表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国のお土産  作者: トニー
第五章:王都と怪盗
110/160

5-13. 教会の金庫と水薬、なの

 僅かな月明かりに黒々と聳える教会の陰を見上げるのは不審人物の影である。


 羽織った外套の下は全裸だし、その外套はブカブカだし。

 背負っているのは目の部分に穴の開いたズタ袋を被ったフレデリカだし。


 もうこれ以上なく怪しい感じだ。

 これ以上なく怪しいですよね。どうしましょう。


 暗いから平気かなと思ったんだけれど、そういう問題でもない気がしてきた。


 まあ、今回はもう仕方がない、これで行くとして、今後については何か考えたいですね。

 具体的には、怪盗のお約束で変装グッズをもう少し充実させるとか。


 あー、ギークの変身、<<手弱女の化粧>>だったか?

 年齢別に髪型とか服装とか上手く個性付けして、二十一パターンくらいバリエーション作れないかな。

 ハハハハハ……、さらばだ明智くん、また遇おう! バサバサバサ。


「ここからで良いか?」


 ギークが訊いてくる。

 地図上のマーカの位置を確かめて、僕が応える。


(んー、塀伝いに、右手方向に回り込んでからの方が、距離が短くて済みそうなの)


 実は夕方、まだ信徒たちの出入りがある時間帯に、この教会を一度訪れている。

 有体に言って下見に来たのだ。下見は大事だ。


 その時は、ギークには師匠でも悪徳爺でもない、第三の容貌になってもらった。

 その必要があったのかといえば微妙だと思うが、まあ実験を兼ねてである。


 具体的に言えば、若返った悪徳爺。

 これがまたね、市井な服を着せるとそこらに居そうな若商人ルックなんですよ。

 いっそそのまま商人組合にでも加入しようかと思ったくらいに。


 商人ならば、そこそこの大金を所持していても、不自然さが割引されるだろう。悪くないアイディアだ。

 商売の知識なんて全然ないけど、別にそれっぽく振舞えればそれでいいわけだし。

 なんだかそれ位なら、悪徳爺の記憶を参照して、今のギークなら卒なくこなせそうだ。


 Cランクのハンターは、日々カツカツな収支で生きているものが大半だという。

 そうであるはずの師匠の姿で急に金遣いが荒くなれば、疑ってくださいとアピールするに等しい。

 ハンターがこんなものどうするのかというようなものも買い難い。


 商人としてであれば、例えば百人前の麦を纏めて買い込んだところで、違和感は少なかろう。

 まあその辺りの今後については、それこそ今後で考えていけばいいことだろうけど。


 その変装で教会を訪れ、ナタリアから借りた金銭、義肢の料金を払った残りを教会に預けた。

 ウルレ鋼貨の何枚かに、地図のマーカを設置した上で、である。


 目的はもちろん、金庫の場所を探るため。

 僕が今、確認しているのは、その鋼貨に付けたマーカの位置である。

 それらは、一所にまとめて置かれている。きっとそこが金庫の場所なのだろうと予測された。


「ここだな。人目は?」


(問題なし。ああ、でも頭巾は取らないでね。夜でも昼のように見渡せるとか、遠方の出来事でも目の前で起きているように把握できるとか、そういった類のギフトで監視されている可能性はあるからね)


 僕の答えを聞いて、ギークが訊ねてくる。


「そうすると、脱出する時は違う場所から出たほうがいいのか?」


 なんで?


「もし万が一、誰かが見張っていたなら、俺が隠形を使った途端、姿がここで突如として消えたように見えるわけだ。戻ったときには、人を呼ばれてしまっているかも知れん」


 あー。


(脱出先で誰かが待ち構えていれば、僕には分かるはずなの。だからきっと大丈夫……)


 なのと言おうとしたところで、フレデリカに割り込まれる。


(ご主人様、地図の探査レーダーの性能を過信するのは危険であります。こちらが地図持ちだと露見すれば、電波を吸収する素材で身を隠す等の方法により、対策される可能性があるのであります)


 うん。と、言うかですね、フレデリカを同行させている以上、これはそもそも悩む話じゃないな。


(……帰りはフレデリカの<<転移>>で、城外のキャンプにひとっ飛びでいいと思うの)


 ということで、ザックリと脱出経路の確保も済んでブリーフィング完了。


 外套を羽織ったまま、ギークが夜叉の姿に戻る。

 身長が伸びた他、体格全般一回り大きくなる。

 ブカブカだった外套がちょうど良いと感じられるサイズとなった。


 大きく息を吸い、そして留めて、ギークが隠形を開始。

 色調のおかしい、万物が陽炎のように揺らめく奇怪な空間に、ずるりと入り込む。


 つまりはここが、ズレた世界。

 ギークは今、足は二本生えてはいるものの、幽霊のようになって宙に浮かんでいる。


 進みたいと思った方向に進むことができる。

 帰還できなくなると困るからやらないが、おそらくは地面の中にだって入り込めるだろう。


 教会の塀をすり抜けて、塀と建屋との境を抜け、そのまま建屋の中に侵入した。

 教会だけに、神のご加護的な、邪悪を退ける結界でも張られていたりはしないだろうか。

 内心でそんな可能性を考えないでもなかったが、完全に杞憂だったようだ。


 スムーズに内側へと入り込むことができている。

 やはり神など幻想なのだ。


 壁を無視して鋼貨のマーカ目指してフワフワと進み、すぐに金庫の設置されている部屋に到着した。

 周辺に生き物の反応ない。目視確認でも警戒すべきなにかは、特には見つからない。


 部屋は長方形で、出入り口のドアの対面に、金庫の扉が据え付けられていた。

 金庫は正面扉以外、全てが壁に埋め込まれている。

 さすがに堅固な造りだ。


 せっかく金庫を購入して貴重品を仕舞っても、固定せずに単に設置しただけだと、金庫ごと丸ごとで盗まれてしまったりするというが、これではそんな真似は不可能だろう。

 壁を崩して、金庫の固定具をどうにかしてだのとやっていれば、騒音で誰かしらに気付かれてしまう。


 部屋の中は当然に暗闇。

 明かりらしい明かりもないが、ギークの目はそれなりに部屋の様子を捉えていた。

 侵入を果たしたのだから、隠形を解除する? いいえ、まだやることがあります。


 背負っていたフレデリカの体を下ろし、抱きかかえるというか、甲羅を掴んで両手に持つ。

 物体を透過できるってのは便利だ。そのままズボッと、フレデリカの首から上を金庫の中に突っ込んだ。


 うわー、酷い絵だね!

 まるで金庫から河童の胴体が生えてでもいるかのよう。

 うん、ミミックの一種かも知れない。


(回収完了であります。抜いてほしいのであります)


 目視、あるいは僕が地図でマーキングしたものであれば、フレデリカは<<収納>>することができるというから、じゃあこれでいいやという、簡単金庫破りである。

 苦心して堅牢な金庫を拵えたに違いない職人さん、ゴメンナサイね。


 フレデリカを金庫から引っ張り出して、隠形を解除。

 ギークが静かに息を吐いた。隠形始めからここまで数分、ギークにはまだ余裕がありそうだ。


(さて、ひとまず目的達成なの。もう撤収でもいいのだけれど……)


 僕は部屋の中をぐるりと見渡す。

 左右の壁には棚が据えつけてあって、水薬ポーションのビンと思しきものがズラリと並んでいる。


 これは何だろう? 興味を惹かれるね。


 金庫同様に、重要なものだからこそ、ここに安置してあるのだろうし。

 もしかして河童の妙薬を遥かに凌ぐ、天上の霊薬とかそんな感じの何かだったりはしないだろうか。


(フレデリカ、ここにあるビンの中身、何だか分かるかな? なの)


 癒しの薬もあるのだろうが、普通に毒薬なんかもありそうだ。


(容器に密閉されている状態では、確かなことは分からないであります)


 そうですかー。

 うーん、手に取ってみる?


(でも多分、ここにあるのはほぼ全部が、人間かモンスターかの血液、またはそれを原料にしたものかと思うでありますね)


 うえー。恐ろしいことをフレデリカが口にした。

 それって一体どういうことよ?


 血? どうするのよそんなもの水薬の瓶なんかに入れてさあ。

 飲むの? 聖書の一節にあるじゃないのよねえ。


 あなたがたは、どんな肉の血も食べてはならない。

 すべての肉のいのちは、その血そのものであるからだ。

 それを食べる者はだれでも断ち切られなければならない。


 自分たちが奉じるおきてを自分たちが蔑ろにするから、教会はクズなんだよね。

 火でも付けてやろうか。


(そう言えば薬と言えば、青鬼を狂わせた薬の解析? って、結局どうなったのだっけ?)


 なんとなく思い出したので訊いてみる。

 訊ねて見てから、今する話じゃないなとちょっと反省。


(効用で言えば、モンスターのレベルやランクを無理やり引き上げるものであります。鬼族専用として調合されたものでありました。経口では無効、投薬対象はアッパー系の麻薬投与に類似した反応を示すと推定、数度の投薬では理性が奪われるようなことにはならないでありますが、効果もそこまでは出ないものであります。あの青鬼は長期に渡り過剰かつ継続的に薬剤を投与され、限界までランクアップさせられた結果として、ああなったようであります)


「なにかの食い物を喰ってああなることは考えにくいということか?」


 ギークがひそひそ声でフレデリカに質問。

 ごめんなさい。もっと別の機会にするべき話でした。


(少なくとも、青鬼はなにかの食べ物のせいでああなったわけではないであります)


 はい、えーとそれでは、この胡散臭い水薬らしきものも、内容精査の為にとりあえず二本ほどかっぱらっておくことにしましょうか。

 火をかけるのでなければ、もうこの金庫室? の中身全部を根こそぎにしてしまおうかと、ちらっと思ったんだけれどもね。

 でもそれをしてしまうと犯人は銀魔法の使い手だと断定されてしまいそうなのでやめておく。


 普通できることではないものね。

 そんな大荷物を抱えて誰にも見咎められずに、とか。


 さて後はもういいかな?

 でもね、このまま単に、じゃあさようならというのも芸がないと思わない?

 怪盗たる者、やはり犯行現場にはサインくらい残しておきたいよね。


「不要だろう。何のためにだ」


 なんでしょう? お約束?

 潤いのある人生の為に……


 残念ながら、ギークの抵抗に遭って実現せず。

 ちぇー、である。

[INFO] 森林の神霊により、非実体化を開始します。

[INFO] 森林の神霊により、非実体化を解除します。

[INFO] 現在の状態を表示します。


 ギーク

  夜叉ヤクシャ Bランク Lv13 空腹(忍耐)

 【ギフト】

  不死の蛇 Lv3

  唆すもの Lv--

  地図 Lv4

  引戻し Lv3

  制圧の邪眼 Lv2

  <---ロック--->

  <---ロック--->

  <---ロック--->

 【種族特性】

  永劫の飢餓(継承元:餓鬼)

  暗視(継承元:小鬼)

  忍耐の限界(継承元:鬼)

  手弱女の化粧(継承元:妖鬼)

  森林の神霊


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ