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天国のお土産  作者: トニー
第五章:王都と怪盗
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5-12. 怪盗爺の仕事始め、なの

 ドラゴンは鋼鉄さえも溶かすブレスを吐く。

 巨人ジャイアントは近寄るもの全てを凍てつかせる冷気を纏う。

 大鯰は地震を起こす力を振るうというし、麒麟は落雷を自在に操るのだとか。


 高ランクのモンスターは、ギフトに劣らない、超自然的な現象を引き起こす力を備えると言われている。

 その域に至ったモンスターなんて、もちろん普通に暮らしていればまず遭遇する相手では無い。

 実際に体験したのは、これがはじめてのことだった。


 王獣グリフォンは、突風を引き起こし、竜巻を放つ力を持つらしい。

 いやはや何とも、酷い目に遭った。


「ここは? 王都の城外か。見事なものだな」


 予告なしの転移だったが、ほとんどバランスを崩すことなく器用に着地して、ナタリアが呟いた。

 ギークは、フレデリカを背負い、テンテンを小脇に抱えている。

 暴風に呑まれてまともに行動できない状態だったため、体制を立て直すべきと判断して、ともかくいったん転移で撤収することにしたのだ。


「ちょっとーっ、もうっ、降ろしなさいよっ」


 ぱたぱたとテンテンが暴れるので、ギークは腕を離した。

 ポテンと、テンテンが地面に落下する。


 非難がましく見上げてくるテンテンはさらりとシカトし、ギークが外套を被ってしゃがみ込む。何をしてるのかと一瞬だけ思ったが、すぐに分かった。そうだね、師匠の姿に戻らないといけないね。城外とは言え王都の側だ。どこに人の目があるとも限らない。

 正直、王都まで戻って来る必要はなかったと思うが、フレデリカと細かく転移先について打ち合わせをしている余裕はなかった。「いつもの場所」指定でここである。


「あれでは撃墜は難しいということで、撤退させてもらったが、どう思う」


 師匠の姿に戻ったギークが言う。外套の下は全裸である。

 夜叉の時の装備は、サイズが違いすぎて、地面に落ちている。

 装備と言っても単なる腰巻なのだが。


 どうかとは思うよ? でも採寸して作ってもらうわけにはいかないので仕方ないのだ。

 もうちょっとこう、何とかはしたいんだけどね。


「そうだな、まずはいい判断だっただろう。あれでは地上からの攻撃はまともには通らない。あのサイズでは、テンテンの蹴りが仮にまともに入ったとしても、恐らく墜落には至らなかっただろう」


 ナタリアがそう言って、テンテンが続く。


「見付けた時、背後から流星脚シューティングスターを仕掛けたんだけど、躱されちゃったわ。たぶん、風の動きとか、そういうのを把握しているんじゃないかしら」


 やっぱりか。

 テンテンの流星脚(アレ)がまともに入ったにしては、威風堂々と登場しすぎだと思ったよ。

 マーキングした時のマーカの色も、どうしようもなく青か(無傷だ)ったしな。


「ならばどうする? 諦め(キャンセルす)るか? いちおうあの高原にはいつでも戻れるだろうから、陰府だったか? そこにいく際の近道ショートカットは作れたことになるが」


 言ってから、ギークが「戻れるであっているか?」とフレデリカに尋ねた。


(大丈夫であります。高原に上る少し手前にあった大岩を目印にできるであります)


 ギークの発言に、ナタリアが応える。


「飛んでいるところを落とすのが難しければ、巣に帰ったところを襲うのが定石だろう」


 フレデリカの方を見て、言葉を続ける。


「<<地図>>で居場所も掴んでいるんだろう? 今は警戒されているかもしれないから、少し間をあけた方がいいだろうが」


 成程。寝込みを襲おうってわけですね。こんな美女二人に寝込みを襲われるだなんて、なんてラッキーなモンスターでしょうか。

 あ、でもその時にはギークの格好は夜叉になっているか。


「では、明日か?」


 ギークが問う。


「そうだな。明日の昼過ぎに、向こうに移動する感じでいいだろう。グリフォンは夕方には巣に戻るのが普通だからな。普通は巣の場所を見つけるのに苦労するところだが、<<地図>>があるなら楽でいい」


 地上からたどり着ける場所にあればいいけどね。

 まあ、テンテンが居ればいざとなれば引っ張り上げてもらえるかな?


「なによ?」


 テンテンが、厭そうにギークに尋ねる。でも、ギークはナタリアの方を見ている。

 あれ? 僕がテンテンのことをじっと見ていたせいか? 視線まで?


(王獣の巣が登れないくらい高い山のてっぺんにあった場合に、テンテンの力で運んでもらうことは可能なの?)


 折角こちらを向いてくれたので、訊ねてみることにした。


「テンテ……」

「ムリ。短い時間ならともかく、ずっとなんて抱えてられない」


 僕の発言を、いつもの通りそれを訊ねて欲しいと解釈したギークが、問い掛けを全て口に出す前に、テンテンが回答した。


「? どうした」


 ナタリアが訊いてくる。そうだろうね、意味不明なやり取りだし。


「ナタリアー」


 テンテンがナタリアの側にてててと駆けて行って、じゃれつき始めた。

 おいおい。会話しろよ。


 あー、ザイルとかハーケンとか用意しておいた方がいいかもしれないね。

 聖騎士アデスが霊山でロッククライミングするときに使ったような奴。


 ア、アニキ! そのロープ、なんに使うんでヤンスか?!

 ま、まさかアニキ! それでこのアッシを亀甲縛りにしようってんじゃ??!

 うおおおお! その悍ましい形の杭を、ああああアニキ! 一体それをどうなさるんで?!!


 ……今思うに、あの本ぜったいダメな類の本だったよね。

 聖騎士の冒険活劇が読みたいといったら、クラナスが仕入れてきてくれたんだけどさ。

 クラナスは商人にいったいどういう注文の仕方をしたのか。


「ふむ、ではそれまでは待機ということだな。では」


 ギークが何か言いかけたところを遮って発言する。


(はい、はーい、今夜ヒマになったなら、僕は行きたいところがあります! なの)


 なんだ? とギークがジェスチャーで聞いて来たので、応える。


(教会に、預けた金銭(・・・・・)を引き出しに行きたいの。僕たちはグリフォン狩りに行っているはずなのだし、今なら万が一があってもアリバイばっちりなの!)


 ちなみに、テンテンにも僕の声は聞こえているはずだが、基本的にリアクションがない。

 どのよう思われているのだろうか? 多少、気にならないでもない。


 ギークが心の中では女の子な声でなのなの言ってるキモイ奴、とか思われていたらどうしよう。

 ……うーん、まあ、それはでもどうしようもないかな!

 説明とか面倒だしね。



 ◇ ◆ ◇ ◆



 王城は三重の城壁で護られている。

 一番外、三の壁が、そのまま王都そのものを囲う外壁だ。


 三の壁と二の壁に挟まれた区画に住まうのが中流階級の都民たちである。

 二の壁の内側は貴族たちの居住区。当然に警備は厳重で、許可なく立ち入るだけで庶民は死罪だ。

 一の壁の内側には言うまでもなく、王とその家族、そして侍従たちのための施設がある。


 余所者や下流階級の住民たちは城外の居住エリアで寝食することになるが、元は貧民窟スラムであったのだろうその場所は、それなりにしっかりと整備されており、きちんとした街の様相を呈していた。港町モーソンのように、城外の居住地≒貧民窟スラムというのとは状況が違う。そしてこれぞまさにという貧民窟スラムは、そこよりも一段低い場所に、別にひっそりと存在していた。


 狙うのは、三の壁と二の壁に挟まれた区画に建つ教会群。

 そもそもコロシアムがあるのもこの場所で、件のインチキが誰の企みかというなら、この区画にある教会の誰かが目論んだことに違いなかったからである。

 その特定個人だけを狙うべき? 何言ってんだかわかりませんね。組織犯罪なんだから連帯責任が当然です。世界の常識、世界正義といってよいでしょう。とはいえ明らかに教区が違う場所にまで手を伸ばすのは、慈悲の心で控えておいてあげますよという、この僕の慎ましさがどうしてわかりませんかね。


 事前の検証で分かったことも含めて、ギークの夜叉としての種族特性を改めて整理する。

 認識違いがあればご指摘ください、である。


(まず、ギークは隠形によって、誰にも見咎められない状態になることができるの。この状態でいるときは、ふわふわ浮いたような状態になって、空だって飛べるの)


 そう、幽霊のように。ウ〜ラ〜メ〜シ〜ヤ〜、だ。

 これに対して、フレデリカが注意喚起。


(銀魔法の<<走査>>で看破されてしまうであります。例えば私であれば、お館様が隠形されていても、どこにいるのかを検出できるであります)


 はあ、成程。銀魔法には要注意と。

 先のナタリアのリアクションから考えても、使い手なんか他はいないと思うが。


(この状態でいるときには、ものに触れることができないの。その代り、壁でもドアでも好きなようにすり抜けることができるの。神出鬼没なの)


 ますますお化け。足はあるけど。

 で、そうだな、とギークが頷く。


(一方で、この状態では呼吸もできないの。息を止めていられる時間以上は、隠形状態ではいられないの)


 ここで河童が補足。


(亜空間に出入りする際は、入りと出の両方で多大なエネルギーを要求されるであります。エネルギー枯渇寸前の状態で隠形に入ってしまうと、出ることができずにそのまま酸欠で死んでしまうことが懸念されるのであります。要注意であります)


 ……怖ッ


(私が同行していれば、注意喚起が可能でありますし、銀魔法でいうところの<<接続>>で強引に通常空間に戻して差し上げることが可能であります。なるべく私を同行されることをお勧めするであります)


 ……何か下心とかないか? 本当のことを言ってる?

 まあいいけど。


 <<収納>>を使ってもらう必要があるからね。

 元々連れていくつもりだったし。


(隠形状態になるためには、夜叉の姿に戻る必要があるの。師匠や悪徳爺の姿では使えないの)


「多少語弊があるな。使えなくはない。だが、使おうと思うと物凄い頭痛に見舞われる。それを我慢すれば使えるぞ」


(おすすめしないであります。その「耐え難きを耐え堪える」のもお館様の種族特性でありますが、エネルギーを消費して実現していることであります。それをしてしまうと、亜空間にいる状態で魔素切れになる危険性が跳ね上がるであります)


 つまりは、まあ使えないようなものだと。

 こんな所かな? それを踏まえると、やはりこれが一番ベストということになるのか。


(一枚捲れば爺の裸とか、誰得って感じなの……)


 ギークは今、悪徳爺の姿で、外套を羽織っている。その下は全裸だ。何故と言っても、夜叉の姿に変わった際に、普通の服を着ていては破けてしまうからである。

 この外套は、師匠の姿の時に普段使っているものではなくて、妖鬼デーモンオーガの姿で行動するときの為に用意しておいたものだ。よって、夜叉の姿になった時に破けてしまう心配は不要である。しかしその代償として、つまり現時点ではまるでサイズが合っていないということでもある。


 ブカブカの外套を全裸で羽織って、夜の街を徘徊する痴漢爺の図。

 夜叉として目撃されるのとは違うベクトルで、目撃されるわけにはいかない緊張感がある。


 ああダメだ。ほぅらシスター! ガバァッ。みたいな光景が脳裏から離れてくれない。

 違うんです。そんなつもりはないのです。


 あらあら、こんなに腫れ上がってしまって、お可哀想に?

 ちがう! 違うぞ! そういう目的じゃない!!


 早急な改善が望まれる。

 痴漢爺が性犯罪者として指名手配を喰らう前に、出来るだけ早く(ASAP)だ。

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