差はないとも言うけれどね。


 というかそう、バリードを見て思ったけれども、やはり武器でモンスターと戦うのなら、<<錬気纏い(エンチャント)>>は覚えたいものだ。あれがあるのとないのとでは、威力が段違いなのだ。


 しかしなあ、ギフトをいざ覚えようと思うと、真っ当な方法としては教会に行くしかない。

 教会に寄進をして、<<授与の儀式>>を受ければギフトを授かることができるだろう。でもねえ。


 まあ、あるに越したことはないが、どうしても欲しいというほどのこともないわけで。

 保留かな。競売オークションとかで、ギフトの種がもし出品されるようなことがあれば即買いだけど。


「おっと、まじめにハンターなのか。悪い悪い、まさかアンタみたいな若くてきれいな別嬪さんが、Cランクにまでなっているとは思わなくてな。得物は何だい? うちは矢師でな、剣とか鎗とかは扱ってないが」


 看板見て店に入ったんだから、弓矢関係の鍛冶師なのは知ってますよ。

 というかまあいいや、弓の扱いはギークの方が詳しい。買い物は任せよう。


 そうだ、競売オークションだよ競売オークション。王都なんだから、競り市とかどこかでやっているはずだよね。存在を失念していた。

 掘り出し物の競り市とかなら、普段は売ってないようなものでも売り買いされるはず。

 懇意の商人とか、作っておきたいものだ。そうすれば、薬とかいろんな素材とか、欲しいものがあれば狩りに出掛けている間に仕入れたり競り落としておいてもらったりができるだろう。


 そしてそれは、できればナタリア経由でない方がいい。ナタリアに金銭収支の説明をするのは避けたいから。師匠の姿ではなくて、悪徳爺もしくはその若作り版とかの姿で、そっち方面の人脈を作っておきたいところだ。


 鍛冶師から注文した商品を受け取り、次の店に移動しながらギークと打ち合わせ。誰か商人の知り合いとか作っておきたいというと、ギークが答えた。


「フラッゲンには商売の心得も多少はあったようだ。自分が商人になるというのはどうだ? 買い付けの名目で、小麦の山でも、牛でも、羊でも、金銭さえあれば違和感なく買えるようになる」


 あー、確かに若かりし悪徳爺は商人っぽい見た目をしてたな。

 商人ならレジェ鋼貨も扱えるし、いいアイデアかもしれないです。

 理由が食い物寄りなのがアレだけれども。


(またあったのであります。所有者登録もされていないし、良い拾い物をしたであります)


 ギークのやっていることや、僕の考えていることとは無関係に、フレデリカがまた何か呟いている。

 この子はさっきから、一体全体なにを拾っているのだろうか。


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